91 療養することに
結局侯爵家一択の気がする。そう思ってしばらく安静にして身体を休ませた後は侯爵家で身体が動くようになるまでに療養するということに決まっていたような気がする。イザークがほぼつきっきりということを除けばこんな神殿の個室で療養できることに感謝もしているが支払いのことが気になった。口を開く前にイザークから公爵家が支払うから気にする必要もない。ということを先に言われてしまって布団に蹲って色々甘い空気になるのではないのか???と、少し警戒していたのだけれども、彼は神殿にいる間はそんなことが全くなかった。変なことを考えて申し訳ないと思いながらも侯爵家に移動することになった。
移動が抱き上げられてというのがかなり恥ずかしい。いや、歩けるけれど、足元おぼつかないし、転びそうになったのでこれが安全策なのは理解しているけれど、かなり恥ずかしい。誰もお見舞いというのには来なかったのだが、それもそれで怖い。四六時中つきっきりではないにしても邸で会った時になんと言われるか。抱き上げられていることにも慣れてしまっている。それがまずい気がする。
「ミカエラ、どうしました?」
「これに慣れてしまっている気がするのですけれど。」
「いいじゃないですか。私は嬉しいですよ?何が困るのですか?」
「・・・いいように絆されてる気がする。」
「ですから求婚を受けてください。」
「すぐに求婚に結びつけないでください。」
「まだダメですか。」
まだダメって。しばらくダメですよ。当たり前のようにぬいぐるみ扱いしないで欲しい。仕事が溜まっていそうだ。折角落ち着いて少し自分の時間も取れるようになってきたのに。こんなことになってとても残念だ。しょんぼりと息を吐きだす。ミカエラはため息をつきたいがちょっとだけ息を吐き出す。
「どうしました?」
「仕事がまた山積みになると思ったので。」
「もともと納期未定ではないですか。」
「そうですけれど、また仕事が溜まるのが嫌なのです。私、誘拐された後の対応はダメだったのですか?」
頭をポンポンと撫でられた。最善の被害者のなり方なんて知らないし、結果としてこんなに怪我をして迷惑をかけているわけだし・・・これの救出の責任とか費用請求で婚姻とか言われないかな。今回の件で迷惑をかけたのは間違いないし。なんて言われるだろうか。誤解でもなく当たり前のように求婚しているのだからもたれかかったところで彼は何も言わないだろう。力を抜いてもたれかかるとニコッとして少女を腕の中に収める。
「ご機嫌ですね。」
「役得と思っていますよ。」
「そうですか。もっと怒られるかと思っていたのですが。」
「貴方に非がないのに怒ってどうするのです?怒られると思っていたのですか?」
「だいたい私がやらかしてこういうことになるかと思ったんです。」
怒られないならまだ気楽だ。自分の手を見つめてにぎにぎと手を握ったり放したりするが感覚は戻っていない。どれだけ痛めつけられていたんだ。キチンと治るのだろうか。それが不安だ。
馬車でガタガタと揺られてロズウェル侯爵家にまたお邪魔することになる。いつもの別邸のよく借りていた部屋に通されるのだが、人も配置されているし、アリアまでいた。
「ミカエラ様!!!」
「あれ、アリア???家は???」
「管理だけになるので他の人間に任せました。セシルさんにはお話をして箱にしまって工房に置いています。あと、工房の鍵です。」
貴重品を入れる箱に魔力で封をする。それはいいのだけれどもメイド2人に身体を磨かれたり髪を丁寧に洗われる。慣れてしまっている。
「ミカエラ様、どこをどうしたら誘拐になるのですか??」
「私が聞きたいよ・・・」
「お屋敷からミカエラ様が誘拐されたと連絡があって、戸締りとか色々ものを運んだりしていたんです。しかも神殿で数日療養してからなんて・・・どれだけ大怪我されたのですか。」
「・・・よくわからないくらいバカスカ殴られて骨も色々折られた。」
「ミカエラ様、ユーリ様より思う存分甘やかすようにと申しつけられていますのでお覚悟を。」
嘘でしょ。
侯爵家の甘やかしなんて怖すぎて逃げたいんだけれども。それをいうと多分更にマシマシで色々至れり尽くせりになるに違いない。
お任せする。と、アリアに身体を委ねると丁寧に身体を磨いてもらい、身体の筋肉が固まっているのでマッサージで筋肉をほぐしてもらう。腕は比較的マシになったので腕や身体を動かす。
歩くのが1番辛い。骨折と腱を切られたのが大きい。楽な服装でミカエラは部屋に来たイザークを見上げる。口元に1口サイズの果物を押し付けられた。
美味しい。
「歩くのに苦労してますね。」
「思ったより苦戦してます。ダンスとか踊らなくて済む理由にはなりそうです。」
自分のダンスの残念さは分かっている。多少足が不自由でも仕事には影響がない。
「誰が誘拐を企てたとか興味無いのですか?」
「はい。どうでもいいです。また何がおきても助けて下さらないのであれば知って足りない頭で自衛を考えますが…」
「目の届く範囲なら助けますよ。」
「…/////そう言えば確かめないのですね。暴漢に襲われた事の中身。」
「血の匂いはしましたが、それだけなので。外傷だけですよ。男の匂いがしたら私がここで大人しく看病に回るわけないでしょう?」
食べ終わり器を渡すと頭を撫でられた。さて、甘えるべきなのか、どうしようかな。
「ミカエラ?」
「…怖かったです。」
「はい。」
「殴られるのも平気じゃなかったです。」
「こういう場合成人男性全般が苦手になるかと思ったのですが…」
「頭で分かってても怖いものは怖いですよ。」




