18 「冒険の準備」
体が全部しびれていた。アイアンプルを使った後、体中の感覚が消えていって、視界が暗くなった。なんでまた体に変なことが起きているんだろう。最近こういうことが多い気がする。なんでだ。前に力を使ったときはこんなことなかったのに、今回はしびれてしまった。
これが意識を失って床に倒れる前に感じた最後の感覚だった。
目が覚めたら、また保健室にいた。前と違うのは、今回は男の姿で目が覚めたことと、並行世界には行かなかったこと、そして保健の先生が誰もいないことだった。ベッドから起き上がって、時間を確認しようと部屋の前の方に歩き出した。力を使った右腕がまだしびれていて、体を起こすのが少し面倒だった。
「ビウ、目が覚めたのか?しんどいなら引き続き横になってていいよ。先生に伝えておくから」
クスが保健室に入ってきて、僕が時計を見ようと歩いているのを支えてくれた。こんなに近くにいると、なんか胸がどきどきしてしまう。
「大丈夫だよ、右腕が少ししびれてるだけで」
「じゃあもう少し休んでてもいいじゃないか」
「全然大丈夫だって……」
まずい、まずい。なんでクスの顔を見て目を合わせられないんだろう。怒ってるのか恥ずかしいのかどっちだ。しかもクスがあんなことをしたことも頭にあって、あぁもう、こんなことが目の前にいるときに考えたくないのに。
「じゃあ教室まで支えていくよ」
「そういうのはいい。ぼ、僕は歩けるから」
クスにそう返してから、二人で保健室を出て教室へと向かった。運が悪いのか時間の流れが早いのか、目が覚めたときにはもう昼休みが終わっていた。おまけに午前の授業も欠席してしまった。残念だ。まさか力を試しただけで気を失うとは思っていなかったし、クスにまで迷惑をかけてしまった……
「ビウ、何か食べたいものある?」
食堂の前を通り過ぎたとき、クスが言った。僕は何も言わず首を横に振った。そのまま二人で歩いて教室まで戻った。この時間の先生がたまたま遅れて来たおかげで、なんとか授業には間に合った。そこから時間は流れ、夕方になった。先輩たちが今夜の冒険の話し合いをする時間だ。
***
なんか不思議な感じがした。自分の家に向かって歩いているというのが。学校とショッピングモールの近くにある家。ここしばらくは自分の家で寝ていなかった。お母さんにも学校初日から会っていなかった。帰ったら怒られるかな。そう思うとちょっと怖かった。
ガチャ
見慣れた玄関の扉がゆっくりと開いた。最初に湧いてきた感覚は怒られるかもという不安だ。でもまあ、この二、三日間、お母さんのところに来なかったのは自分のせいでもあるんだけど。
「ただいまです。パンニャー、お母さん」
玄関が開いた瞬間にそう言った。靴棚にはお母さんとパンニャーの靴があった。数秒後、靴を脱いでいると女性の声がした。
「ビウ、もう帰ってきたの?」
お母さんだ。お母さんがリビングから玄関まで走ってきて、そのまま僕をリビングに連れて行った。
リビングに座った。でも空気がなんとなく重くて、絶対長々と小言を言われる流れだなとすぐわかった。
「どこ行ってたの?」
「友達と遊んで、友達の家に泊まってたんです……」
「楽しかった?友達に変なことに誘われたりしてないよね?」
「し……してないですよ!絶対!」
「なら良かった。お腹空いてるでしょ。ご飯作ってテーブルに置いてあるよ」
「ありがとうございます、心配してくれて」
全然予想外だった。お母さんは全く小言を言わなかった。ただ心配していただけで、変なことに巻き込まれていないかを確認しただけだった。母子の会話が終わって、僕は自分の部屋に上がってタイラー先輩の制服を脱いだ。鏡で男の姿の自分を見ると、なんかちょっと不思議な感じがした。クスと一緒に買ったあの下着は、ちゃんとパンニャーがしまってくれていた。見ると、やっぱり小さく見える。クスが見たら気に入って……パンッ!パンッ!
