16 「やってしまった」
「はぁ……はぁ……」
何時間もそういうことをした後、僕とビウは一緒に荒い息をついていた。僕の体は汗でびっしょりで、ビウも同じだった。二人ともそんな淫らなことを長い時間やり続けてへとへとになって、気がついたらビウに抱きしめられたまま眠っていた。
***
/ビウ視点/
いた……頭が痛い。昨夜飲んだあれ、なんであんなに苦かったんだろう。クスが言ってたようないい香りなんて全然しなかった。苦くて喉が熱くて、あれはいったい何だったんだ。
目が覚めると、見覚えのある部屋にいた。クスが気を失っていたときに付き添っていたあの部屋だ。でもなんで僕がここにいるんだろう。最後に覚えているのはグラスの飲み物を飲み干して、眠くなって、それ以降の記憶がまったくない。気づいたらここにいて、頭がずきずきと痛い。
「二人とも、もう起きていいよ。学校に行く時間だよ」
誰かの声が部屋のドアの前から聞こえた。
「二人とも、まだ起きないなら先に行くよ」
二人?!
どういう意味だ。二人って、僕一人で寝てるんじゃないのか。そう戸惑っていた瞬間、誰かの手が僕を抱きしめてきた。
ふわっ
「おはよう、ビウ」
僕を抱きしめてくる手と、おはようと言う男の声——クスだ。クスは上半身裸でズボンだけ穿いていて、鍛えた体の筋肉が丸見えだった。僕が男の姿のときとはまるで違う体つきだ。でもなんでクスが上着を脱いでいるんだ。しかも二人で同じベッドにいるし。
僕は自分の胸に手を当てた——何も着けていない。つまり、僕は裸でいるということだ。ちょっと待って。もしこういう状況なら、もしかして?! もしかして?! 僕たちはそういうことをしてしまったのか! 同じベッドで寝ていて、しかも僕まで裸だなんて。僕は抱きしめてくるクスの方を向いて、あの飲み物を飲んだ後に何が起きたのか聞いた。
「く、クス……昨夜、僕があれを飲んだ後、何があったの?」
「うん……えっと……なんて言えばいいかな。お前が飲んだのはお酒だよ。この世界のじゃなくて、あっちの世界で名の知れたやつ。しかもかなり強くて、一杯飲んだだけでお前が……」
「だから?だからどうなったの?」
「酔っ払って、それで僕がそういうことをお前としてしまって……」
「クスはあれを……つけてた?」
「あれって……?」
「避妊……」
「つけてなかった。まさかこんなことになるとは思ってなくて……ごめん」
そりゃそうだ!そりゃそうだ!そりゃそうだ!誰がこんな展開を想定してつけて来るんだ。クスはそう言いながら僕から目を逸らしていた。ごめん、という意味がこもった顔をしていた。すぐにわかった。でもなんでこんな妙な気持ちになるんだろう。こう言われて、どう感じているんだ。ショックなのか。嬉しいのか。驚きなのか。怒りなのか。感情の整理が全然追いつかなくて、ふわふわと宙に浮いているような感覚だ。クスと知り合ってまだほんの数日だ。あの並行世界に行ったときからここまで、長いのか短いのかもわからない。それなのにもうそういうことまでしてしまった……これは早すぎないか。
そんなことをベッドの上でぼんやりと考えていたら、いつのまにか涙が流れ落ちていた。
「何も考えられない」
気づいたらそんな言葉が口をついて出ていた。つもりはなかったのに。でもそのとき、頭の中にひとつだけ聞きたいことが浮かんできた。今すぐクスに聞きたい。できるだけ早く。
「ビウ……大丈夫か?」
「クス……」
「な……なに……?」
「クスは結局、僕のことを……男として見てる?それとも女として見てる?」
そんな気まずい質問をクスにぶつけてしまった。こんな出来事があった後なのに。どう考えてもクスは男って答えるに決まっている。だって自分は男だし。女の体は特別大きいわけでも豊かなわけでもないし、ずっと「僕」と呼んでいる。今こうして女の姿でいるのだってあの変な魔法のせいだ。合理的に考えたら男以外ありえない。
「女だよ」
クスがそう答えた後、しばらく静寂が続いた。クスの答えが、僕を驚かせると同時に顔を真っ赤にさせた。
「ちょっと待って……ちょっと待ってクス、女って答えたのって……本気で言ってる?!」
「本気だよ。だって僕はもうお前とそういうことをしてしまった。しかもそれは僕が悪かった。責任はちゃんと取る」
そうだ、思い返せばそういう気持ちがずっとあったんだ。昨日学校でクスとキスをして、クスが目を覚ますまでそばで付き添って、起きてきたとき本当に心の底から嬉しかった。自分が助けられたから。それだけじゃなくて、二人で好きだと伝え合って、抱き合って、キスもして。なのになんで今の自分がまるで自分じゃないみたいな感じがするんだろう。感情も思考も揺らいでいる。クスに何を話していたんだろう。
ガシャン!!
左手首のブレスレットが光を放った。いつもの紫色だ。紫色の光がゆっくりと僕の体を包み込んでいく。そして体がゆっくりと男に戻っていった。重かった胸が軽くなって、いつものように楽になった。身長が少し戻って、体の感覚がいつもの少し重い感じになる。
「男に戻ったか」
聞き覚えのある男の声——自分の声だ。クスの近くでそう呟いた瞬間、ちょっと待って、僕まだ裸じゃないのか?!!!
ガチャ!
「二人とも、いつになったら起きるの」
そのとき制服を着たシーリン先輩が部屋の扉を開けて入ってきた。同じベッドにいる裸の二人の男が目の前にいる状態で。
「せ、先輩!」
「あ……あなたたち、もう学校行く時間よ!」
シーリン先輩の前にあった光景は、同じベッドで上半身裸のまま並んでいる男二人だった。僕が説明しようとする前に、シーリン先輩はそれだけ言ってバン!とドアを閉めて出て行ってしまった。よりにもよってこんな場面を見られるとは。
「行こう」
クスは僕の頬にキスをしてから立ち上がり、タオルとズボンを持ってきて僕に渡して部屋を出た。
いきなり頬にキスしてくるとか、ずるいだろ……
***
あの朝の出来事を経て、今の僕は学校にいる。クスと一緒だ。今日は三日目の登校で、担任の先生が僕とクスを呼び出して、なぜ二日目に学校に来なかったのかと聞いてきた。課外活動やクラスメートとの交流など色々と機会を逃してしまったと言われた。僕には言い訳も答えも見つからなかったが、クスが「急用があって」と助けてくれたおかげで先生も特に追及しなかった。先生自身もそこまで厳しいタイプではなかったので、ラッキーだった。
考えてみれば、開校初日から僕とクスは魔族にやられてしまった。でもあの輪は片付けたから、しばらくは落ち着くだろう。今は僕とクスはタイラー先輩の制服を借りて着ている。先輩が何着も持っている理由はわからないけど、並行世界から持ち帰ったものだろうと思う。タイラー先輩はフードというグループの冒険者だから、予備を何着も用意しているんだろう。
クラスの名簿については生徒会長か、シーリン先輩の親友が手続きをしてくれた。名前は僕の名前に近くて、名前の前の称号だけ変わっている。女の姿のときの名前で、僕とクスと同じクラスに登録された。これからいろんなことが起きるんだろうな。




