92 進展
あまり触れてこないないのはそういうことを知っているからなのだろう。リンゴを手に取ってエイスで彫刻を施すが思ったように削れない。困ったな。もう少し練習をしないと。食べるために切り分けて食べるけれどじっと見つめられている。
皿を差し出すが食べないらしい。一人で食べるか。お腹はそれなりに空いているんだよなぁ。食べ終わるとハンカチを渡されたので指先を拭う。
「もっとべったりかと思いました。」
「してもいいならしますけど。」
当たり前のように言って来た。
ミカエラは人払いはされている。と、部屋を見渡す。
「どうべったりされるのです?」
「ベタベタ触りませんよ。」
「じゃあ、お昼までなら…ご迷惑お掛けしましたし…」
それでいいのか?多分いいはず。私が嫌だというわけでもない。何をしてくるのか少しだけ身構えた。こんなに身構えていただろうか。そういうのが伝わっているのかイザークの距離が近いのに何もない。
「警戒しているのではないですか。しばらくやめておきます。」
「・・・そうですか??」
手を伸ばされて頬を触れるだけでこわばってしまう。それなりに深刻なようだ。まぁ、男にバカスカと殴られていたら恐怖心とか色々思ってしまうのか。ミカエラは自分で考えたけれどどうしたものかと彼を見上げると悲しげな表情を隠しているように見えていた。
「表情を隠すのが下手くそということですよね。」
「多少はできていますよ。仕方ないですよ。成人男性に暴行を受けていたのですから。」
「・・・」
「まずは自分の仕事に戻れるように手足を動かすことができるようにするべきです。納期に関してはこちらでなんとかいたしますから。」
それはどういう意味なのだろう。とりあえずなんとかしてもらえるならそれに甘えよう。とりあえず毎日散歩をして歩く練習をして手先を前と同じように動かせるように手を動かす。
「ミカエラ様、杖を使ってみますか?」
「こんなに時間かかるものなの?」
「鍛えている騎士でも7日かかったりするようなので。」
思っていたよりも時間がかかるらしい。仕方ないかもしれない。それに侯爵家のお金で神官様を呼んでもらって検診という名の治療らしい。職人だからと手を中心に見られる。
「指が思うように動かないんです。」
「細かい作業をされるならもう少し時間がかかりますね。」
「な・・・」
「足の方が重傷なんですけれど、もしかして神聖属性持ちでしょうか?」
「えぇ・・・」
それからおそらくと言葉を濁しながら言われたのは無意識に私が自分の魔力で応急処置をしてしまったのか中途半端に治療をしてしまったせいで足が完璧に戻るには少しどころかだいぶ時間がかかりそうだと。手もその影響を受けていると言われた。まさかの自分の魔力で悪い方向に治癒をしてしまったようだ。治癒をかけ直してもらったが何もしていない時よりも傷の治りはゆっくりになってしまうらしい。他の属性なら勝手に応急処置なんてしないが、殴られて命の危険があったから身体がそうしてしまったのだろうと診断を受けた。治らないわけでもないし、治るから地道に手足を動かして治していくしかないと言われた。
困ったけれどそれならそれで地道にどうにかするしかない。絵を描いたり手を動かす練習で刺繍をする。それよりも男性に対して身体が強ばりがちなのをどうにかしないとヘラルド様の愛人契約の仕事が出来なくなる。
ため息をつく。身の振り方を考えないといけないかもしれない。ヘラルド様のお仕事のお付き合いに関しても色々と。
部屋では人払をして読書から指先を動かす練習、歩く、走るをして足がきちんと動くのを確かめるのだが、転んだりする。しばらくは杖をついて歩く練習になりそうだ。
「杖使うのですか。」
「なんですか、イザーク様。問題ないかと思うのですが。」
「私が横を歩くのであれば不要でしょう。」
さも当然のように言われた。一瞬そうかもと思ってしまった。全然そんなことないのに。それよりも一応聞いた方がいいのだろうか。ユーリ様やレオンハルト様とも挨拶程度しかしていない。それ以上といってもすることがないのだけれども。イザーク様がそれなりにつきっきりな気がする。
「そんなことないですよ。多分。」
「誘拐されて戻ってきた手前しばらく厳重警護が必要だから私がついているだけです。実行犯は捕まえましたが、指示した貴族や目的などが不明確なので。」
「そうだったのですか。なら邸からも出られないですね。」
杖をついて歩く練習をしてとりあえず邸内を自由に歩けるようにならないとまずい。やりたいこともできなくなる。合わせて指先の練習だ。仕事になる用にしないと。
「暇つぶしのものでも用意させますが?」
「身体を動かす方が重要なので。杖の使い方も含めて横についててもらえますか???」
リハビリには時間がかかりそうだ。




