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「ラヴェーナの冒険者たち」

下書きで投稿し忘れてました

 石畳の感触が、足の裏に伝わってくる。


 このラヴェーナという名の街の大通りは広い。

 両側に木造の建物が並び、看板がそこかしこにぶら下がっている。鍛冶屋、薬草屋、革具店——そして至るところに、剣や盾を背負った人間が歩いていた。


「うわあ……!」


 セリアが立ち止まった。

 目の前を、鎧を着た大柄な男が当たり前の顔で歩いている。その隣を、杖を持ったローブ姿の女性が小脇に本を抱えて追い越していく。


「本物の冒険者だ……!」


「フンフン、すごいですねここ……!」


 リナリィもアウラも、きょろきょろと周囲を見渡している。


「あの人、魔法使いですよね!?杖持ってる!」


「みたいだな」


「へ~!精霊御子とかはいるのかなぁ!」


「精霊御子?」


「ん-と、精霊を身に宿して祭事を行う人?」


「あー、リナリィの世界の神主とか巫女さんみたいなもんか」


「そんな感じなのかな?」



「精霊御子はまだ見た事ないなぁ、ガレディアモデルの世界はだいたいこんな感じだ。魔法使い剣士ヒーラーあたりは普通に歩いてるな」


「ソウマさん、来たことあるんですか?」


「一回だけな。細かい違いはあるけど——雰囲気は似てる」


 ハンナが周囲に視線を走らせる。


「私も一度だけ。このモデルは、漂流者(ドリフター)が出やすいんですよね」


「へえー!」


「夢で来る人が多いって……言われてます」


「えー?なんで?」


 ハンナが少しだけ間を置いた。


「……憧れ、じゃないかと」


「あ~!!なるほど!!」


 セリアが膝を打つ。


「確かに夢で見そう!こういう世界!」


 リナリィが奥を指差した。


「あれ、なんだろ!?大きい〜!!」


「ギルドだな」


 石造りの建物。

 剣と盾の紋章が、扉の上で光っている。

 鉄と土の匂いが、風に混じる。


「冒険者ギルドか…とりあえず一回入っておこうか。情報が集まる場所だしな」


「わかりました!」


 セリアが先に歩き出した。


「行くよルシオ!」


『はしゃがないでください』


「はしゃいでるわけじゃないって!」


『肩が上下しています』


「それは早歩きだって!」


 そのやりとりを見て、ハンナが小さく微笑んだ。

 ソウマが二人の後ろを歩きながら、何気なく周囲を見渡した。


 街は普通だ。

 活気があって、騒がしくて、どこにでもある冒険者の街の顔をしている。


 今のところは。


『ソウマ』


 メリルが小さく呼んだ。


『……なんか…鼻がムズムズする』


「ムズムズ…波動を感じるって事か?」


『わかんない…なんだろ?』


「んー…(オーウォー)かフェデーレか…判断出来ないな」


『ごめん、変に紛らわせちゃった』


「いいさ、まぁとりあえず今は行こう」」


 石畳を踏む音が、四人分、賑やかに響いた。


 ギルドの扉を開けると、一気に喧騒が押し寄せてきた。


 広い室内に長テーブルが並んでいる。


 地図を広げる者、依頼を受注している者、達成報告をしている者もいる。

 様々な冒険者たちがひしめき合っていた。


 奥の壁一面に、紙が貼り付けてある。


「お、依頼書だ」


 ソウマがそう言うと、セリアが真っ先に駆け寄った。


「魔獣討伐……魔獣討伐……また魔獣討伐……ほぼ魔獣じゃん!」


「すげー多いなぁ」


「ガレディアモデルってどこもこんな感じなの?」


「行ったことある世界はそうだったな。この世界がどうかはわからんけど」


「魔獣って……どんな生き物なんですか」


「そこの依頼書に絵がある!」


 セリアが指差した先の一枚。荒々しい筆致で描かれた挿絵——四本足で、頭が二つある獣の絵だった。


「……でかっ!!」


「しかもこれ、普通の武器じゃ歯が立たないって書いてある」


