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第4話 「七不思議第2夜 人体模型像と花子さん」

音楽室のピアノ事件から、数日後。

学校では新しい噂が流れていました。

「夜中に理科室の人体模型が歩くらしいよ」

「しかも女子トイレの前で立ってるんだって」

「怖っ……」

「でも一番怖いのは、それを机に固定した犯人だよね……」

犯人は、今日も平然と教室でイチゴミルクを飲んでいました。

「海斗君、今日の七不思議は理科室ね」

「エリカちゃん、今度こそ何も持ち帰らないでね」

「わかってるわ。今回は話し合いで解決するわ」

「チェーンソーを持ったまま言われても説得力ないよ」

その夜。

エリカちゃんと海斗君は、ふたたび夜の学校へ忍び込みました。

目的地は理科室。

……のはずでしたが。

「エリカちゃん、あれ」

海斗君が指さした先。

女子トイレの前に、人体模型が立っていました。

赤と青の血管。

むき出しの筋肉。

半分だけ皮膚のない顔。

その姿だけなら、十分に怪異です。

しかし人体模型は、なぜか手に小さな花束を持っていました。

「……何してるのかしら」

「告白かな……」

人体模型は、女子トイレの扉をじっと見つめながら、ぎこちなく体を揺らしていました。

ぎし。

ぎし。

ぎし。

「花子さん……」

かすれた声が、人体模型の喉の奥から漏れました。

「花子さん……僕の心臓を受け取って……」

「心臓ないでしょ」

エリカちゃんが即座に突っ込みました。

人体模型はぎょろりと振り返りました。

「邪魔をするな……僕は花子さんに会いに来たんだ……」

女子トイレの中から、震えた声がしました。

「帰って! 何度も言ってるでしょ! あなたとは付き合いません!」

「花子さん、いるのね」

「エリカちゃん!? 助けて! この人、毎晩トイレの前に立ってるの!」

花子さんが扉の隙間から顔だけ出しました。

「最初は理科室から迷ってきただけだと思ったの。でも、毎晩毎晩、花束とか骨格標本の指輪とか持ってくるのよ!」

「骨格標本の指輪?」

「誰かの肋骨を曲げたやつ!」

「うわあ……」

海斗君が素直に引きました。

人体模型は胸を張りました。

「愛とは、骨の髄まで捧げることだ」

「それはただの教材破壊よ」

エリカちゃんは冷静に言いました。

人体模型はぎしぎしと体を鳴らしながら、花子さんへ近づこうとしました。

「花子さん……僕と一緒に理科室へ帰ろう……」

「いやー! トイレがいいー!」

「花子さんも花子さんで変なこと言ってるよね」

「海斗君、今はそこじゃないわ」

エリカちゃんは一歩前に出ました。

「人体模型さん」

「なんだ」

「女の子が嫌がっているのに付きまとうのは、よくないわ」

「君に言われたくない気もするよ」

海斗君が小声で言いました。

エリカちゃんは聞こえなかったふりをしました。

「花子さんは困っているの。だから帰りなさい」

「断る。僕の愛は止まらない」

「そう」

エリカちゃんはにっこり笑いました。

「じゃあ、止めてあげる」

ウイイイイイイイイイイイン!

夜の廊下に、けたたましいエンジン音が響きました。

人体模型は後ずさりました。

「ま、待て。暴力はよくない」

「ストーカーもよくないわ」

「正論だ……」

海斗君がうなずきました。

次の瞬間、エリカちゃんのチェーンソーが一閃しました。

人体模型の右腕が、花束ごとぽーんと飛びました。

「ぎゃああああ! 僕の上腕二頭筋が!」

「教材としては正しい悲鳴なのかな……」

「まだよ」

エリカちゃんはさらに踏み込み、脚の関節部分だけを器用に斬りました。

人体模型は、その場にがしゃんと崩れ落ちました。

「う、動けない……」

「これで付きまとえないわね」

花子さんがトイレから恐る恐る出てきました。

「あ、ありがとうエリカちゃん……」

「いいのよ。女の子を泣かせる男は斬るって決めてるから」

海斗君は冷や汗をかきました。

「ぼ、僕も気をつけるね」

「海斗君は別よ」

「別なんだ……」

花子さんは崩れた人体模型を見下ろしました。

「でも、これどうするの?」

「捨てるのはもったいないわね」

「嫌な予感がするよ」

エリカちゃんは人体模型の頭を持ち上げ、にっこり笑いました。

「ストーカー防止の見せしめとして、女子トイレの入口に飾りましょう」

「それ花子さんが毎日見ることになるよ!?」

「いやー! それはそれで怖い!」

花子さんが涙目で叫びました。

するとエリカちゃんは少し考えました。

「じゃあ宮坂さんの机に戻す?」

「もっとだめだよ!」

結局、人体模型は理科室へ戻されました。

ただし、エリカちゃんによって関節部分に大量の接着剤が流し込まれ、二度と歩けないように固定されました。

さらに胸の部分には、油性ペンでこう書かれました。

ストーカー禁止

翌朝。

理科室で人体模型を見つけた理科の先生は、しばらく無言でした。

そして職員室で山本先生に言いました。

「山本先生、人体模型に生活指導が入っています」

「……またエリカちゃんですね」

一方、女子トイレでは。

「これで安心してトイレに住めるわ……」

花子さんがほっと息をついていました。

「でも花子さん、住む場所がトイレでいいの?」

「ボッチには落ち着くのよ」

「そういうものなのね」

エリカちゃんは納得しました。

海斗君は納得できませんでした。

「ねえエリカちゃん」

「なあに?」

「今回だけは、ちょっといいことした気がするね」

「そうでしょ?」

エリカちゃんは胸を張りました。

「私はか弱い女の子の味方よ」

「うん。でも、そのか弱い女の子の味方が一番怖いんだよね」

花子さんは深くうなずきました。

その日から、人体模型は二度と女子トイレの前に現れなくなりました。

ただし。

理科室の人体模型は、今でも夜になると少しだけ震えているそうです。

チェーンソーの音が聞こえた夜だけ。


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