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縁の環  作者: 由耀
第2章 『花詠み』
11/13

EP11

 向かう花街は今日も妖しく、そして哀しみに渦巻いている。

 黒い門を通り抜け、私は美耶がいる妓楼へと向かう。

 私は、彼女との逢瀬のために生きているといっても過言ではない。


 今日はいつもより金子に余裕がある。

 数か月もの間、必死で用意した金だ。

 美耶に逢える一夜をどれほどの思いで待ち焦がれたことか。


「千代を頼む」


 みせの主は金子を受け取り、すぐに美耶の禿かむろを呼んだ。

 私はその禿に案内されて、奥座敷へと渡る。


 水仙の花の香りが微かに漂う。

 これは美耶の香りだ。

 一歩、また一歩と歩き進むうち、一歩、また一歩と歩みを進める度に緊張がたかまる。


 今宵、黄色と白の水仙をあしらった飾り簪を、彼女に贈る。

 喜んでくれるだろうか――。

 いやそれよりも。私を選んでくれるだろうか。

 期待と不安が入り混じる。


 みせの主によると、他にも何人かの男から身請けの話が来ているという。

 一刻も早く美耶をここから救い出したい。

 だが身請けには莫大な金子がいる。

 その額は私にとって容易な額ではなかった。


 禿が美耶の部屋の前で止まった。


「花魁、世木の若様が来ましたえ」

「あい」


 障子戸に手をかける。

 髪に水仙をあしらい、派手な化粧と重たい打掛に身を包んだ美耶の姿があった。


「美耶!」

「……遼矢様!」


 私を見て、涙ぐむ美耶。

 逢えずにいた夜を取り戻すかのように、私は強く美耶を抱きしめた。


「お会いしとうございました」

「私もだ。どれほどこの時を待ったことか」


 美耶と共に居られる時間は限られている。

 何度口づけを交わしても、抱きしめても足りない。

 私は、美耶を真っ直ぐに見つめ、告げた。


「めおとになろう、美耶」


 美耶の眼が大きく見開かれる。

 告げられた言葉に戸惑い、右眼からは涙が伝う。


「ほんとうに……? あちきが遼矢様と添い遂げても?」

「私は美耶が欲しい」


 懐から飾り簪を取り出す。

 水仙をあしらったその簪を、千代はとても大事そうに受け取った。 


「ああ。こんな日が来るなんて……」


 通じ合ったこの想いはもう手放すことができず、想いはもう止められない。

 想いも身体も重ね合わせ、ただお互いの温もりを何度も確認し合った。


 美耶の首筋から、黒い影が空間に溶けだした。

 それは水仙の香に混じり、ほの暗い明かりの中で静かに霧散していった。


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