 リナリィが別の依頼書を見ながら言った。


「冒険者が何人も束になって挑む相手みたい」


幻顕力(RE)は通じるのかな」


「そっちの方が相性よさそうではあるよな」


 ソウマが腕を組んだ。


「でもこの世界の魔獣が実際どんなもんかは、まだわからん」


「じゃあ冒険者に聞いてみましょうよ!」


 セリアが振り返った。


 大テーブルで酒を飲んでいる冒険者たちがいる。


「ちょっと行ってきます!」


「待て待て待て!」


 ソウマが即座に止めた。


「何しに来たか忘れてるのか」


「忘れてないですけど、情報収集じゃないんですか」


「そうだけど、いきなり話しかけんの早い」


「えー」


「えー、じゃない」


『お嬢』


 ルシオが静かに言った。


『ここで浮くと任務に支障が出ます』


「はーい、わかりましたー」


 セリアが渋々引いた。


 ハンナが壁際から室内全体を静かに見渡していた。


「ソウマさん」


「ん」


「ここも随分漂流者(ドリフター)が混じりやすそうな街ですね。冒険者の出入りが多いので…」


「だな。動きが読みにくい」


『気配がまだ掴み切れてないけど…』


 メリルが続けた。


『でも…この街の中にある。南の方角……たぶん』


「たぶんか」


『たぶん』


「ふむ」


 セリアが振り返った。


「何話してるのー!」


「作戦会議だよ」


「えー!混ぜてよー!」


『お嬢、声が大きい』


 周囲の冒険者が何人か、こちらをちらっとこちらを向いた。


「す、すみません……!」


 セリアが首をすくめた。


 ギルドを出ると昼の陽が高くなっていた。


 ソウマが大通りをまっすぐ南へ歩き出した。


「あれ?どこ行くの?」


「南。メリルがそう言ってたからな」


「あー、さっきの作戦会議!」


「そそ、さっきの作戦会議」


 セリアが並んで歩いた。


「何か感じてるの?メリル」


『んー……なんていうか』


 メリルが少し間を置いた。


『断続的なんだよね。出たり消えたり。でも、南に行くほど少しだけ……近くなる気がする』


「へー、(オーウォー)の波動って、いつもそんな感じなの?」


『んと、(オーウォー)は産まれた時からその人に宿ってるけど、育つ速度は人それぞれだし、急に育ったり止まったり…』

「たぶん、魂に何か影響を受ける事があると成長すると思うんだよな」


 ソウマが言った。


『うん、かもしれない』

 

 大通りを外れた。

 

 石畳が少し細くなる。看板の字が小さくなって、代わりに洗濯物が通りに張り出してくる。生活の匂いがした。


「住宅街ですね」


 ハンナが静かに言った。


「ああ」


「冒険者の街の中にも、普通に生活してる人がいる」


「そりゃまぁ、みんながみんな冒険者じゃないからな」


「……そうですね」


 ハンナが少しだけ考えるような顔をした。


 リナリィが足元を見ていた。


「石畳、大通りより古いですね」


「よく見てるな」


「なんとなく。模様が違うから」


 アウラが鼻をひくひくさせた。


「フンフン……なんかいい匂いする」


「パンじゃないですか」


 リナリィが言った。


 どこかの窓から、焼けた小麦の香りが流れてきた。


「腹減りそうだな」


「減らないでしょ、幻体なんだから」


「でも食べれないわけじゃないし、いくら食っても太らないぜ?」


「それは魅力的…!」


『お嬢、任務中です。』


「いや今のはソウマが!」


「任務中だぞ」


「ええええええ!?」


 そんなやり取りをしているとハンナが前方を指差した。

「あ、あそこ、宿屋街みたいです」


 通りの先に、建物の密度が上がっている区画があった。看板に寝台の絵が描かれているものが並んでいる。


『ソウマ』

 

 メリルの声が少し変わった。


『……さっきより、近い』


「なーるほど」


『感覚的には……この辺りの中に、ある』

 

