第34話 「エリカちゃんと潮干狩り」
水族館に行った数日後。
海斗君はエリカちゃんに言いました。
「エリカちゃん、潮干狩りに行かない?」
「潮干狩り?」
「砂浜でアサリを掘るんだよ」
「つまり、砂の中に潜む獲物を狩るのね」
「狩るって言うと物騒になるよ」
こうして二人は、海辺へ潮干狩りに行くことになりました。
エリカちゃんは麦わら帽子にバケツ、そして熊手を持っていました。
ただし、背中にはなぜかチェーンソーもあります。
「エリカちゃん、潮干狩りにチェーンソーはいらないよ」
「砂浜に何が潜んでいるかわからないでしょ」
「アサリだよ」
「巨大アサリかもしれないわ」
「それもう怪獣だよ」
干潟に着くと、たくさんの人がしゃがんで砂を掘っていました。
「ほら、こうやって熊手で砂をかいて探すんだ」
海斗君が見本を見せると、小さなアサリが出てきました。
「かわいいわね」
「うん。これをバケツに入れて――」
その瞬間、エリカちゃんの目が鋭くなりました。
「海斗君、下がって」
「え?」
「砂の下に、何かいるわ」
エリカちゃんが熊手を構えた瞬間、砂がぼこぼこと盛り上がりました。
ずぼっ。
巨大なハマグリのような怪異が、口をぱかっと開けて現れました。
「出たわね、巨大アサリ」
「本当に出た!?」
巨大アサリは、近くにあった海斗君のバケツを丸呑みにしました。
「あっ、僕のバケツ!」
「許せないわ」
エリカちゃんは背中のチェーンソーを手に取りました。
ウイイイイイイイイイイン!
干潟に、けたたましいエンジン音が響きます。
「エリカちゃん、ここ公共の砂浜だよ!」
「海斗君のバケツを食べた罪は重いわ」
巨大アサリは口を閉じようとしました。
しかしエリカちゃんは、その隙間に熊手を突っ込みました。
「開きなさい」
ぎぎぎぎぎ。
貝が震えます。
「エリカちゃん、アサリ相手に取り調べしてる……」
「黙秘は認めないわ」
エリカちゃんはチェーンソーを構えました。
すると巨大アサリは、ぺっと海斗君のバケツを吐き出しました。
「返したわね」
「よかった……」
「でも、反省が足りないわ」
「もう返したよ!?」
エリカちゃんが一歩踏み出すと、巨大アサリは砂の中へ慌てて潜りました。
その逃げる速さは、普通の貝とは思えませんでした。
「逃げたわ」
「追わなくていいよ」
「でも味が気になるわ」
「怪異を味見しないで」
その後、二人は普通に潮干狩りを続けました。
海斗君はこつこつアサリを集めます。
エリカちゃんは砂浜をじっと見つめ、怪しい場所を一撃で掘り当てます。
「ここね」
ざくっ。
アサリがごろごろ出てきました。
「すごい、エリカちゃん!」
「チェーンソー使いは気配を読むのよ」
「潮干狩りに使う技能じゃない気がする」
やがてバケツはアサリでいっぱいになりました。
エリカちゃんは満足そうにうなずきます。
「今夜は酒蒸しね」
「エリカちゃん、お酒飲まないでしょ」
「料理に使うだけよ。私はイチゴミルクで食べるわ」
「アサリの酒蒸しとイチゴミルク……」
海斗君は少し遠い目をしました。
帰る前、エリカちゃんは干潟を振り返りました。
「また来るわよ、巨大アサリ」
砂の中から、ぶるっと震える気配がしました。
どうやら、怪異の方もエリカちゃんを覚えてしまったようです。
こうして、エリカちゃんと海斗君の潮干狩りは無事に終わりました。
なお翌年から、その海岸には新しい注意書きが立てられました。
潮干狩りでは熊手を使いましょう。
その下に、小さくこう書かれていました。
※チェーンソーで貝を脅すのは禁止。




