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第40話 「エリカちゃんと運動会準備」


ある日の体育の時間。

山本先生が言いました。

「来週は運動会です。今日から練習を始めます」

「やったー!」

「徒競走、徒競走!」

「玉入れ!」

クラスメイトたちが盛り上がる中、エリカちゃんは首を傾げました。

「海斗君、運動会って何するの?」

「えっ、エリカちゃん、運動会知らないの?」

「知ってるけど、種目によるわ」

「玉入れと、綱引きと、大玉転がしと、徒競走と、借り物競走と――」

「全部わかったわ」

「全部?」

「斬るわ」

「ぜんぶ違うよ!」

校庭に出ると、まずは玉入れの練習でした。

赤白に分かれた紅白の籠が、高い棒の上に取り付けられています。

「これに、玉をいっぱい入れた方が勝ちなんだよ」

「変ね。籠の方を低くした方が早くない?」

「高さは公平のためなの」

「じゃあ、籠を切り落とせば公平な低さになるわね」

「もう発想が反則だよ」

山本先生は遠くから、じっとエリカちゃんを見ていました。

「エリカちゃん」

「はい」

「ここでは、紅白の玉だけを、籠に向かって投げます。チェーンソーは投げません」

「先生、まだ何もしていません」

「目つきでわかります」

「うにゅ」

玉入れの練習が始まりました。

クラスメイトたちはぽいぽいと玉を投げます。

エリカちゃんも玉を握りました。

そして、肩を大きく回しました。

ぶおっ。

近くの空気が動きました。

「エリカちゃん、肩、回しすぎ!」

エリカちゃんは玉を投げました。

ヒュッ。

玉は、籠を貫通し、棒の先まで上がり、そのまま遠くの校門の外まで飛んでいきました。

「玉、ぶち抜いた!」

「籠の意味……」

「エリカちゃんは投げない方がいいわ」

山本先生が頭を押さえました。

「投擲種目は出場禁止です」

「やる前に出場禁止ですか」

「校外の人を巻き込むので」

「気をつけます」

「全員気をつけて投げています」

次は、大玉転がしの練習でした。

赤と白の、子どもの背丈ほどある大玉を、二人組で転がしていきます。

「これは、ふたりで転がすんだよ」

「海斗君と組めるの?」

「うん、たぶん」

「やる気が出てきたわ」

エリカちゃんと海斗君は、二人で大玉を転がし始めました。

ところが、エリカちゃんが押す方向に、急に力が入ります。

ごろごろごろ……ごろごろごろごろ!

大玉が、ものすごい速さで転がり始めました。

「エリカちゃん、速い!」

「もっと速くするわ」

「速くしないで!」

大玉はあっという間に校庭の端まで進み、土俵際で停止しました。

「ゴールしたわ」

「いいの、これ?」

「タイムは新記録ね」

「もう運動会、エリカちゃんだけでやればいいかな……」

ほかの組は、まだ三歩しか進んでいませんでした。

最後は、綱引きの練習でした。

赤組と白組で、長い綱を引き合います。

「これは、引く力が強い方が勝つんだよ」

「勝ち方が単純で気持ちいいわね」

「エリカちゃん、好きそうだもんね」

ピーッ。

笛が鳴り、両軍が綱を引き始めました。

ぐぐぐ……。

ぐぐぐ……。

力は拮抗していました。

赤組と白組、どちらも一歩も譲りません。

そんな中、エリカちゃんは無言で綱を握りしめていました。

「エリカちゃん、引いて!」

「引いてるわ」

「引いてないよ!」

「タイミングをはかってるの」

「タイミング?」

エリカちゃんは、すうっと息を吸いました。

そして、さりげなく、片手を綱から離しました。

ウイ……。

小さな音がしました。

「エリカちゃん、その音は何!?」

「気のせいよ」

「気のせいじゃない!」

ウイイイイイイイイイン!

エリカちゃんはチェーンソーを取り出し、綱の中央を斜めにすぱっと斬りました。

赤組も白組も、一斉に後ろに転びました。

「ぎゃー!」

「うわー!」

「先生、綱が切れたー!」

山本先生がホイッスルを吹きました。

「エリカちゃん! 綱を斬らない!」

「決着がつきました」

「決着というか、用具が壊れただけです」

「両軍引き分けです」

「綱が真っ二つになって誰も勝ってません」

エリカちゃんは、ふっと得意げな顔をしました。

「これからは、綱を引かない綱引きが流行るわ」

「流行らないよ」

「綱を斬る綱引きよ」

「綱引きじゃないよそれ」

山本先生はエリカちゃんの両頬をむにっとつまみました。

「うにゅ」

「綱を斬らない。大玉を強く押さない。玉を投げて校外に出さない」

「先生、注文が多いです」

「全部当たり前です」

放課後、体育倉庫の前に新しい注意書きが貼られました。

**運動会の用具は、丁寧に使いましょう。**

その下に、小さくこう書かれていました。

**※チェーンソーで綱を斬って試合を終わらせるのは禁止。**


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