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タイラー先輩が話し終えると、俺とクスはまた驚いた。あの世界に魔法使いがいるのか。全然わからない。
「ていうか二人、今日は始業式二日目なのに何してるの?」
シリーン先輩が言った。
「あ……えっと、ちょっと事情がありまして」
「どんな事情?」
「入学書類の名前は男で登録されてるんですけど、急に女になってしまって。同じ名前で女なのに男の敬称を使うのも変じゃないですか……」
「それだけのこと?」
「それだけって何ですか先輩!自分がいつ女になっていつ男に戻るかもわからないんですよ!!」
俺は焦った声でシリーン先輩に訴えた。
「あたしたちが力になれるかも」
「俺は関係ないけどな。シリーンが知り合いいるだけで」
「言い方ぁ……」
「シリーン先輩、どんな力になれるんですか?」
「敬称の件なら任せて。生徒会長と仲いいから。昔のバディなんだよね」
シリーン先輩が生徒会長と知り合いなら確かにどうにかなりそうだ。でも申し訳ない気もする。
「そうなんですか……でも自分がいつ女になるかわからないので、授業中に変わったらまずいですし……」
「わかったわかった」
「あ……はい」
「とりあえずあたしたちは先に行くね。自分のこと大事にしなよ。あの腕輪、マジで危ないから」
「あ……はい、心配してくれてありがとうございます」
「またね」
「あと、あなた。明日の朝、廊下の前に来て」
「でもシリーン先輩……」
「心配しなくていい」
先輩たちが学校へ向かい、俺とクスはモールへ入った。朝のモールはがらがらで、早くから開いているとはいえ、まだ開店していない店も多かった。
「どこ行く?クス」
心の中では漫画・おもちゃコーナーに行きたかったけど、まだ開いてない。
「二階に行かない?」
クスが二階を指さした。フードコートで、テーブルと椅子が並んでいる。
「二階って、フードコートじゃないか」
「知ってるよ。何か食べようよ」
「さっきお腹空いてないって言ってなかった?」
「パンヤーに気を遣いたくなくて」
「あ、そういうことか。じゃあ行こうクス」
エスカレーターに向かって歩いていると、乗る瞬間に俺の手がクスの手に触れてしまった。
「あっ! ごめんクス……」
「別に気にしないよ。手、繋いでもいいんだよ?」
*ちょっと待って、何言ってんの。*心臓がまた速くなった。
「……」
少しの間、沈黙が続いた。
俺が顔を背けると、恥ずかしさで顔が赤くなった気がした。クスはそれを見て、そのまま俺の手を握った。
硬くてごつごつしてるのに、不思議と柔らかい。がっしりした体格なのに、指は意外と細くて綺麗だ。ずっと握っていたいな……そう思っているうちに二階に着いた。クスの手を繋いだままフードコートへ歩き、席を選ぶのはクスに任せた。
「ここどう?」
クスが窓際の席を選んだ。駐車場と、出勤してくる人や制服姿の学生が見える。
「わあ、いい眺めだね、クス」
席が決まってからそれぞれ注文しに行った。
「今日は俺がおごるよ、クス。昨日ご飯作ってくれたお礼に」
「ありがとうな」
「まあまあ、気にしないで」
俺はアメリカンチャーハン、クスはご飯・味噌汁・漬物・魚のセットを頼んだ。俺のより絶対うまそうだ。でももう買ってしまったから、次回に試そう。
食べながら、箸を動かすクスをぼんやり見ていた。
なんだろう、二人でいるとなんか変な感じがする。
ジャリン!