 ソウマは歩く速度を変えなかった。


 セリアが小声で言った。


「どうするの?」


「ん?宿を取る」


「え」


「拠点としてな。それに——中に入れば、もう少しわかる」


 セリアが頷いた。

 宿屋街の入口。

 数軒の看板が並んでいる。


「どこにするの?」

 

 リナリィが聞いた。


「んー、一番賑やかそうなとこだな」


 ソウマが一軒を見た。

 扉の前で子供の笑い声がしていた。


 扉を押すと温かい空気が出てきた。

 広めの食堂兼受付。


 テーブルに冒険者が数人食事をしている。

 壁に獣の角が飾ってあり、奥にカウンターが、そこにはがっしりした体格の女性が帳面を開いていた。


「いらっしゃい、部屋かい」


「四人分、頼めますか」


 ソウマが言った。


「四人……二人部屋が二つでいいかい?」


「ああ、それで大丈夫」


「一泊、銀貨二枚ずつだよ」


「銀貨四枚……っと」


 先行していた諜報班(フルメンタラー)支援班(アウクシウム)が依頼をこなして用意しておいてくれた資金がある。

 ソウマが財布を出しかけた瞬間、セリアが前に出た。


「ちょっと待ってください」


「あ?」


 セリアが女性を真っ直ぐ見た。


「銀貨二枚って、相場より高くないですか」


「……お嬢さん、よく知ってるね」


「ちょっと調べただけです。一枚半にしてもらえないですか、長逗留になりそうなんで」


 女性がセリアをしばらく見た。


 それから口の端を上げた。


「……一枚半と、朝飯つき。どうだい」


「!」


 セリアが振り返った。


「ソウマ!朝飯つきになったよ!」


「ああ、見てた見てた」


「エッヘン!」


『……いつそんなこと調べたんですか』


「ギルドに情報が貼ってあった!」


『……値切る必要性はなかったんですけどね』


「お金は大事だよ?」


『私達は魂還(レディアニマ)すればもうこの世界の金銭は必要ない、であれば現界人の懐に多少多く入れておくくらいでいいんですよ』


「うぐ…そ、そうだった」


 セリアがルシオに完璧に論破される。


 ハンナがカウンターに近づいて、小声でソウマに言った。


「それはそうと、観察力は高いですね」


「だな」


 ソウマが少し笑った。

 

 部屋の鍵を受け取ると、女性が奥に向かって声を上げた。


「ヨルク!お客さんだよ!部屋に案内しな!」


 返事はなかったが、 代わりに食堂の隅から慌ただしい足音がした。

 食堂の奥の扉から、男の子が飛び出してくる。

 九つくらいだろうか。

 栗色の髪が少し跳ねていて、エプロンが斜めにずれていた。


 ──その子の目は、全然こっちを見ていなかった。

 食堂のテーブルにいる冒険者たちを見ていた。


 さっき帰還したばかりらしい二人組が、鎧の汚れを拭きながら何か話し合っている。

 男の子はその様子を歩きながらじっと見ていた。

 そして柱にぶつかった。


「っ、と!」


 我に返って、慌ててこちらを向いた。


「す、すみません!お客さん!」


「おいおい大丈夫か」


 ソウマが言った。


「大丈夫です!ぼく、ヨルクっていいます!部屋に案内します!」


 一息で言った。


 セリアが少し笑った。


 その瞬間ヨルクがセリアを見た。


 目が合った。


『……ソウマ』


 メリルが小さく呼んだ。


 声のトーンが、少しだけ変わっていた。


『……なんだろ、さっきより』


「ん?」


『……なんでもない、気のせいかも』


 ヨルクがセリアを見て呟く


「……お姉さん、強そう」


「え」


「なんか、そんな感じがした」


 セリアが一秒だけ固まった。


「……ニッヒッヒ!そう見える!?」


「うん」


 ヨルクが真剣な顔で頷いた。


「冒険者さんですか」


「まぁ、似たようなもんかな!」


「かっこいい!」


 ヨルクの目が輝いた。


 さっき冒険者たちを見ていたのと、同じ目だった。


 ヨルクがセリアを見上げたまま言った。


「案内します、こっちです!」


 元気よく歩き出した。


 エプロンがまだ斜めのままだった。

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