17 「アイアンプル」
「さて、今日は三日目の登校だ。クラスの名簿もようやく落ち着いたはずだ。うちのクラスには全部で三十七人いる。三十七人目はついさっき名簿に追加されたんだが、今日は所用で欠席だ」
「あ、そうなんですか?」
「そういうことだ。特に連絡事項がなければ今のホームルームはここで終わりにする。余計なことはしないように。それと初日に出した問題、忘れずにやっておくように」
「はーい」
担任の先生がクラス全員の名簿について話し終えて、教室を出て行った。クラスは全部で三十七人。三十七人目というのは、シーリン先輩と上の人たちが女の子の名前に変えてくれた僕のことだ。ブレスレットがいつ僕を女にするかもわからないし、並行世界のこともある。それにしても昨夜、クスとあんなことをしたのに並行世界には行かなかったのはなぜだろう。あれだけ眠ったのに…
「ねえ、あなたって名前は何ていうの?」
考え込んでいたところに、クラスの女子生徒が話しかけてきた。
「あっ!僕ですか?」
「そう、あなたよ」
「僕はビウっていいます」
「ビウっていうんだ。なんで見たことなかったの?最初の二日間来てなかったの?」
「僕は……来て……いえ、来てなかったです」
そうだ。初日は一日中ほぼ女の姿でいたから、クラスメートが僕の顔を知らないのは当然だ。クス以外に誰とも話していなかったし、課外活動みたいなのもあったから全然馴染みがなかった。
「私はスター。学級委員長をやってる。よろしくね、ビウ」
「は……はい」
「同い年なんだから、敬語じゃなくていいよ。そういえば、隣の子の名前って知ってる?先生に呼ばれてたのを見たんだけど」
「隣の子ですか。クスって言います」
「そうなんだ。ふーん。じゃあ邪魔しないね。何かあったらいつでも言って」
「ありがとう」
「どういたしまして」
話しかけてきた女子生徒の名前はスター。しかも学級委員長だった。自己紹介して少し話してくれた。同い年の女子と話すのはなんとなく気恥ずかしかった。女友達なんてほとんどいないから、いたとしてもずいぶん前のことだ。
「ビウ、先輩たちのところに行こう」
そのとき教室に戻ってきたクスが席に着きながら言った。
「何かあったの?」
先輩たちが集まって話があるなら、何か起きたに違いない。さっきあの輪を片付けたばかりなのに、もう何かあるのか。
「何もないよ。ただ先輩たちがお前に話があるってさ。僕も行く」
「先輩たちはどこにいるの?」
「この前魔族を倒した場所だよ」
***
僕とクスは自分たちの校舎の下へと先輩たちに会いに行った。今日は特にシーリン先輩が僕と話したいことがあるらしい。というのも今日は先輩たちとクスが僕の力のトレーニングを手伝ってくれることになっているからだ。先輩たちとクスの力はそれぞれ違うけど、魔法の使い方が上手くなる手助けはしてもらえるだろう。以前僕が先輩の魔獣を倒したときも、ゴリラの彼を倒したときも、あのとき使った力は体が勝手に動いたもので、自分でどうやったかはよく覚えていない。ヒーリングだけは練習なしで使える。癒しの力だから、穏やかで清らかなものを思い浮かべるだけでヒーリングの粒子が湧き出てくる。気持ちの強さによって力も変わる。
今、僕はシーリン先輩が召喚した透明ドームの中にいる。さらに先輩は盾のような形のものも召喚した。形が不思議で、見慣れない文字や紋様が刻まれている。タイラー先輩によると、それは属性の力や一部の魔族の力にも耐えられる魔法の盾だという。それを聞いて驚いた。この盾の来歴が気になる。
「じゃあ私が教えるね。私たちの力って似てるところがあるから、少しくらいは役に立てるはずよ」
「シーリン先輩が教えてくれるんですか。ありがとうございます!」
「べ、別にそんな大したことじゃないけど」
「一つ聞くね、ビウ。力を使うとき、何か変な感覚があったことない?」
