EP12
あの手紙から三か月が経った。
わたくしの婚約者は世木 遼矢という、商家の次男に決まった。
最初お父様は遼矢を毛嫌いしていたものの、次第に斬新なアイディアで利益を出す遼矢を認め、遼矢を自慢の婚約者と公言するようになった。
そんな遼矢は逢瀬の度にわたくしに木春菊を贈る。
この花はわたくしに似ているからと。
――マーガレット。
白くて小さく、一重咲きの清楚な花。
希臘語で「真珠」を意味するマルガリーテスにちなみ、こう呼ぶ。別名は木春菊という。
それまでのわたくしは深紅の薔薇か牡丹が好きだった。
木春菊のような純白と黄色の花は、わたくしには似合わないと思っていた。
ある時、執事の亨が教えてくれた。
仏蘭西の乙女は、この花を使った恋占いをするそうだ。
わたくしは遼矢を思いながら花を手に取った。
一枚、その花びらを散らしていく。
「愛している」
また一枚。
「少し愛している」
「とても愛している」
「全然愛していない」
この順番で、白い花びらを一枚ずつ散らす。
胸を躍らせ、また散らして、わたくしの手は止まる。
「全然愛していない」
花びらはここで止まり、わたくしはため息を漏らす。
「そんなはずはありませんわ!」
結果に納得がいかず、わたくしはまた占いを始める。
しかしそれでも「全然愛していない」で花びらが終わる。
それは単なる偶然。
だって遼矢はわたくしに木春菊を贈ったのだから。
遼矢が以前廓通いをしていたことは、亨から聞いて知っている。
その廓にお気に入りの遊女がいたことも、その遊女の身請けが別の男に決まったことも。
『遼矢様にとって、お嬢様こそが真実の愛だと気づかれたのでしょう』
と、亨はわたくしの恋を応援してくれる。
しかし真綿に包まれて育った、世間知らずなわたくしは。
婚約者の美しい仮面に心躍らせ、ただ恋に恋をしただけだった。




