第43話 「エリカちゃんと秋の味覚」
ある日のチェーン荘の縁側。
エリカちゃんは、栗の入った笊を抱えて、にこにこしていました。
「海斗君、今日は秋祭りよ」
「秋祭り?」
「秋の味覚祭り」
「自分で開催する気だ」
恵那ちゃんが算盤をはじきながら言いました。
「収支報告。栗、無料で拾ってきた。経費ゼロ」
「拾うって、どこで?」
「裏山」
「裏山に栗の木あったっけ……」
「昨日まではなかった」
「あったのね」
秀明おじさんが頭をかきました。
「嬢ちゃんがチェーンソーで木の根元から振動与えたら、栗が一斉にざーっと降ってきたんだよ」
「振動収穫よ」
「収穫の発想が物騒だよ……」
縁側には、秋らしい食材が並んでいました。
栗、サツマイモ、サンマ、松茸。
そしてなぜか――
塩辛、たこわさ、わさび漬け。
イチゴミルク、瓶ビールの空き瓶(中身は別の人が飲んだ)。
「エリカちゃん、今日のテーマは秋の味覚じゃないの?」
「秋の味覚よ」
「塩辛は通年だよ」
「秋にも食べていいわ」
「いやそうじゃなくてね……」
まずは焼き芋から始まりました。
秀明おじさんが、庭で焚き火をして、サツマイモをアルミホイルで包んで突っ込みました。
ほくほく。
甘い香りが、縁側まで届きます。
「いい匂いね」
「秋だね」
「焼き芋は、塩辛で食べるとおいしいわ」
「絶対違うよ」
「ビーフジャーキーでもいいわよ」
「もっと違うよ」
エリカちゃんは焼き芋を半分に割り、上に塩辛を乗せました。
「焼き芋に塩辛、なかなかね」
「組み合わせの感想を求めてないよ」
エリポンが、わくわくとしっぽを振りました。
「エリポンも食べるでちゅ!」
「エリポン、焼き芋に塩辛は……」
「おいしいでちゅ!」
「すごいなこの種族」
マリンちゃんも、ぬるりと這ってきて、足元の焼き芋の皮をじゅうっと溶かしました。
「マリンちゃん、皮は溶かさなくていいでしょ」
「マリンちゃんは皮派なのよ」
「皮しか食べない」
「むしろ皮が好物」
ぷるん。
マリンちゃんは何も言わずに揺れました。
次にサンマです。
七輪で焼くと、焼き芋とは違う、香ばしい煙が立ち上がります。
じゅう。
じゅう。
エリカちゃんは大根おろしを脇に置いて、にっこり笑いました。
「サンマには大根おろし、よね」
「うん、わかる」
「あと、塩辛」
「わからない」
「醤油の代わりに、塩辛のつゆをかけるの」
「もはや何の料理?」
エリカちゃんは、塩辛のつゆを焼きサンマにかけ、その上にイチゴミルクをコップに注いで、ふうっと一息つきました。
「秋の幸せね」
「組み合わせが渋滞してる」
そして、ついに松茸が登場しました。
「松茸って、高いんだよね」
「これは秀明おじさんが拾ってきたから無料よ」
「拾うとこあったの?」
「あった」
「裏山かしら」
「正解」
秀明おじさんは遠い目をしていました。
「あの裏山、もう何度目だ……」
「秋の山の恵みね」
「俺が拾ったんだけどな」
松茸は焼くだけで贅沢な香りがします。
ふんわりとした湯気が、鼻先まで届きました。
「松茸ご飯、いいわね」
「うん、それは正解だね」
「松茸ご飯に、塩辛と、イチゴミルクと、焼きサンマよ」
「最後の一品、要らない」
「秋の彩り」
「彩りが暴走してる」
海斗君は、ふと自分のお皿を見ました。
そこには、エリカちゃんが盛り付けてくれた、本日の総合プレートが乗っていました。
松茸ご飯。
焼きサンマ(塩辛だれがけ)。
栗の渋皮煮。
サツマイモの蒸かしたの。
たこわさ。
わさび漬け。
お椀のなかに、なぜか、イチゴミルク。
「エリカちゃん、最後の一個が浮いてるよ」
「お吸い物の代わりよ」
「お吸い物が甘い世界線、ある?」
「ここよ」
「ここだけだよ……」
海斗君は、おそるおそるイチゴミルクを口に含み、続けて松茸ご飯を口に運びました。
「……あれ」
「どう?」
「思ったより……合う」
「でしょ?」
「いやでも合っていいの、これ……?」
「秋ね」
「秋関係ある?」
花子さんがトイレから顔を出しました。
「私もちょうだい」
「花子さんはどれにする?」
「松茸と、たこわさ」
「渋いわね」
「私も酒に合うものが好き」
「未成年でしょ」
「幽霊に年齢はないわ」
恵那ちゃんが算盤を弾き終えました。
「秋の味覚祭り、収支発表。原価ほぼ無料。家計プラス」
「恵那ちゃん、味の感想は?」
「味より数字」
「変わらないね……」
秋の風が、縁側を通り抜けていきました。
夕日が低くなり、空がオレンジ色に染まりました。
「海斗君」
「なに、エリカちゃん」
「来年も、秋の味覚祭りやろうね」
「うん、いいよ。でも次は、もうちょっと普通の組み合わせにしようね」
「努力するわ」
「いつもの返事だね」
「努力はするわ」
「努力はね」
なお、その日のチェーン荘の冷蔵庫には、新しいメモが貼られました。
**秋の食材は、季節限定の味わいを大切にしましょう。**
その下に、小さくこう書かれていました。
**※塩辛とイチゴミルクは通年で食卓に並びます。**