「変な感覚……ですか?」
「たとえば、さっきあの風使いの子を助けたとき。あのヒーリング、他のときより何か違う感じがしなかった?」
ヒーリングを使ったのは二回だ。一回目はサイビアの主人を助けようとして失敗した。二回目はクスを助けることができた。何が違ったんだろう。しばらく考えてからシーリン先輩に答えた。
「感情……気持ちの強さ……ですか?」
「それはほんの一部よ。ゴリラの子に使ったときの力を思い出して、その盾に向かって使ってみて」
「でも先輩、あのときは体が勝手に動いたんですけど……」
「それは気にしなくていい。やってみて」
シーリン先輩の言う通りにしてみた。あのときゴリラの彼が僕に向かってきて、怖くて体が震えていたのに、腕がゴリラの体の中心に向いていた。そしてすべてがスローモーションになって、何かを感じ取ったんだ。
「やってみます」
「うん、見てるね」
盾に向かって腕を伸ばし、あのときゴリラの彼に力を使ったときのことを思い浮かべた。すると目の前に波打つような糸状のものが見えてきた。その糸が輪を描きながら盾を覆い始めた。波打っていた糸が次第に静まって、またすべてがスローモーションに見えた。ブレスレットが紫色の光を放ったが、今度は僕の体には向かわなかった。僕は盾に意識を集中させて力を絞り出した。鉛筆か銃弾くらいの小さな鋭い鉄の弾が生まれ、いつものように深い紫紺の炎が纏わりついた。盾に狙いを定めて、そのまま放った。
ふゅっ!
鋭い鉄の弾が魔法の盾へと飛んだ瞬間、スローモーションに見えていたすべてが元のスピードに戻った。魔法の盾は紫紺の炎とともに粉砕された。さらにシーリン先輩の透明ドームにまで亀裂が走った。
「す、すごい!あのスピードと破壊力で魔法の盾を一撃で粉砕するなんて、普通じゃないぞ!」
タイラー先輩が叫んだ。自分が使った力に僕自身が驚いていた。先輩の言うスピードというのは、鋭い弾が生まれた瞬間のことなのか、それとも飛んでいったときのことなのか。
「すごいね、ビウ。こんな力を初めて見た」
クスがタイラー先輩と並んで見ていた。
「ありがとう、クス。タイラー先輩もありがとうございます」
「どうだった?何か感じられた?」
「波打つ糸みたいなものが見えました。それが盾を包んで、静まったところで力を絞り出しました」
「本当に感じられたんだ。たいしたものね。すごいわ」
「僕が感じたのって何ですか、シーリン先輩?」
「じた波ジタン——私が初めてそれを感じられたとき、召喚の力がずっと使いやすくなって、格段に強くなったわ」
「じた波ジタン……ですか。じた波ジタンを感じたとき、すべてがスローモーションに見えましたよね、先輩もそうでした?」
「スローモーションに見えるって?私にはそんなのないわ。波が出てくるのを感じるだけよ」
「そうなんですね」
「でも私より感じるのが早いわね。私は二ヶ月かかったもの」
「二ヶ月もですか!」
「そう。だから早めに教えておこうと思って。でもこんなに早いとは思わなかった」
シーリン先輩が大切なことを教えてくれた——じた波ジタンというものだ。波打つ糸のような形をしていて、狙った目標を包み込み、それが静まったとき力を扱いやすくする。これがあればもっと力を磨けそうだ。
もう一度あの力を使ってみたい。そして上手く使えるように練習して、かっこいい技名もつけよう。
「先輩、もう一度魔法の盾を召喚してもらえますか?」
「いいよ。でもその力、名前は何ていうの?」
「はい。最初の技の名前は -アイアンプル- にします」
第17話が終わりました。kuzagiです、またお会いしましょう。1週間ほど姿を消してしまってごめんなさい。
でもまた戻ってくるよう頑張りますね。
それでも新しい話を待っていてくださった読者のみなさん、本当にありがとうございます。




