36 「グリーティア学校の新入生」
それから四日が経った。
ソレフィア暦第四百八十三年第百二十日。
鳥の鳴き声で目が覚めた。シケコさんはまだ眠っている。ベッドから起き上がって伸びをしてから浴室へ向かった。湯船のお湯がちょうどよい温度で、体がほぐれて気持ちよかった。体のラインは相変わらず自分でも気に入っている。
浴室を出て着替え室へ。タンスを開けて下着をつけてから、きれいに畳まれていた白いブラウスと青いスカートを手に取って丁寧に着こなし、部屋を出た。
今日、グリーティア学校の新入生になる。
チュンチュン、朝の鳥の声が聞こえる。
空を飛ぶ鳥を見上げながら歩いた。朝日が明るく輝いている。目の前にはグリーティア学校への馬車が止まっていて、金色の髪の青年が中に座っていた。フィッシャンが待っていた。続いてサイビアも。
今日の朝は特別な生徒の受け入れを発表する会議があるらしく、フィッシャンは早めに行かなければならなかった。馬車に乗り込むと、目的地へと向かって走り出した。しばらくして到着し、三人が降りると、フィッシャンは先に会議の準備のために別れた。
残ったのは僕とサイビアの二人。並んで歩いていると、視線が集まってくる。
「初めまして、新入生です。よろしくね」
「……」
あれ、歩いて行ってしまった。声をかけた生徒グループがそのまま立ち去ってしまった。自分が怖そうに見えたのかな。考えすぎかもしれないけど。
「グリーティアの生徒のみなさん、おはようございます。魔法と誉れをもって、この王国の王子として——私、フィッシャン・ティアンナは、夢と強さを求める者たちが世界中から集うこの場所に立てることを、大変光栄に思います。ウェルティアンナ王国のグリーティア学校について、お伝えしたいことがあります。みなさんもすでに目にしたり耳にしたりしているかもしれませんが、この場で改めて、共にグリーティアにいられることを喜び合いたいと思います。互いを尊重し、穏やかに過ごしてください。王国で悪い知らせがあったにも関わらず、騎士とグリーティアの生徒たちの防衛によって、誰一人失うことなく人々の命を守ることができました。王子として、みなさんに感謝を申し上げます」
大きな会議室いっぱいに響くフィッシャンの声。拍手が続いた。
そして自分はというと——フィッシャンの後ろで完全に固まっている。緊張しすぎて体が動かない。
フィッシャンが今日は力を見せるか自己紹介をして覚えてもらうよう言っていたとはいえ、こんな展開になるとは。
「グリーティアの生徒全員が改めてこの場に揃ったことを祝して、次のお知らせです——特別生徒コー
スの新入生の紹介です!」
いきなり本題に入ってきた!?
「特別生徒コースの新入生をご紹介します」
「ビウ、登場の時間だよ。学校へようこそ」
「あ、うん」
もう怖がっている時間はない。みんなに覚えてもらうために。
風の魔法を脚に流し込んで集中する。爆発させないよう抑えながら。左手に氷の霧を作り始める。右手は眩しい光を帯びさせる。集中。制御してから放つ。風で跳ぶ。浮かんでいる間に霧を出す。その後に光を——よし、いける。いち、に、
「ふゅっ!」
「あの!新入生が現れた!」
「みなさん、初めまして!」
浮いた。成功だ。
「あれ、霧で見えなくなった、待って、どこに消えた?」
「普通の霧じゃない。霧から冷たさを感じる」
「私の名前は」
右手の光よ、輝け。
「ビウ。これが私の名前。よろしくね、みなさん!」
無事に着地してから手を振った。
「新入生!可愛い!」
「あの速さで魔法を作り上げるのはすごい!」
「エルフの大陸の魔法学校の出身かな、あんな使い方は」
「おおっ!」
拍手が鳴り響いた。会場右の隅のほうに、人ごみを少し避けるように立っているレオフィアが目に入った。彼女がこちらを見ていた。
「よろしくお願いします」
胸がどきどきする。興奮と恥ずかしさが同時に来た。自分はグリーティア学校の正式な生徒になった。
「ビウ、お昼は私と一緒に食べよう!」
「いや、私が先だし!」
「魔法を教えてもらえない?」
