第45話 「エリカちゃんと文化祭準備」
ハロウィンが終わって、すぐ。
学校では、文化祭の準備が始まりました。
クラスごとに出し物を決めるのです。
「うちのクラスは、どうしようか」
「お化け屋敷とか!」
「定番だね!」
「いいねー!」
クラスのみんなは、すぐにお化け屋敷で意見が一致しました。
そんな中、エリカちゃんと海斗君は、机に並んで座っていました。
「お化け屋敷……」
「エリカちゃん、笑顔がよくないよ」
「私が出るだけで、もう完成じゃないかしら」
「クラスの出し物だから」
「私の独演会でもいいわ」
「クラス全員の出番がなくなる」
山本先生は、にっこり笑って言いました。
「お化け屋敷ですね。みなさんで、衣装と小道具と通路の飾り付けを作りましょう」
「はーい!」
「ただし、エリカちゃん」
「はい」
「本物のお化けは、登場させないこと」
「先生、そんな約束、できません」
「できるところまでで結構です」
「努力します」
「努力でいいです」
山本先生は、ここのところ、努力でいいです、で済ませることが増えていました。
準備が始まりました。
段ボールで壁を作り、黒い布を垂らし、しゃれこうべの人形を吊るします。
クラスメイトたちは、いきいきと働いていました。
「ここに通路ね」
「ここで急に出てくるんだよ」
「血のりのバケツも置こうか」
「血のりは多めにね」
エリカちゃんは、その様子を見ながら言いました。
「みんな、本物に染めた方が早いと思わない?」
「ぜったいだめだよ!」
そんな準備の中。
段ボールの陰に、ぴょこっと、何かが現れました。
「やあ、こんにちは」
おかっぱ頭の幽霊の女の子でした。
ただし、うちの学校の花子さんではありません。
別の学校から来た、お化け屋敷を聞きつけてきた、別の花子さんでした。
「あら、賑やかね、ここ」
「えっ、誰?」
「私は隣の学校のトイレに住んでいる花子よ。お化け屋敷って聞いて、つい来ちゃった」
「来ないでよ! 学校の文化祭にトイレの花子が乱入してくるなんて!」
「えー、お友達のお化け屋敷なら、応援したいでしょ?」
「お化け屋敷の応援は、お化けの方じゃないの!」
そして、段ボールの天井からは、人体模型が、ぎぎぎ、と動き出しました。
「またあなたなの!?」
かつてエリカちゃんに関節を接着剤で固められて、理科室に固定されたあの人体模型が、なぜか復活していました。
「やめろやめろ、また斬られるぞ!」
人体模型は、ぎぎぎと震えながら、出口の方へ後退りしました。
そして音楽室の方からは、ぽろん、ぽろん、と勝手に鳴るピアノの音まで響いてきました。
「ピアノまで参加しに来てる!」
文化祭の準備中の教室は、本物の怪異だらけになっていました。
それを聞きつけたクラスメイトたちは、口をぽかんと開けました。
「うちのお化け屋敷、本物が混ざってる……」
「本物の方が、雰囲気出るんじゃない?」
「いや、許可とってない出演者ばっかりじゃん」
山本先生は、頭を押さえました。
「エリカちゃん」
「はい」
「これは、あなたが呼んだ?」
「先生、私は何もしていません」
「噂は、するだけで呼びます」
「噂は私のせいではありません」
「あなたが学校にいるだけで、怪異が集まるんです」
「それは私のせいではありません」
「いや、あなたのせいです」
「うにゅ」
エリカちゃんは、ふっと立ち上がりました。
そして、にっこり笑いました。
「みんな、安心して。私が、整理整頓するわ」
「整理って、やめて!」
「お化け屋敷をやるのは、うちのクラスよ。乱入は許さない」
ウイイイイイイイイイン!
