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縁の環  作者: 由耀
第2章 『花詠み』
10/12

EP10

 執事のとおるがわたくしの部屋にマーガレットという、異国の花を飾っている。

 お母様が手配した花だろうか。


 わたくしは別室で体を固定され、締め付けられながらコルセットを付け、ドレスを纏う。

 姿見には青いドレスを纏い、化粧をし、豪華な宝石で着飾ったわたくしが映る。


 今日の舞踏会で父はわたくしの婚約者を決めるという。

 結局わたくしは家の道具。廓に売られる農村の娘と何ら変わりがない。

 違うのは、夜ごと違う男に春を売ることがないだけだろう。


「着飾って金の力を見せつけて……だから成金なんて揶揄されるのだわ」


 亨は何も言わない。

 ただ静かにテーブルの上のティーカップを片付けている。

 わたくしはマーガレットの花を忌々しく見つめた。

 真実の愛という花言葉をもつこの花。

 今のわたくしには手の届かない夢のまた夢。


 亨とわたくしの目が合った。

 亨は時々、わたくしを見つめている。

 最近は特に。


「どうしたの? わたくしの顔に何かついていまして?」

「いいえ……。お嬢様の御姿が美しいと思ったものですから……」


 亨は普段、世辞を言わない。

 ということはこれは素直な感想なのだろう。


「まぁ! わたくしをそんなふうに褒めてくれるのは亨だけね」


 わたくしは肩をすくめてそう告げた。


 良家の娘は家を背負って、生家よりも良家に嫁ぐのが常だ。

 特に奥瀬家は金の力で名声を得た。

 爵位をもつ美しい令嬢を妻に迎え、その令嬢に子を産ませる。

 子が男なら跡取りに、女なら縁をつくるため他家に嫁がせる。

 奥瀬はこうして力を付けてきたのだ。


「それでも亨にそう言われると嬉しいわ。……ありがとう」

「勿体ないお言葉です」


 淡々と告げられる会話。亨は一礼して部屋を去った。

 彫刻の施された置き時計を見る。

 間もなく父が部屋を訪れる頃だ。


「お嬢様、文が届いております」


 別の執事が銀のトレイに一通の文を載せて近づく。


「どなたからですの?」

「お嬢様に世木と伝えればおわかりになると――」


 世木……まさかあの方?

 彼は確か世木 遼矢と名乗った。


 慌てて文を広げる。

 白檀の雅な香りがほのかに漂うなか、達筆な文字が並ぶ。

 文には木春菊の花の押し花が添えられている。


 どうやら亨が活けたマーガレットは、彼からの贈り物だったらしい。

 あの方もわたくしを覚えていてくださった。そう思うと、胸が高鳴る。

 文を持つ手が震えた。


『いつの日かお会いしたことを覚えておられますか? 今宵、貴女にお会いできることを心待ちにしております』


 あの方もわたくしとの逢瀬を願っている!?

 信じられなかった。

 わたくしは天にも昇る思いだった。



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