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第3話 「七不思議第1夜 音楽室のピアノ編」

夜の学校には、音がない。

……はずだった。

けれどその夜、二階の音楽室から、ぽろん、ぽろん、とピアノの音が聞こえていました。

「海斗君、聞こえる?」

「うん。聞こえるけど……帰ろう?」

「どうして?」

「だって夜中に勝手にピアノが鳴ってるんだよ。普通に怖いよ」

「大丈夫よ。ピアノなら斬れるわ」

「斬らないでね!?」

二人は懐中電灯を手に、音楽室の前までやって来ました。

扉の向こうから、ぎこちない旋律が続いています。

「……下手ね」

「エリカちゃん、幽霊にも練習中ってことがあるんだよ」

「幽霊ならもっと長く練習してるでしょ」

エリカちゃんは遠慮なく扉を開けました。

音楽室の中央。

月明かりに照らされたグランドピアノが、誰も座っていないのに鍵盤を動かしていました。

ぽろん、ぽろん。

ぽろろろろん。

「本当に勝手に鳴ってる……」

「海斗君、これ持って帰りましょう」

「えっ」

「自動演奏ピアノよ。便利じゃない」

「七不思議を持って帰る発想はなかったよ!」

そのとき、ピアノの音が急に激しくなりました。

ジャン! ジャン! ジャン!

まるで怒っているように、低い音が音楽室に響きます。

「帰れ……帰れ……」

「しゃべった!?」

「海斗君、これは不良品ね」

「怪異に不良品って言うの!?」

エリカちゃんはどこからともなくチェーンソーを取り出しました。

ウイイイイイイイイイン!

けたたましいエンジン音が鳴り響いた瞬間、ピアノの音がぴたりと止まりました。

「修理するわ」

「それ分解って言わない?」

「違うわ。リサイクルよ」

エリカちゃんはピアノの側面を少しだけ斬り、内部をのぞき込みました。

中には黒いもやもやしたものが絡みついていました。

「これが呪いね」

「見えるんだ……」

「埃みたいなものよ」

エリカちゃんはチェーンソーの刃先で、黒いもやもやだけを器用に削り取りました。

ギャアアアアア!

音楽室に悲鳴が響きます。

その後、ピアノは普通のピアノのように静かになりました。

「よし、直ったわ」

「本当に直ったの?」

「たぶん」

エリカちゃんは満足そうに頷くと、窓の外を見ました。

「じゃあ運ぶわよ」

「どうやって!?」

――翌朝。

学校中がまた大騒ぎになりました。

「音楽室のピアノがない!」

「誰かが夜中に持っていったらしい!」

「鍵盤だけ一個落ちてる!」

音楽の先生は真っ青になり、山本先生は額を押さえました。

一方そのころ。

町外れのリサイクルショップでは、店主が困った顔でグランドピアノを見上げていました。

「お嬢ちゃん、これ本当に売るの?」

「ええ。多少いわくつきだけど、自動演奏機能つきよ」

「いわくつきは困るなあ」

「夜中に勝手に鳴るだけよ」

「それが困るんだよ」

海斗君は横で小さく頭を下げました。

「すみません……」

「海斗君が謝ることないわ。これは資源の有効活用よ」

「盗品の有効活用はだめだよ……」

店主はピアノをぽんと叩きました。

すると、鍵盤が勝手に動きました。

ぽろん。

曲は、なぜか「エリーゼのために」でした。

「おお、自動で鳴るのか。これは珍しいな」

「でしょう?」

「でも深夜に鳴ったら近所迷惑だな……」

「じゃあ深夜料金を取ればいいわ」

「そういう問題じゃないよエリカちゃん」

結局、ピアノは「訳あり自動演奏ピアノ」として買い取られました。

買取金額は、三千円。

「安いわね」

「盗んだものに値段がついただけすごいよ」

「これで海斗君にたこわさ買ってあげる」

「僕は普通のお菓子でいいかな」

その日の放課後。

山本先生はエリカちゃんを職員室に呼びました。

「エリカちゃん」

「はい」

「音楽室のピアノがなくなりました」

「大変ですね」

「あなた、何か知っていますか?」

「リサイクルは大事だと思います」

「エリカちゃん」

「はい」

「学校の備品はリサイクルショップに売ってはいけません」

「でも先生、呪いは取っておきました」

「そういう問題ではありません」

山本先生はにっこり笑いながら、エリカちゃんの頬をむにっとつまみました。

「うにゅ」

「ピアノを返してきなさい」

「もう売っちゃいました」

「返してきなさい」

「たこわさ代に……」

「返してきなさい」

「はい……」

こうして、音楽室のピアノは無事に学校へ戻されました。

ただし、その日から音楽室のピアノは夜中に勝手に鳴らなくなりました。

代わりに。

リサイクルショップの片隅に置かれていた古いオルガンが、夜中に勝手に「エリーゼのために」を弾き始めたそうです。

どうやら、呪いは完全には取れていなかったようでした。

「エリカちゃん、あれ本当に修理できてたの?」

「細かいことは気にしちゃだめよ海斗君」

「細かくないと思うよ……」

こうして、七不思議第1夜。

音楽室のピアノは、エリカちゃんによって一度リサイクルショップに売り払われたのでした。


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