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第21話 「チェーン荘の新しい防犯設備」

チェーン荘がリフォームされてから、町では新しい噂が広がっていました。

曰く。

あのアパートには、夜になると勝手に鳴るピアノがある。

曰く。

玄関でメリーゴーランドが回っている。

曰く。

トイレには花子さんが住んでいる。

そして。

入った人間は、あまり帰ってこない。

ある夜。

そんな噂を聞いた泥棒三人組が、チェーン荘の前に立っていました。

「ここだな。変な噂のアパート」

「噂になるくらいだ。逆に何か金目の物があるんじゃねえか?」

「古いアパートほど、妙な隠し財産があるっていうしな」

三人は窓をこじ開け、そっと中へ入りました。

まず目に入ったのは、玄関にあるメリーゴーランドでした。

「……なんでアパートの玄関にメリーゴーランドがあるんだ?」

「知らねえよ。売れば金になるか?」

泥棒の一人が白馬に手をかけた瞬間。

メリーゴーランドが、ゆっくり回り始めました。

ちゃらららーん。

ちゃらららーん。

「お、おい……動いたぞ」

次の瞬間、白馬の目が赤く光りました。

そして。

ヒヒーン!

白馬が台座から外れ、泥棒たちへ突進しました。

「うわああああ!」

「馬が! 馬が来た!」

「これ木馬じゃねえのかよ!」

泥棒たちは廊下へ逃げました。

しかし廊下の奥から、今度はピアノの音が聞こえてきます。

ぽろん。

ぽろん。

ぽろろろろん。

「なんだよ、今度は音楽か!?」

リビングには、自動演奏ピアノがありました。

鍵盤が勝手に動いています。

しかも曲がどんどん速くなっていきました。

ぽろろろろろろろろん!

ピアノの蓋が、ばくんと開きました。

「食う気だ!」

「ピアノが食う気だぞ!」

泥棒の一人が逃げ遅れ、上着の裾をピアノに挟まれました。

「助けろ!」

「脱げ!」

「上着を!?」

「命より高い上着じゃないだろ!」

泥棒は上着を脱ぎ捨て、必死で逃げました。

ピアノは上着をばくんと飲み込み、満足そうに『エリーゼのために』を弾き始めました。

逃げた泥棒たちは、トイレの前で息を切らしていました。

「な、なんなんだこのアパート……」

「とりあえず隠れるぞ!」

一人がトイレのドアを開けました。

中には、おかっぱ頭の女の子が座っていました。

「……使用中です」

「ぎゃあああああ!」

花子さんはむっとしました。

「ノックくらいしなさいよ!」

「トイレに女の子が!」

「幽霊だ!」

「しかも怒ってる!」

花子さんは腕を組みました。

「あなたたち、泥棒?」

「ち、違います!」

「じゃあ肝試し?」

「それも違います!」

「どっちにしても不法侵入じゃない」

花子さんが指を鳴らすと、トイレの水がごぼごぼと音を立てました。

次の瞬間。

便器から大量の水が噴き上がりました。

「うわあああ!」

「流される!」

「トイレに流される!」

泥棒たちは水浸しになりながら玄関まで押し流されました。

そこでは、メリーゴーランドの白馬が待っていました。

ヒヒーン。

「まだいたあああ!」

三人は転がるように外へ逃げ出しました。

翌朝。

チェーン荘の玄関前には、泥棒たちが縄でぐるぐる巻きにされて転がっていました。

縄を巻いたのは、白馬です。

「エリカちゃん、外に人が落ちてるよ」

海斗君が言いました。

エリカちゃんは欠伸をしながら出てきました。

「あら、防犯設備が働いたのね」

「防犯設備っていうか、怪異のテーマパークだよね」

花子さんがトイレから顔を出しました。

「夜中にトイレ開けられたんだけど。プライバシー侵害よ」

ピアノが、ぽろん、と鳴りました。

メリーゴーランドの白馬は、誇らしげに首を振りました。

秀明おじさんは泥棒たちを見て、ため息をつきました。

「普通の家なら警報機をつけるんだがな」

「うちはこっちの方が強いわ」

「強すぎるんだよ」

その日の夜。

今度は肝試しに来た中学生たちが、チェーン荘の前に立ちました。

「ここ、入ったらヤバいって噂のアパートだろ?」

「動画撮ろうぜ」

「バズるって!」

彼らはスマホを構えて、こっそり中へ入りました。

数分後。

「ピアノが追ってくる!」

「トイレの女の子に怒られた!」

「メリーゴーランドが速すぎる!」

中学生たちは涙目で逃げ出しました。

スマホには、ぶれぶれの映像だけが残っていました。

翌日、その動画は少しだけ話題になりました。

タイトルは――

【心霊】チェーン荘に入ったら遊園地だった件【命がけ】

エリカちゃんはそれを見て、満足そうに言いました。

「宣伝になったわね」

「何の宣伝?」

「将来のチェーン荘遊園地化計画よ」

「やめようね」

こうしてチェーン荘は、泥棒にも肝試しにも強い家になりました。

ただし、近所ではさらに噂が広まりました。

あのアパートには入るな。

ピアノと馬と花子さんにやられる。

そして何より――

一番奥には、チェーンソーを持った女の子がいる。


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