第22話 「エリカちゃんとエリポン」
ある休日。
エリカちゃんは森に来ていました。
「エリカちゃん、何してるの?」
「木の狩りよ」
「木の狩り?」
海斗君が首をかしげた瞬間。
ウイイイイイイイイイン!
けたたましいエンジン音とともに、大きな木がゆっくり傾きました。
「普通は伐採って言うと思うよ!」
「細かいわね。木を狩っているんだから、木の狩りでしょ」
倒れた木の上に、何かがぽすんと落ちてきました。
「ぽんっ!」
それは、小さな狸でした。
丸いお腹。
ふさふさの尻尾。
つぶらな目。
狸は涙目でエリカちゃんを見上げました。
「おうちが、なくなったでちゅ……」
「あら」
「エリカちゃん、その木、この子の家だったんじゃ……」
狸はぷるぷる震えながら言いました。
「ひどいでちゅ! いきなり木を倒すなんて、こわいでちゅ!」
「ごめんなさいね」
「エリカちゃんが素直に謝った……」
海斗君が驚いていると、狸は急に目を輝かせました。
「でも、いまのすごかったでちゅ!」
「え?」
「あのうるさいギザギザで、木をばったーんってしたでちゅ! つよいでちゅ!」
狸はその場でぽんぽこお腹を叩きました。
「エリポンも、つよくなりたいでちゅ!」
「エリポン?」
「名前はまだないでちゅ」
エリカちゃんは少し考えました。
「じゃあ、エリカちゃんに憧れるぽんぽこ狸だから……エリポンね」
「エリポン!」
狸は嬉しそうに跳ねました。
「エリポンでちゅ! つよそうでちゅ!」
「可愛い名前だね」
「海斗君、エリポンは化け狸なのよね?」
「ぽん!」
エリポンは胸を張りました。
「エリポンは化け狸でちゅ。なんにでも化けられるでちゅ」
「じゃあ、最強に化ければ最強になれるの?」
エリカちゃんが聞くと、エリポンは真剣な顔になりました。
「その通りでちゅ」
「いや、たぶん違うと思うよ」
海斗君のツッコミを無視して、エリポンはぽんぽこお腹を叩きました。
ぽんっ!
白い煙が上がります。
煙が晴れると、そこには――
金髪ツインテールの小さな女の子が立っていました。
ただし、頭には狸耳。
後ろには狸の尻尾。
そして喋り方は赤ちゃん言葉です。
「エリカちゃんに化けたでちゅ!」
「似てるわね」
「似てるけど、語尾でバレバレだよ」
エリポンはどこからともなく葉っぱを取り出し、それをチェーンソーの形に変えました。
「エリポンも、ちぇーんそーで最強になるでちゅ!」
ウイ……。
葉っぱチェーンソーは、しおしおになりました。
「あれ?」
「葉っぱだからね」
「エリポン、まだ修行が足りないでちゅ……」
エリカちゃんはエリポンの頭をなでました。
「いいわ。私が少しだけ教えてあげる」
「ほんとでちゅか!?」
「ええ。まずチェーンソーは愛よ」
「愛でちゅ!」
「そして海斗君に近づく敵は斬るのよ」
「それは教えちゃだめだよ!」
海斗君が慌てて止めました。
エリポンは目をきらきらさせました。
「エリカちゃん、ししょうでちゅ!」
「師匠……悪くないわね」
「悪い予感しかしないよ……」
こうして、森の化け狸エリポンは、エリカちゃんに弟子入りすることになりました。
なお、エリポンの倒された木の家は、秀明おじさんが後日ちゃんと小屋に作り直すことになります。
ただし小屋の看板には、なぜかこう書かれていました。
エリカちゃん二号・エリポンの家
「二号でちゅ! つよそうでちゅ!」
エリポンは嬉しそうにぽんぽこお腹を叩きました。
エリポンの家はチェーン荘です
了解です。修正するとこうですね。
エリポンの家は森ではなく、チェーン荘。
木の家を失ったエリポンを、エリカちゃんがそのまま連れ帰る流れが自然です。
締め部分はこう差し替えがよさそうです。
エリカちゃんはエリポンを見下ろしました。
「おうちがなくなったなら、うちに来る?」
「いいでちゅか?」
「チェーン荘なら、花子さんも秀明おじさんもいるし、にぎやかよ」
「ちぇーんそう……?」
「チェーン荘」
「ちぇーんそーのおうちでちゅ! すごいでちゅ!」
エリポンは目をきらきらさせました。
海斗君は小さくため息をつきました。
「またチェーン荘の住人が増えるんだね……」
こうして、森の化け狸エリポンは、エリカちゃんに拾われました。
そしてその日から、チェーン荘の一室に住むことになったのです。
ただしエリポンは、毎朝エリカちゃんに化けて廊下を歩き回るので、秀明おじさんは本物と偽物を見分けるために、しばらく胃を痛めることになるのでした。
エリポンはぽんっと煙に包まれました。
煙が晴れると――
そこにはエリカちゃんが立っていました。
金髪ツインテール。
いつもの服装。
表情までそっくりです。
「エリカちゃんが二人いる……!」
海斗君が驚きました。
しかし。
「エリポンでちゅ!」
語尾で即バレました。
さらに――
ふりふり。
腰の後ろで、狸のしっぽが元気に揺れていました。
そしてよく見ると、本物のエリカちゃんより少し小さいです。
「似てるけど、全然隠す気ないよね」
「しっぽ、かわいいわね」
「しまい忘れたでちゅ」
「忘れちゃだめなところだよ!」
チェーン荘に到着すると、さらに混乱が起きました。
「おかえり……って、二人いる!?」
秀明おじさんが固まりました。
「どっちが本物だ!?」
「私よ」
「エリポンでちゅ!」
「語尾でわかるな」
花子さんがトイレから顔を出しました。
「……小さい方が偽物ね」
「なんでわかるの?」
「しっぽ出てるし」
「でてるでちゅ」
エリポンはしっぽをぱたぱた振りました。
エリカちゃんは満足そうに言いました。
「今日からここがエリポンの家よ」
「ちぇーんそうのおうちでちゅ!」
「チェーン荘ね」
「ちぇーんそー!」
「まあ合ってる気もするよ……」
その日からチェーン荘では、
・エリカちゃん(本物)
・エリカちゃん(ちょっと小さい+しっぽ付き)
が同時に歩き回る、非常にややこしい日常が始まりました。
なお海斗君は、見分け方をすぐに覚えました。
「エリカちゃん」
「なあに?」
「エリポン」
「ぽん!」
「うん、簡単だね」
「もっと難しくするでちゅ!」
「しなくていいよ!」
こうしてエリポンは、チェーン荘の新しい住人になりました。
ただし。
本人(狸)は完璧に化けているつもりでも、
しっぽとサイズで全部バレているのでした。




