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「ビュウ……さっき、力を使ったのか?」


クスがそう言った。あの謎の男が召喚した魔獣を、俺が一撃で倒してしまった。その場にいた全員——俺もクスも——誰もが信じられないものを見た顔をしていた。あたりは静まり返って、聞こえるのは風の音だけ。息を飲む音さえ聞こえそうなくらいだった。重い視線が俺に集中している。


そして騎士の一人が口を開いた。


「消えた!?」


「嘘だろ、一撃で!!」


「何の力だ?」


「すごい……生まれて初めて見た!!!」


しばらくして、周りから歓声が上がった。俺が魔獣を倒したことはリーアの街中に数時間で広まった。


「謎の力を使う少女と風の属性使いの青年、召喚獣を一撃で討伐」


俺とクスは報酬として四シーセン金貨を受け取った。銀貨二千枚分に相当する。受け取り場所を出ると、街の内外や他の国からも手紙が山積みになっていた。でもまだこの世界に来て二度目だ。俺はクスに、今はまだ関わりたくないと伝えた。あとでまた面倒になりそうだから。クスも特に気にしていなかった。どうせ冒険したいだけだし。全部断って、俺たちは先へ進んだ。


道中にはいつも通り行商人が声をかけてくる。どこで仕入れてくるんだろうと思いながら歩いていたら——


緑のフードを被った三人組が前に現れて、行く手を塞いだ。さっき魔獣を召喚したあの人物と同じ色だ。俺とクスはすぐに構えた。


「落ち着いてくれ」


一人が言った。俺とクスは少し固まった。——その言葉は、異世界の言葉じゃなかった。俺たちの世界の言葉だった。


「君たちもこの世界に来た人間だろ?俺たちも並行世界に来た者同士だ」


「俺たちは何もしない」


「同じ世界から来た仲間だからな」


クスが返した。


「それで、俺たちの前に立ち塞がった理由は?」


「あ、言い忘れてた。俺たちは両方の世界から来た人間を集めたギルドを作りたくてな。何かあったとき、現実世界でも並行世界でも助け合えるように。それと——そこの君の腕輪」


フードの人たちが俺の手首を見ながら続けた。


「それは"ミシケル・アイテム"だ。非常に希少な品で、魔法の力を持つ者だけが持てると言われている」


「今、魔法の使い手って言ったのか?」クスが俺を見た。「ビュウ……お前の力、すごいぞ。お前、魔法の使い手じゃないか!」


でも喜びかけたところで、フードの人たちがまた口を開いた。


「でも一番危険なのが、そのミシケル・アイテム自体なんだ。悪魔、魔族、霊体——みんながそれを狙っている。最近聞いた話では、闇属性の悪魔がミシケル・アイテムの持ち主を狙ったらしい」


「……」


「あの、それ、俺たちのことです」

クスが言うと、フードの三人は目を丸くした。


その悪魔は流れ者じゃなく、誰かに召喚されてきたものだった。つまり現実世界でも並行世界でも、俺を狙っている誰かがいるということだ。オークの件もそうだった。やっぱり力を鍛えないといけないな。このままじゃまた狙われる。


話がまとまって、俺たちはギルドへの参加を承諾した。ただし俺の条件は一つ——クスと一緒に行動すること、何かあればミニキューブで連絡すること。ミニキューブはサイコロ大の魔石で作られたアイテムで、使うと黄色く光る。フードの人たちから一つずつ渡された。


話がまとまったあと、俺たちはまた歩き出した。次は魔法の杖を探したい。この国で手に入るかはわからないけど、品質と値段は大事だ。性転換のことはフードの人たちには話さなかった。まだ秘密にしておく。でもいつかは必ず男に戻らないと。


「ねえ、ビュウ」


「何?」


クスが足を止めた。


「明日、お前が女になったこと、お母さんに話すのか?」


「そ、それはまだ心の準備ができてなくて……でもたぶん話すと思う。明日の朝でもいいかな。長く引き伸ばしたくないし、逃げ続けるのも嫌だし。ただ、急すぎてちょっとびびってるだけで」


「そうか……」


「うん」


少し間を置いてから、俺は口を開いた。


「あ……えと、クス。一緒に来てくれない?」


「どういうこと?」


「俺の家に付いてきてほしいんだけど……も、もし迷惑なら全然いいんだけど、クスが大丈夫なら……」

顔が熱くなった。


「いいよ」

クスは迷いなく答えた。


何度も確認したけどクスは毎回「いい」と言った。明日の朝、学校前でバスを降りてから一緒に歩いて家に行く予定だ。考えるだけで怖いけど、もう決めた。


― クス視点 ―


ビュウが家に来てほしいと言った理由は、なんとなくわかる。特殊な力で性別が変わったことを、俺がいれば証明しやすいんだろう。口で言うだけじゃ誰も信じない。ビュウのことが少し気の毒になった。今日一日だけで本当にいろいろあったから。朝の性転換、昼に先生に化けた悪魔、そしてあのオークのこと……考えるのはやめておこう。もう終わったことだ。


ビュウを見ると、眉をひそめてぼんやりしていた。考え込んでいるんだろうと思って、そっと肩を抱いた。


「うわっ、びっくりしたぁ!!」


ビュウが飛び上がって叫んだ。


「そんなに驚くとは思わなかった……」


「急に肩抱くからだよ!」


「ごめん」


「……まあ、いいけど」


//ドクンッ//


ビュウが俺に抱きついてきた。


「なんかクスに抱きしめてもらうと、温かくて落ち着くんだよね」


「あ……そ、そうか。よかった」


細くて小さな体が、両手で俺の体を抱きしめている。片腕で抱けてしまいそうなくらい。俺も抱き返した。ビュウが顔を上げると、目に涙が浮かんでいて、頬が真っ赤だった。俺はそっとビュウの頭に額を近づけた。ビュウの髪から、俺がいつも使っているシャンプーの匂いがした。二人の額がほとんど触れそうなくらい近くにある。


しばらく、何も言わなかった。


ふと、もうすぐ目が覚める時間だと気づいた。危うく忘れるところだった。


「ビュウ」


「な、なに、クス」


「もうすぐ目が覚める時間だぞ。準備はいいか?」


「うん、大丈夫。約束、忘れないでよ」


「忘れないよ」


*****

現実世界で目が覚めた。クスの目覚まし時計の音で起きた。目を開ける前、並行世界でクスに抱きしめてもらった感覚がまだ残っていた。あたたかくて、安心する感じ。


ドクン、ドクン、ドクン。


その感覚を思い出すだけで、心臓が速くなった。


でも今はそんなことを考えていられない。家に帰って、お母さんに話をしなきゃいけない。ベッドから起き上がって部屋を出た。クスはもうシャワーを浴びていたので、俺は脱衣所に入って着替えた。上も下もタオルで巻いてから、リビングに置いてあった携帯を開いた。


昨日のお母さんへのメッセージ、まだ既読になっていない。なんで読んでないんだろう。忙しいのかな。


「ビュウ、起きたの?おはよう」


クスがシャワーから出てきた。


「おはよう」

第6話もこれにて終わりです!

読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます!今回のビウの展開、実は書きながら自分でもドキドキしていました。次の話はどうなるんでしょうか…信じてもらえるかな?ぜひ次回も楽しみにしていてくださいね!

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