左の腕輪から音がした。また紫色の光が溢れ出した。俺とクスはすぐに何が起きるか悟って、席を立ってトイレへ走った。人が少なくて助かった。
体が熱い。男に戻ったときよりずっと熱い。なんで? 紫の光がまたゆっくりと体を包んでいく。体がぎゅっと縮む感じ。胸に重さが戻ってくる。
そして俺はまた女になった……
「またこれかよ。嘘でしょ、せっかく男に戻ったのに」
ため息をついた。今日で二回目だ。
「ビュウ、早くトイレ出ようよ。誰かに見られたら困る」
そうだ。男子トイレにいるのに女になってしまった。クスより先に出ないと、一緒に出たら変に思われる。
先に出て、クスもあとから続いた。二人でまた元のテーブルへ戻った。全力で走ったせいで息が上がっている。
「ギリギリだった。あと少しでフードコートで変わるとこだったぞ、ゲホッ」
「だよな、俺も急いだよ。マジでギリギリだった、ははっ」
「そう……」
さっきクスが笑ってたんだけど。あの笑顔、なんか言葉にできないくらい魅力的で……妙な気分になる。
「ビュウ、大丈夫?急に顔赤くなってるけど」
「え……ち、違うよ、ちょっと疲れただけ」
もう。並行世界でクスに抱きついてから、ずっとこんな感じだ。この感覚って一体なんなんだろう。考えてもわからないままだ。
アメリカンチャーハンを食べ続けて、赤い顔をごまかした。
フードコートの食事はなかなかよかった。値段も量も満足できる。二人で食べ終わってからそのままテーブルで休憩した。並行世界の今後のこと、明日シリーン先輩に会うこと、それからアニメや漫画の話もした。クスが好きな作品が俺とまったく同じだった。風を使う忍者の漫画と、雲に乗る猿の人間の漫画。この二作品は本当に最高だ。話し込んでいるうちに一時間以上が経って、店がぽつぽつ開き始めた。
「そうそう!俺もあのシーンめっちゃ好き。急に力が爆発するとこ、かっこよすぎる」
「本当にな」
「だよね。あれ、けっこう長く話してたね。お店も開いてきたし、ぶらっと歩かない?」
「いいよ。あと……」
「あと何?」
「下着、一緒に買いに行かない?どうせ女なんだし……」
クスがそう言ったけど、俺はどうすればいいかわかってなかった。
二人で食器を返してから下着の店へ向かった。
「なんか緊張してきたんだけどクス。こういうの買いに来たことないし」
「大丈夫だよ。店員さんが測ってくれるかもしれないし」
「店員さんが来るってことは、胸を見られるってことじゃないか」
「それはやってみないとわからないよ」
店の前に着いた。中には試着室と店員の姿が見えた。
「いらっしゃいませ。何かお手伝いできることはありますか?」
「彼女の下着を買いに来たんですが、サイズを測っていただけますか?」
「どうぞ中へ。スタッフが測りにまいります」
「お願いします」
クスが対応してくれて、店員さんが俺を試着室へ案内してくれた。メジャーでバストとアンダーバストを測って、それが終わると下着のコーナーへ連れていってくれた。
「こちらでお選びいただいて、試着室でお試しください」
店員さんがレジへ戻っていった。下着を買うのは生まれて初めてだ。どれを選べばいいのか全然わからない。
視線がそのコーナーの表示に止まった——B
Bか……まさか俺のサイズがBカップとは。まあ、かわいいサイズじゃないか。
自分の胸と腕輪を見た。紫色。そう、俺の好きな色だ。
紫色の下着を選んだ。ブラとショーツが揃っている。五枚選んで、気に入ったのは三枚だった。試着室に入って着替えた。
上着とショーツを脱いで、ブラをつけようとした。
難しい……女の子のブラってこんなに難しいのか。
なんとかつけ終わって、次はショーツを履いた。伸縮性があって、思ったより全然楽だった。
そして鏡を見た。
左腕に紫の腕輪をつけて、紫のブラとショーツを身につけた女の子が映っていた。
最高のコンボだ。完璧すぎる。
鼻血が出た。
ダメだダメだ。これは俺自身だぞ。自分に興奮してどうするんだ。でも……もしクスが見たらどう思うんだろう……
パン、パン。
自分の頬を二回叩いた。落ち着けビュウ、下着を買いに来たんだぞ。鼻血を拭いて、残り二枚も試着した。どちらも快適だった。
三枚を手にレジへ向かった。思わず笑顔になった。
「合計四千四百円になります」
え?
えっ?
ちょ……下着ってそんなに高いの!?!?
「第8話もこれにて終わりです!
読んでくださっている読者の皆さん、本当にありがとうございます!これからはあとがきを書く頻度が減るかもしれませんが、それでも読み続けてくださっている皆さんへの感謝は変わりません。次回の展開もどうぞお楽しみに!




