表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/81

第41話 「エリカちゃんと運動会」


そして、運動会本番の日。

青空、ブラスバンド、万国旗。

校庭は華やかな雰囲気で包まれていました。

ただし。

赤組のテント前では、子どもたちが少しだけ青ざめていました。

「今日、エリカちゃんいるんだよな……」

「先週、綱引きの綱を斬ったエリカちゃんが……」

「先生もう胃薬何錠飲んだだろう……」

山本先生は、テント裏で本気のストレッチをしていました。

「今日は、何が起きてもおかしくないので、心の準備を……」

「先生、教師の準備運動の意味が違うと思うんですけど」

エリカちゃんは赤組の鉢巻きを、きりりと締めて言いました。

「海斗君、今日は私たちの日よ」

「組、違うけどね」

「えっ」

「エリカちゃん赤、僕は白だよ」

「許されざる組分けね」

最初の競技は、徒競走でした。

エリカちゃんが二年生の組で、スタート地点に立ちました。

ピストルの先から白い煙が上がる――そのはずでした。

ピーッ。

笛が鳴った瞬間。

エリカちゃんは、なぜか地面ではなく、肩を回しました。

そして、体操服の下からチェーンソーを取り出しました。

「待って、エリカちゃん、徒競走に何持ってきてるの!?」

「ペースメーカーよ」

「道具じゃないでしょ!」

ウイイイイイイイイイン!

スタート地点に、けたたましいエンジン音が響き渡りました。

他の走者は、その瞬間、全員ぴたりと止まりました。

「えっ」

「うっ……動けない」

「足が……勝手に……」

保護者席もどよめきました。

「あの子、何してるの!?」

「あの音、本物のチェーンソーじゃない?」

「なんで運動会にチェーンソー!?」

エリカちゃんはひとり、ゆっくりと走り出しました。

他の走者は固まったまま動けません。

「ねえみんな、走らないの?」

「走れない……」

「足が震えて……」

「じゃあ、お先にゴールするわね」

エリカちゃんは、ぱたぱたと走り、テープを切ってゴールしました。

ぶっちぎりの一位です。

保護者席から、ぱらぱらと拍手が起きました。

ただし、半分は引きつった顔の拍手でした。

山本先生は頭を押さえました。

「あれは……失格にしていいんでしょうか」

「ルール上、走者は走っただけです」

「他の走者を、音で止めました」

「確かに……」

山本先生はマイクを取りました。

「えー、二年生の徒競走、エリカちゃんは特別賞です」

「特別賞って、何?」

「順位ではないんです」

「うにゅ」

午後の最初の種目は、借り物競走でした。

お題が書いてある紙を引いて、それを観客席から借りてきてゴールするゲームです。

エリカちゃんが二年生の代表として出場することになりました。

「エリカちゃん、ふつうに、ふつうに行ってね」

「任せて」

ピーッ。

笛が鳴り、エリカちゃんはお題の紙を取りました。

そして、紙を開いて、にっこり笑いました。

書かれていたのは――

『好きな人』

エリカちゃんの目が、きらりと光りました。

「ロックオン」

「言い方が物騒だよ」

「どこ向いてるんだよエリカちゃん」

「白組のテント」

エリカちゃんは、すごい速度で白組のテントへ走っていきました。

そして、テントの中で水を飲んでいた海斗君を見つけました。

「海斗君」

「ぶっ」

「お題よ」

「お題って?」

「好きな人を借りてくるの」

「エリカちゃん、それはいわゆる、ご家族とかご親族とかでも――」

「海斗君よ」

「やっぱり!」

エリカちゃんは海斗君の手を握りました。

「来て」

「いやいやいや」

「お題なの」

「お題でも、僕は借り物じゃないよ」

しかしエリカちゃんは、すでに海斗君を引っ張って走り出していました。

保護者席はざわめきました。

「あら、可愛い」

「あの子の、お友達かしら」

「お友達には見えないわね……」

「将来有望ね……」

山本先生は、ホイッスルを吹こうとして、やめました。

「これは……止めない方がいい気がします……」

クラスメイトの女子たちが、目を輝かせていました。

「告白だ!」

「校庭での告白!」

「ロマンチック!」

クラスメイトの男子たちは、別の意味で目を見開いていました。

「海斗、生きて帰ってこいよ……」

「なんで運動会で命の心配してるのよ……」

エリカちゃんは海斗君を引っ張ったまま、ゴールテープを切りました。

ピーッ!

ゴールの先生が、お題を読み上げました。

「お題は……『好きな人』!」

保護者席が、わあっと盛り上がりました。

海斗君は、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になっていました。

エリカちゃんは胸を張りました。

「合っているわ」

「正解! です!」

「エリカちゃん、もう放してよ!」

「離さないわ」

「種目はもう終わったよ!」

「終わってないわ」

「終わってる!」

その後、エリカちゃんは表彰式の壇上にも、なぜか海斗君の手を握ったまま上がりました。

山本先生はマイクで言いました。

「えー、二年生の借り物競走、優勝はエリカちゃんと、海斗君です」

「ペアの競技じゃないんですけど!」

「もう、ペアでいいです」

保護者席からは、温かい拍手が起きました。

ただし、白組のテントの隅では、宮坂さんが涙目でこちらを見ていました。

「ゆ、許せない……」

「あの子、隣のクラスの応援に来てたんだ……」

なお、その日の運動会の感想文には、二年生の女子たちがこぞってこう書きました。

『エリカちゃんと海斗君がはしっていてかわいかったです』

そして、運動会のしめくくりに、校庭に新しい注意書きが貼られました。

**借り物競走では、お友達を借りましょう。**

その下に、小さくこう書かれていました。

**※将来の旦那様は、競技後に必ず返却すること。**


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