頭の中があちこち飛んでいく前に、自分の頬を叩いて正気に戻った。ズボンと靴下を脱いで、ハーフパンツだけ穿いてシャワーを浴びに行く準備をした。今夜は並行世界に行く。そう思うと興奮が止まらない。新しい街があって、見たことないものがあって、エルフやサキュバスに会えるかも。ふふ、会えるかな。
『必ず待ってますよ、ビウ超越者様』
そうだ、危うく忘れるところだった。思い出さなかったら完全に忘れていたかもしれない。サイビアだ。一緒に連れていったら、サイビアにとっても新しいものが見られるかもしれないな。でも考えてみると、自分自身もあの世界のことはまだよくわかっていない。ちょっと気恥ずかしい気もする。それにしても今頃クスと先輩たちは何をしているんだろう。夕飯か、シャワーか、準備しているのか。こうして考えると今回の旅も何かと新鮮な感じがする。冒険者として行くのか、ギルドの名前で行くのか。それだけでもうかっこいい。
色々考えていたらシャワーに行くのをすっかり忘れていて、パンニャーが終わるのを待ってから入ることになってしまった。まあそれは別にいい。シャワーを浴びてから、お母さんとパンニャーと一緒に夕飯を食べた。今日もいつも通りおいしかった。食べながらあれこれ話して、食べ終わってから自分の部屋で少し消化を待ちながらスマホをいじっていると、目に入るものがあった——変な夢を見たという人の投稿だ。見慣れない街と見知らぬ人たちが出てきたけど、もう最近はその街が見えなくなったという。まさか、それが並行世界なんじゃないか。
ティン
クス:ビウ、今何してる?元気か?
ビウ:元気だよ。お母さんは怒らなかった。変なことしてないよねって聞かれただけ
クス:そうか……ビウ、電話していいか
ビウ:いいよ。イヤホン取ってくる
プルプル
「聞こえる?クス」
「うん、ちゃんと聞こえるよ」
「何かあったの?」
「学校から帰ってきてちょっと寂しくて」
「それならちょうどよかった。話し相手になるよ。ご飯食べ終わったところで、消化待ちながら寝るとこだし」
「そうか。ご飯おいしかった?」
「うん、めちゃくちゃおいしかった」
「僕はパンと牛乳だけだった。さっき運動してきて、特に何もやることなくて寂しくてお前に電話したくなった」
「クスも僕と変わらないじゃないか。はは」
「そうかもな。あとさ、一つ言いたいことがあって……」
「何?」
「明日、放課後に一緒にショッピングモール行かない?」
「ショッピングモール?うん、いいよ全然」
「ありがとう。本当に好きだよ、お前のこと」
「あ……え……ちょ……待って」
そう言ってから、寝る準備をして横になった。
/ふわっ/
今は並行世界にいる。クスとは別々のところに出た。クスにはもう伝えてあったけど、先輩たちはまだ来ていない。僕たちの方が数十分早く着いていた。先にサイビアを迎えに来たかったからだ。僕はカゴメのような衣装を持って、レイア城門の前へと歩いていった。すると後ろから声が聞こえてきた。サイビアだ。
「@#$#@#」
サイビアが叫んでいるのに、全然聞き取れなかった——翻訳魔法をかけていなかった。危うく完全に忘れるところだった。両手を合わせてこの世界の言葉を理解できるようにと唱えると、小さな魔法陣がいつもの場所に現れた。そのままその場でサイビアが来るのを待って、それから一緒に城門を出てクスのいる場所へと向かった。僕とサイビアは並んで歩きながら城外へ。クスとは約束の場所で合流した。僕はクスにサイビアを紹介した。クスがどうやってサイビアと知り合ったのかと聞いてきたので、自分たちの言葉で全部話した。サイビアはちょっと不思議そうな顔をしていた。




