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第33話 「エリカちゃんと水族館で」


夏祭りの数日後。

海斗君は、にこにこしながらエリカちゃんに言いました。

「エリカちゃん、水族館に行かない?」

「水族館?」

「うん。夏休みだし、涼しいし」

「水の中に魚がいるところね」

「そうだよ」

「斬り甲斐がありそうね」

「見に行くだけだよ!」

こうして、エリカちゃんと海斗君は水族館へ行くことになりました。

入口を入ると、青い光に包まれた通路が広がっていました。

大きな水槽の中を、小さな魚たちが群れになって泳いでいます。

「わあ、綺麗だね」

「そうね。刺身にしたら何人前かしら」

「食べる方向で見ないで」

最初の水槽には、クラゲがふわふわと浮かんでいました。

「エリカちゃん、クラゲって綺麗だね」

「ええ。切っても手応えがなさそうね」

「切らない前提で見ようね」

次の水槽には、チョウチンアンコウの模型が飾られていました。

「この魚、頭に明かりがあるのね」

「深海魚だよ」

「便利ね。夜のチェーンソー整備に使えそう」

「生き物をライト代わりにしないで」

エリカちゃんは少し残念そうにしました。

しばらく進むと、大きなサメが泳ぐ水槽に着きました。

サメはゆっくりと水槽の中を回っています。

「大きいね、エリカちゃん」

「斬り甲斐があるわね」

「だから斬らないで!」

「もし海斗君が海で襲われたら、私がカトリーヌで助けるわ」

「海にも持っていくつもりなんだ……」

「当然よ。乙女のたしなみだもの」

「その乙女のたしなみ、たぶん入場禁止になるよ」

そのとき、近くにいた係員さんが、じっとエリカちゃんを見ました。

「お客様、危険物はお持ちではありませんよね?」

「持ってないわ」

エリカちゃんは即答しました。

海斗君はちらっとエリカちゃんの鞄を見ました。

鞄の中から、少しだけチェーンソーの持ち手が見えていました。

「エリカちゃん」

「小型だから大丈夫よ」

「大丈夫じゃないよ」

海斗君は慌てて鞄を押さえました。

次は、ヒトデやナマコに触れるふれあいコーナーでした。

「エリカちゃん、ここは触っていいんだって」

「本当に?」

「優しくね」

エリカちゃんはヒトデをじっと見ました。

「ヒトデって、切っても再生するのよね」

「試さないでね」

「少しだけなら」

「だめ!」

海斗君が全力で止めたので、ヒトデは無事でした。

ふれあいコーナーの係員さんは、なぜか汗をかいていました。

次はペンギンのエリアでした。

よちよち歩くペンギンたちを見て、エリカちゃんの目が輝きました。

「かわいい!」

「うん、かわいいね」

「一匹ほしいわ」

「だめだよ」

「チェーン荘の庭に池を作れば」

「暑さで大変だよ」

「地下室なら涼しいわ」

「地下室にペンギンを住ませないで!」

エリカちゃんは柵を乗り越えようとしました。

その瞬間、係員さんが飛んできました。

「お客様! ペンギンのお持ち帰りはできません!」

「まだ持って帰ってないわ」

「持って帰る気はあったんだ……」

海斗君は深く頭を下げました。

「すみません……」

その後、二人はイルカショーを見ることにしました。

プールの前にはたくさんのお客さんが座っています。

「イルカって賢いんだよ」

「海斗君より?」

「比べる相手がおかしいよ」

ショーが始まり、イルカがジャンプしました。

水しぶきが上がり、観客席から歓声が上がります。

「すごいわね」

「うん」

「あのジャンプ力なら、チェーンソーを持たせたら強そう」

「イルカに持たせないで」

すると、ショーの途中で一匹のイルカが突然、水面から顔を出してエリカちゃんをじっと見ました。

「……エリカちゃん、イルカがこっち見てるよ」

「私の強さに気づいたのね」

「たぶん鞄の中のチェーンソーに気づいたんだよ」

イルカは、きゅい、と鳴きました。

エリカちゃんは真剣な顔でうなずきました。

「なるほど。海の怪異がいるのね」

「今の会話できてたの!?」

その直後、ショーのプールの水面が、ぼこぼこと不自然に泡立ちました。

係員さんたちがざわつきます。

水の中から、ぬうっと黒い影が現れました。

それは、海藻まみれの大きな魚の怪異でした。

「出たわね」

「なんで水族館で怪異が出るの!?」

「夏休みだからよ」

「理由になってないよ!」

怪異はプールの縁へ這い上がろうとしました。

観客席が悲鳴に包まれます。

エリカちゃんは立ち上がりました。

「海斗君、鞄」

「だめって言いたいけど、今は仕方ない!」

海斗君が鞄を渡すと、エリカちゃんは中から小型チェーンソーを取り出しました。

ウイイイイイイイイイイン!

けたたましいエンジン音が、イルカショーの会場に響きました。

怪異はびくっと止まりました。

「水族館でチェーンソー!?」

「危ない!」

「でも怪異も危ない!」

エリカちゃんはプールの縁を駆け、怪異の海藻部分だけを器用に斬りました。

ばさばさばさっ。

海藻が落ちると、中から小さなタコが出てきました。

「……タコ?」

タコはきょとんとしていました。

どうやら、ただ海藻が絡まりすぎて怪異のように見えていただけでした。

「エリカちゃん、これ普通のタコじゃない?」

「まぎらわしいわね」

「斬らなくてよかった……」

タコは、すみませんと言いたげに足を振ると、プールへ戻っていきました。

イルカが拍手するように尾びれで水を叩きました。

観客席からも、なぜか拍手が起きました。

「すごい!」

「イルカショーに新演目か?」

「チェーンソー少女だ!」

「違うよ!」

係員さんは青い顔で言いました。

「お客様……危険物の持ち込みは……」

「海の平和を守ったわ」

「それはそうですが……」

結局、エリカちゃんと海斗君は、水族館の事務室で軽く注意を受けました。

帰り道。

エリカちゃんはペンギンのぬいぐるみを抱えていました。

「本物はだめだったけど、ぬいぐるみならいいわね」

「うん。それなら安心だね」

「名前はペンギンソーにするわ」

「チェーンソー要素入れるんだ……」

海斗君は苦笑しました。

水族館の外に出ると、夏の夕方の風が吹いていました。

「楽しかったね、エリカちゃん」

「ええ。サメもイルカもペンギンもよかったわ」

「斬らなかったしね」

「でも一番よかったのは」

「うん?」

「海斗君と一緒だったことよ」

海斗君は顔を赤くしました。

「……僕も楽しかったよ」

そのころ、水族館の入口には新しい注意書きが貼られていました。

危険物の持ち込みは禁止です。

その下に、小さくこう書き足されました。

※小型チェーンソーも含みます。


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