「えっ、あー……まず、場をお借りします。グリーティアの新しい特別生徒を紹介するために集まってくれたみなさん、本当にありがとうございます。それでは解散とします。フィッシャン・ティアンナ、以上で会議を終了とします」
フィッシャンが演壇を降りてきて、会議室から連れ出してくれた。
会議が終わって少し経ってから、いよいよ授業に出る時間になった。特別生徒として、サイビアと同じクラスに入れてもらえた。しかも案内役がいるので迷子にならなくて済む。
「さっきのビウ超越者様、すごかったですよ」
授業室へ向かいながら、サイビアが褒めてくれた。二人で歩く間、軽い話をする時間があった。
この並行世界でまた新入生として学校に来るとは。なんだかくすぐったい気持ちだ。女の体になってから、ちゃんと学校に通ったことがなかったな。自分がこの世界の授業についていけるか、少し心配になってきた。言語、魔法、計算——「心配」という名の悪魔が心を少しずつ齧り始めていた。
ドキドキとそわそわが混ざったこの感覚、早く消えてほしい。でも消えないなら、今は受け入れるしかない。
特別生徒コース一年の教室の扉が目の前で開いた。
これから先、メジックバウンの継承者として本気で向き合っていく。
「ひゃっほう!」
「もらえ、アイス・スマッシュ!」
「そんな適当な詠唱で魔法が発動するわけないだろ。ちゃんと詠唱しろ。速さを超え、目に留まりがたく、言葉の終わりとともに宿れ、砕け——サンダー・スパッシュ!」
「魔法が使えない……まさか!」
「ヴォクセル」
扉が開いた直後に、サイビアがすでに使っていた。
ドレークとハンスと共に戦った時の光景が頭に浮かんだ。あの時は、兵士たちが攻め込んでくる前に映像が重なって見えた。だが今回は、突進してきたのは獣族の兵士ではなく、杖を持った生徒三人だった。
サイビアに止められ、男二人と女一人が制服姿のままその場に倒れ込む。三本の杖が手から離れ、床へ落ちた。気づけば、自分はすでに教室へ入っていた。
「みんな、こんな形で新入生を迎えないでほしいな」
「いたたた……またやられた」
「こんな格好、恥ずかしすぎる」
倒れた三人が近くで唸っている。声をかけた方がいいかな。
「新入生……」
三人の一人がこちらを指差した。
「クラス二人目の女子生徒!?」
ちょっと待って、スカートの中が見えている。これで特別生徒なのか。
「この子はビウ。フィッシャン先輩の知り合いで、僕たちも一緒にいい経験をした仲間です。みなさん、ビウさんを歓迎してあげてください」
「ようこそグリーティア特別生徒コース一年へ。みんなで迎えるよ」
「魔法、守護者、あらゆる生命の多様性——これらが私たちの世界を構成している。ここに、あなたを
全員一致で迎え入れます!」
クラスの合言葉だろうか。それとも新入生を迎える小さな儀式?たぶんそういうものだと思う。こんな形で迎えてもらえるとは思っていなかったけど、少し嬉しかった。
「ビウです。よろしくお願いします」
「よろしく。エルミア王国の王女、ルミア・デメルの名誉にかけて、あなたに挨拶します」
丁寧にお辞儀をしてくれた。
王女!?自分、あの子のスカートの中を見てしまっていた……
「エルフとドワーフの混血に人間が少し混じったハーフです。ダミアン・ニシュ・リナシュ。王子でも名門の家柄でもないけど、よろしく」
「そして僕は、ベドオアル・ファングブレード。僕たち三人は絶対に偉大な魔法使いになってみせる」
「熱いな。でも人間なんてどれだけ偉大になっても、その偉大さと共に長くはいられないよ……」
おっ、上の方の太った青年がようやく口を開いた。
「でも僕は半人族だよ、アルヴィス」
「そろそろ席に着いた方がいいですよ。もうすぐ先生が来ますし」
「手間かけさせて申し訳ないですね」
「うん。思っていた感じとは少し違ったけど、よろしくね、サイビア」
「もちろんですよ」
サイビアの尻尾がリズムよく鞄を叩いていた。自分は二階部分の席に歩いて行って座った。アルヴィスという青年の前の席だ。机には引き出しと本がある。でも読めない。一文字も。




