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第17話 「エリカちゃんと遠足 遊園地編①」

その日、二年三組は遠足でした。

行き先は、町外れにある遊園地。

観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター、お化け屋敷。

小学生にとっては、夢のような場所です。

「みなさん、今日は先生の言うことをよく聞いて、勝手な行動はしないこと」

山本先生が、バスの前で言いました。

その視線は、ほぼエリカちゃんだけを見ていました。

「エリカちゃん」

「はい」

「遊具を斬らない」

「はい」

「お化け屋敷の幽霊を斬らない」

「はい」

「観覧車を改造しない」

「努力します」

「約束しなさい」

「……はい」

海斗君は小さくため息をつきました。

「エリカちゃん、今日は普通に楽しもうね」

「もちろんよ。遊園地デートだもの」

「遠足だよ」

「細かいわね」

遊園地に着くと、生徒たちは一斉に目を輝かせました。

「ジェットコースター行こう!」

「観覧車乗りたい!」

「お化け屋敷怖そう!」

エリカちゃんは案内板を見て、腕を組みました。

「まずはお化け屋敷ね」

「最初から?」

「本職の出来を確認するのよ」

「エリカちゃん、本職って何?」

「怪異側よ」

「そっち側なんだ……」

お化け屋敷の前には、古びた洋館風の建物がありました。

入口には血文字風の看板。

入った者は戻れない……

エリカちゃんはそれを見て、首を傾げました。

「戻れないなら営業できないじゃない」

「演出だよ」

「詰めが甘いわね」

二人が中へ入ると、暗い廊下に不気味な音楽が流れていました。

壁から手が出ます。

「うらめしやあああ!」

エリカちゃんは反射的にチェーンソーを構えました。

「神谷さん!」

入口から山本先生の声が飛びました。

「……見るだけよ」

エリカちゃんは渋々チェーンソーをしまいました。

お化け役の係員は、命拾いしたことに気づいていませんでした。

次に出てきたのは、血まみれの人形でした。

「きゃあ!」

クラスメイトたちは悲鳴を上げました。

エリカちゃんはじっと見つめました。

「塗料が甘いわ」

「そこ評価するの?」

「返り血の飛び方が不自然なのよ」

「エリカちゃん、詳しすぎるよ」

海斗君は苦笑いしました。

お化け屋敷を出ると、クラスメイトたちはぐったりしていました。

しかしエリカちゃんだけは不満そうです。

「怖くなかったわ」

「エリカちゃんが怖がるお化け屋敷って、逆に見てみたいよ」

「Gが出るお化け屋敷なら怖いわ」

「それは僕も嫌かな」

次に向かったのは、メリーゴーランドでした。

白馬、馬車、きらきらしたライト。

女の子たちは喜んで乗り込みます。

エリカちゃんも馬にまたがりました。

「海斗君、隣に乗って」

「うん」

二人が並んで乗ると、エリカちゃんは少し嬉しそうにしました。

「こういうの、平和でいいわね」

「うん。普通に楽しいね」

音楽が流れ、馬が上下に動き始めました。

エリカちゃんはしばらく大人しく乗っていました。

しかし、途中でぽつりと言いました。

「この馬、もっと速くならないのかしら」

「メリーゴーランドだからね」

「チェーンソーのエンジンをつけたら――」

「つけない」

山本先生が柵の外から即答しました。

「先生、聞こえてたの?」

「神谷さんの危ない発想は、遠くからでも聞こえます」

昼食の時間。

芝生広場で、みんながお弁当を広げました。

海斗君のお弁当は、卵焼き、唐揚げ、おにