35 「レオフィア・ダシャー」
「誰なの!グリーティアの制服じゃないじゃない!侵入者なの!?」
そうだ、自分はどこに来てしまったんだ。今はそれを説明している場合じゃない。
「えっと……私!?えっと!私の名前はビウ、サイファーといいます!書棚で迷子になっていたんです!」
「あ……あなた!」
女の子だ。小さい。自分より全体的に小さな体つき。白に薄い青が混じったロングヘア、背中まで届いている。緑色の目。グリーティアの校章が右の胸元についている。青いスカート。おそらく人間だろう。
「落ち着いて。誰も傷つけるつもりはないよ。フィッシャンの生徒なんだけど」
「フィッシャン!?フィッシャンって……あの、うん……少し安心した。ここは私の部屋なんだ。ここにいるのが好きで……」
彼女は左腕を自分で抱きながら、体を少し震わせながら言った。
「あなたがフィッシャンの者なら安心できる」
彼女が床から本を拾い上げた。ここが彼女の部屋のようだ。大きな勉強机があって、ポーションの調合道具、弓、剣、書棚。部屋の大部分を書棚が占めている。座ってから本を広げた——少女漫画だった。
「好きじゃないのは人に近づくこと。でも……この絵みたいに楽しめたらいいなって」
友達が十数人集まって写真を撮っている少女漫画の絵。そして彼女は俯いていた。
「私はレオフィア・ダシャー。グリーティアの二年生。人間よ」
レオフィア・ダシャー!?
「レオフィア・ダシャー」——あの人が言っていた名前の人が、目の前にいた。
彼女は本を抱えて俯き、恥ずかしそうにしている。可愛い!心の中で思わず叫んでしまいそうだった。並行世界でロリな女の子に会えるなんて。
待って!少女漫画だ。転げ落ちてきた衝撃でまだ少しぼんやりしている。なんでここに少女漫画があるんだ?並行世界でこれが出てくるとしたら、召喚で引き寄せられた?でも誰が?どうやって?召喚魔法がそんな使い方ができるなら——
「これ、どこから手に入れたの……?」
「うわっ!何するの! きゃっ!」
「危ない!」
椅子が倒れる音がした。レオフィアが驚いて椅子から落ちた。物音が静まり返ってから、彼女の呼吸だけが聞こえた。
間近で見た顔はきめ細かくなめらかな肌で、エメラルドグリーンの目、濡れたように光る唇、明るくきれいな白い肌。小柄で華奢だけどわずかに筋肉もある。まるで命を吹き込まれた人形のようだ。
自分が彼女に馬乗りになっていた。白い髪が床一面に広がっている。触れてみたい、と思いそうになった。
待て。これはだめだ。レオフィアは小さくて、自分は女の体のまま。男でもなければ彼女を知っているわけでもない。そんな考えをする資格は自分にはない。
頬をつねって正気を取り戻した。レオフィアはポーションを取りに立とうとしていた。自分のために。
床に落ちていた少女漫画を拾って二、三ページめくると日本語だとわかった。やっぱり。
疑問がある。なぜこれがここにあるのか。誰が召喚したのか。もしかしてあの人が——いや、それよりも召喚魔法でこんなことができるなら、もっと大きな何かが動いているのかもしれない。
「回復ポーション。ちょっと味が悪いんだけど……」
ポーションを受け取って立ち上がり、改めて自己紹介した。
「ポーションありがとう。さっきはいろいろとごめんなさい。私はビウ。フィッシャンに招待してもらって、サイビアとも友達なんだ」
改めて考えると学校内で誰かがサイビアのことを知っているはずだ。あの演武場での試合の後、サイビアの名前は注目されているだろう。
「ビウ……フィッシャンの生徒で、あのサイビアって子の友達なの!?」
やっぱり。レオフィアがしばらく固まってから、目を輝かせた。また可愛い。
「そうなんだ。ここに来る前に学校を見学してて、書庫の書棚で迷子になって……」
「入学前から来てるのね。ところで、グリーティアの二年生だから先輩になるわね。あ、でも呼び捨てでいいよ、レオフィアって呼んで」
「わかった、レオフィア先輩。その本って、どこで手に入れたの?」
「あの本ね……」
レオフィアが引き出しを開けて一枚の紙を取り出した。
「街の商人から買った召喚陣のことよ。この陣の中には欲しいものが現れるって」
「……」
うなずいてから続けて聞いた。
「その商人が描いた召喚陣ってこと?」
「そう。でもこれ銀貨四百シセンもしたのよ」
まるでガチャみたいだ。レオフィアが机に突っ伏して少女漫画を見つめた。テーブルを指で叩く音が一定のリズムで鳴っている。自分と同じことを考えているのかもしれない。
召喚魔法……
この世界の全員が魔法を持つなら、召喚陣を紙に描いて魔力を込めれば召喚ができるはずだ。でも、元の世界のものを引き寄せられるなら——あの商人は元の世界から来た人なのだろうか。召喚陣を使えば召喚できる。それなら、なぜあの商人は?そう思って、レオフィアの紙を借りて魔力を込めてみた。光は出たが、何も現れなかった。
「思い出した!こういうのって本に書いてあった気がする、ファリスマジックという本に」
「ファリスマジック?」
レオフィアが書棚からもう一冊取り出した。ページをめくって栞のあたりを開いた。ファリスという名前、どこかで聞いたような。
「魔法書『ファリスマジック』の封印召喚の章。封印は物品に転写できる。魔力によって封印を施すことで。おそらくあの商人は物品に封印を施して、さらに紙に封印を書き写したのよ」
すごい。封印を使えば召喚できる本があるんだ。
「この陣、コピーできるの?」
「コピー……?」
「同じものを作るって意味で」
「複製というより、描くのよ。それにアイテムや召喚物には魔法石の粉で陣を描かないとダメ。そういう道具があったらもっと便利なんだけどね」
元の世界の言葉で話してしまった。でも召喚魔法の仕組みが少しわかってきた。召喚するには「封印」と「召喚陣」が必要で、召喚したいものに封印が施されている必要がある。陣を描いて魔力を込めると、封印されたものが召喚陣から現れる。ただし封印にはどんな魔法が必要なのか。テンツの龍の召喚、継承者たちに呼ばれたときの召喚——その仕組みはもっと複雑なはずだ。
「一つ聞いてもいい、レオフィア。生き物を召喚する方法って知ってる?」
「生き物を召喚!?そんな難しいことを聞くの!?」
二人がしばらく黙り込んでから、また書棚から別の一冊が引き出されて開かれた。
「——五族戦争が始まる約五十年前、北の大陸から来た青年『ロジャー・ロイ・ラティアス』。おそらく人間族で、体中に傷跡があり、腕から青い光がよく出ていた。ロジャーの故郷の大陸の洞窟には、青い液体で壁に描かれた謎の絵が残されていた。絵は四つの部分に分かれていた。一つ目は召喚陣。二つ目は生き物の姿。三つ目は握手とともに謎の言葉。四つ目は二つ目の生き物が一つ目の陣の中に現れた姿。三つ目の絵がこの壁画の謎だ。周囲が変わり、まるで箱の中に鍵がしまわれるかのようだった。それでも私、ノペイスはこの記録を書いた者として諦めない」
本が閉じられた。
「この部分で終わり。それ以上の情報はなかった」
「北の大陸の夢追い人、ノペイスの手記」——レオフィアが閉じた本の名前だ。日記のような記録らしい。書かれた年を見ると、ソレフィア暦二百十七年。今からだと二百年以上前になる。ノペイスが人間なら、もうその人は生きていないだろう。でも彼の書いたものが今もここに残っている。それが何より嬉しかった。
「ノペイスの記録の一部は、夢物語として片付けられているの。五族戦争が終わる前に謎の人物に会ったとか、勇者ファリードに会ったとか。年代が数百年もずれているのに人間として生き続けられるはずがないでしょ」
レオフィアが信じられていない部分もあるようだ。戦争前の謎の人物との出会い、勇者ファリードとの出会い——時代が違いすぎる。人間の寿命では説明がつかないかもしれない。でも今の自分にとって大事なことはできた。レオフィアを見つけるという、あの人の言葉通りになった。そして召喚魔法のことも、少しだけわかった。
「あっ、言いそびれてたけど、書棚の迷路で迷ってたんだったわね。送っていってあげる」
レオフィアが椅子から立ち上がって伸びをした。少女漫画を手に持って、自分が転がり落ちてきた道を歩き始めた。
上に戻る時間だ。
自分がレオフィアとこんな形で出会うとは思っていなかった。まあ、いいか。今はサイビアのもとに戻って学校の探索を続けよう。
あ、でもレオフィアの髪の匂いがすごく良くて、後ろを歩きながら自然と鼻に届いてくる。並行世界にもこんなに良い匂いのシャンプーがあるんだと感心してしまった。
