第5話 「エリカちゃんと学校のテスト」
ある日の朝。
山本先生が、にっこり笑って言いました。
「今日は小テストをします」
教室に、いやな静けさが広がりました。
「えー!」
「聞いてないよー!」
「先生、抜き打ちはひきょうです!」
そんな中、エリカちゃんだけは自信満々でした。
「ふふん。テストなんて余裕よ」
「エリカちゃん、前に算数で大変なことになってたよね……」
「海斗君。過去を振り返る女は成長しないのよ」
「反省しないって意味じゃないかな……」
山本先生は黒板に大きく書きました。
エリカちゃんでもわかる? 学校クイズ
「今日はクイズ形式です。答えを書いてください」
「クイズならいけるわ!」
「エリカちゃん、落ち着いて考えてね」
第一問。
3×5=?
エリカちゃんはすぐに鉛筆を走らせました。
答え:珊瑚
山本先生の手が止まりました。
「エリカちゃん」
「はい」
「これは“さんご”ではなく、“さんかけるご”です」
「先生、読み方は合っています」
「算数です」
第二問。
2×4=?
エリカちゃんの答え。
妊娠
「どうして!?」
「にしん、です」
「八です!」
「八か月?」
「違います!」
第三問。
5×5=?
エリカちゃんの答え。
午後
「ごご」
「二十五です」
「午後二十五時?」
「ありません」
「不便ね」
海斗君は横から小声で言いました。
「エリカちゃん、九九は音じゃなくて数で考えるんだよ」
「音を大切にするのは日本人の心よ」
「算数のテストだよ」
第四問。
トイレの花子さんは、どこにいると言われていますか?
エリカちゃんは自信満々に書きました。
答え:うちの学校の女子トイレ。最近ちょっと友達。
「これは正解……でいいのかしら」
山本先生は採点に迷いました。
第五問。
学校の七不思議を解決するときに大切なことは?
エリカちゃんの答え。
答え:まず斬る。
「不正解です」
「どうしてですか?」
「話し合いです」
「斬ってから話し合えば安全です」
「順番が逆です」
第六問。
音楽室のピアノは学校の備品です。どう扱うべきですか?
エリカちゃんの答え。
答え:呪いを取ってリサイクルショップに売る。
「売ってはいけません」
「でも資源は大事です」
「学校の物です」
「返したじゃないですか」
「売ったあとにね」
第七問。
人体模型が花子さんにつきまとっています。どうしますか?
エリカちゃんは少し考えてから書きました。
答え:関節を斬って動けなくする。胸に“ストーカー禁止”と書く。
山本先生は沈黙しました。
「……道徳的には不正解ですが、結果だけ見ると正解に近いのが困ります」
「先生、丸ですか?」
「三角です」
「斬り方はきれいでした」
「そこは評価しません」
第八問。
次のうち、学校に持ってきてはいけないものはどれでしょう。
A・鉛筆 B・消しゴム C・チェーンソー
エリカちゃんは堂々と書きました。
答え:全部持ってきていい。
「違います!」
「鉛筆も消しゴムもチェーンソーも、私には必要です」
「最後だけ不要です」
「乙女のたしなみです」
「違います」
第九問。
海斗君はエリカちゃんにとって何ですか?
山本先生は息抜きのつもりで出しました。
しかし、エリカちゃんの目が本気になりました。
答え:未来の旦那様。私のもの。誰にも渡さない。
教室がざわつきました。
海斗君は真っ赤になりました。
「エリカちゃん、テストに何書いてるの!?」
「真実よ」
「先生、これは……」
山本先生は赤ペンを持ったまま悩みました。
「……気持ちはよく伝わりました。丸にすると教育上問題があるので、花丸は避けます」
第十問。
このテストで一番大切なことは何でしょう?
エリカちゃんの答え。
答え:山本先生を怒らせないこと。
山本先生は、ようやくにっこり笑いました。
「正解です」
「やったわ海斗君!」
「そこだけ満点なんだ……」
放課後。
エリカちゃんの答案は、山本先生の机の上に置かれていました。
点数は――
十点。
「エリカちゃん、十点だったね」
「十点も取れたわ」
「前向きだね……」
山本先生は燃え尽きた顔で言いました。
「エリカちゃん。放課後、補習です」
「えー」
「海斗君も付き添いです」
「僕もですか!?」
「あなたがいないと、エリカちゃんが逃げます」
「先生、よくわかってるわね」
「わかりたくありませんでした」
こうしてエリカちゃんは、放課後に九九の補習を受けることになりました。
ただし。
その日の黒板には、なぜかこう書き残されていたそうです。
3×5=珊瑚ではありません。