教室にけたたましいエンジン音が響きました。
人体模型は、ぎゃっ、と叫んで、廊下に逃げ出しました。
別の学校の花子さんは、ぴゃっと飛び上がりました。
「やだ、本物のチェーンソーじゃない!」
「本物よ」
「私、出口から失礼するわ!」
「うちの花子さんによろしく」
「伝えとくわ!」
ぴゅう、と窓から消えていきました。
音楽室のピアノも、ぽろろ、と音を止めました。
廊下の人体模型は、関節がきしむ音を立てながら、理科室まで自力で帰っていきました。
「自分で帰った……」
「理科室で動かないように、後でセメント追加しておくわ」
「やめてあげなよ……」
しかし、教室の隅から、まだ何かの気配が漂っていました。
段ボールで作った棺桶のなかで、小さな影が、もそもそと動いています。
「誰、まだいるの?」
ぱかっと棺桶の蓋が開きました。
中から、宮坂さんが、ぱっと顔を出しました。
「捕まえたら、何かもらえると思って!」
「宮坂さん、なんでいるの!?」
「下見に来たのよ、お化け屋敷の」
「うちのクラスじゃないでしょ!」
「下見の権利は誰にでもあるわ」
「ない、それはない」
エリカちゃんは、すうっと目を細めました。
「宮坂さん、海斗君のとなりを狙ってきたわね」
「ち、違うわよ! ただ、棺桶のなかにいたら、海斗君が驚いてかばってくれるかもって……」
「つまり、狙ってきたわね」
「そういう言い方やめなさい!」
「海斗君防衛戦、起動」
「起動しないで!」
ウイイイイイイイイイン!
「ぎゃー! 覚えてらっしゃい、エリカちゃん!」
「覚えてるわ。お化け屋敷の中身を勝手に増やそうとした人として」
宮坂さんは、棺桶を蹴飛ばして廊下に飛び出していきました。
山本先生は、廊下を走らないでください、と注意しようとして、声を出すのをやめました。
「逃げる方は、走っていいことにします……」
「先生、ルール変更ですか?」
「特例措置です」
文化祭当日。
お化け屋敷は、大盛況でした。
ぞろぞろとお客さんが入り、にぎやかな悲鳴が次々に上がります。
ただし、不思議なことに、お化け役の子どもたちが、口々にこう言うのでした。
「あれ、なんか、出てこない」
「タイミング合わないんだよ」
「お化けが、なんか、避けてる気がする」
そう。
クラスのお化け役の子たちが、本物っぽく見せようとして物陰に隠れていると、その物陰のもっと奥から、何かの気配がさあっと逃げていくのです。
本物のお化けたちは、エリカちゃんを警戒して、物陰の奥から、さらに奥へと、すごすごと退散していました。
「お化け屋敷なのに、お化けが逃げる」
「それ、もう怖くないよね」
「むしろ清潔」
「逆に妙な物件だな……」
山本先生は、入り口で受付をしながら、ぼそりと言いました。
「うちのお化け屋敷、お祓い済みです……」
「先生、宣伝文句が変です」
「変ですけど、本当です」
お客さんの一人が、出口で感想を聞かれて言いました。
「ここのお化け屋敷、なんか不思議。怖いんだけど、安心感がある」
「安心感のあるお化け屋敷って、何?」
「強い守護霊がついてるみたいな」
山本先生は、苦笑しました。
「ええ、まあ、強いのが、いますね」
エリカちゃんは、出口の脇で、ふんふんと胸を張っていました。
「文化祭、無事に終わってよかったわね、海斗君」
「うん。エリカちゃんがいなかったら、別の意味で大変だったかもね」
「私がいたから、大変だったとも言うわ」
「そっちが正解だね」
なお、文化祭が終わった後、教室の入口には新しい注意書きが貼られました。
**お化け屋敷は、お客様と一緒に楽しむ場所です。**
その下に、小さくこう書かれていました。
**※本物のお化けは、お招きしないでください。**
そして文化祭の感想ノートには、お客さんがこう書き残していました。
**強いお化け屋敷でした。**
クラスのみんなは、その意味を、ずっと深いところで理解していました。