しばらく歩いて、自分が落ちてきた壁のところまで戻ってきた。自分のブレスレットの光があったおかげで来られた。レオフィアもそのブレスレットに驚いた様子だった。
「開け——メジック・ウォール」
レオフィアが右手を壁に向けると金色の光が漏れ出た。ブレスレットを手に入れる前に転がり落ちたときに通り過ぎた書棚が目の前に現れた。
「下まで連れていってあげる。ついてきて」
「了解!」
彼女の後を歩いた。大量の書棚が周囲に並んでいた。今回は案内役がいるので迷わない。やがて自分がサイビアと別れた手すりのある場所に出た。
下を見るとサイビアが鎧の近くに立っていた。
「サイビア、やっと見つけた!」
上から呼びかけて、下へと降りていった。
「ビウ超越者様!その方は新しいお友達ですか?よろしくお願いします!」
確かに。レオフィアと一緒に来た。しかもサイビアは試合で有名になっている。
「この子はレオフィア・ダシャー。もう知り合いになったよ」
「私が先に知り合いにさせてもらっていいの、特別な生徒と」
彼女が自分の腕をそっとつついた。サイビアが近づいてくると体を少し震わせた。
そっか。レオフィアはサイビアよりずっと小さい。腰の高さくらいしかないかもしれない。
「サイビア・アゲル、半人族です。よろしくお願いします、レオフィアさん」
サイビアが優雅に頭を下げた。その様子に少し驚いたけど、レオフィアの方を見ると固まっていた。
「あ……あ……あ……う……は……はい……よ……ろ……しく……お……願い……します……レ……レオ……フィア……です……」
「レオフィアさん、魔法学科の生徒で二年生をまとめているんですね。大変でしたね」
人と話すのが得意じゃないのかもしれない。いや、決めつけは良くない。特別な生徒のサイビアに驚いているだけかもしれない。
レオフィアが手を振って自分とサイビアに別れを告げ、書棚の迷路の中へと消えていった。
さあ、グリーティア学校の探索を再開しよう。
魔法学科のラウンジは見た。続いて見るのは剣術学科の部屋、弓術学科の部屋、ポーション学科の部屋、食堂、そして一番必要な宿舎。フィッシャンが宿舎については手配してくれると言っていたので、そちらは安心だ。
魔法学科のラウンジを出て、広い通路を右へと歩いていくと大きな演武場が目に入ってきた。数百人を収容できそうな広さだ。
そうだ、フィッシャンとサイビアが戦ったのはこの演武場だ。王子と挑戦者の試合を、グリーティアの生徒が何百人も見ていたのがここだったんだ。惜しかった。直接見られなかった。
演武場を通り過ぎると食堂があった。入った瞬間、何十もの視線が向いてきた。制服ではない変わった格好をしているから当然だろう。いつかちゃんとした制服を着ることになると思う。
「私とフィッシャン先輩はいつもここに座ってますよ」
サイビアが入り口からそれほど遠くない席に座った。
「よかったらカイヤスさんたち、私たちと一緒に食事しませんか?」
獣族の女子生徒がサイビアのところへやってきた。
「声をかけてくれてありがとうございます。でも今日は機会があればきっと。その申し出を受けますね」
「ありがとうございます!」
サイビアの食事の時間は、フィッシャンと一緒のときも、獣族の女子生徒たちと一緒のときもあるらしい。肉料理が好きそうで羨ましい。とはいえその強さが一部の生徒の注目を集めているのも事実だ。
サイビアの近くの椅子に腰を下ろして、ぼんやりと周りを見渡した。
ろうそくの光で明るいグリーティア学校の食堂。あちこちから生徒たちのおしゃべりが聞こえてくる。食べ慣れない料理の香りが漂う。フィッシャンの招待に応じて、あの人の言葉通りに動いた今日——また一つ進めた気がした。
第35話「レオフィア・ダシャー」が終わりました。
読者のみなさん、こんにちは。kuzagiです。あらかじめお伝えしておきたいことがあるのですが、これからは小説の更新が遅くなるかもしれません。1週間に1〜2話程度になってしまうこともあるかと思います。申し訳ありません。ただ、できるだけ定期的に投稿できるよう頑張ります。
そして、引き続き追いかけてくださっている読者のみなさんに、本当に心からありがとうございます。これからもビューのストーリーをどうかよろしくお願いします。この先はワクワクするような展開が待っていそうですよ!




