第23話 「エリカちゃんと恵那ちゃん」
チェーン荘に、新しい噂が届きました。
「隣町に、住むとお金持ちになる家があるらしいわ」
「そういうの、座敷童じゃない?」
花子さんがトイレから顔を覗かせました。
「最近見ないけど。同業者よ」
「いるんだ……」
海斗君が遠い目をしました。
「ねえ海斗君、見に行きましょう」
「えっ、なんで」
「お金持ちになる家、見たいじゃない」
「動機が雑だよ……」
町の外れに、その家はありました。
立派な日本家屋。
立派な瓦屋根。
ただし、玄関には差し押さえの札が貼られていました。
「あれ?」
「お金持ちじゃないの?」
「逆方向に行ってるよこれ」
戸を開けると、薄暗い座敷の真ん中に、小さな女の子が一人で座っていました。
赤いちゃんちゃんこ。
おかっぱ頭。
整った顔立ち。
ぼんやり眺めていると、どこか花子さんに似ています。
「……座敷童?」
海斗君が小声で言いました。
女の子は、ゆっくり顔を上げました。
「恵那よ」
声は落ち着いていました。
しっかりした目つきで、小学生らしさはあまりありません。
「あなたが噂のお金持ち座敷童?」
「そうよ。だった、と言うべきだけど」
「だった?」
恵那ちゃんはため息をつきました。
「住人を金持ちにしすぎた」
「やりすぎたんだ……」
「投資、不動産、株。全部勧めたら全部当たった。家を建て直して、別荘を建てて、最後はカジノに行った」
「飛んだのね」
「飛んだ」
簡潔でした。
「で、家ごと差し押さえられた」
「座敷童って、家を失うと消える設定だっけ……」
「私は消えない。設定を変える」
「強い」
エリカちゃんは恵那ちゃんをじっと見ました。
「ねえ恵那ちゃん。うちに来る?」
「うち?」
「チェーン荘よ」
「家賃は」
「無料」
「契約成立」
恵那ちゃんはすっと手を差し出しました。
「即決だね……」
「無償の福は長続きしない。ただし無償の住居なら受け取る」
「都合の良さが洗練されてる」
その夜、チェーン荘。
恵那ちゃんは到着して三十秒で、玄関に賽銭箱を設置しました。
看板にはこう書かれています。
幸運相談 一回五百円
「住んだ初日から商売するな!」
秀明おじさんが叫びました。
「家賃代わりにおじさんも一枚どう? 開運札、千円」
「家賃は無料じゃなかったのか?」
「家賃と運気は別」
「分けるな」
花子さんがトイレから顔を出して、恵那ちゃんと目が合いました。
しばらく無言。
おかっぱ同士、しばらく無言で見つめ合います。
「……私?」
「違う。恵那」
「似てるわね」
「そっちも」
横でエリポンがしっぽを振りました。
「おかっぱがふえたでちゅ!」
「増えたわね」
エリカちゃんは満足そうにうなずきました。
「これで、おかっぱ二倍。怪異二倍。家賃収入は変わらず」
「家賃は最初から取ってないよ」
海斗君がそっとツッコミました。
こうして、二人目のおかっぱ少女――守銭奴座敷童の恵那ちゃんは、チェーン荘に定住することになりました。
花子さんは感情系・ツッコミ枠。
恵那ちゃんは合理・金勘定枠。
なお、恵那ちゃんが住みついて三日後。
チェーン荘の住人たちは、なぜか全員何かしら買わされていたそうです。




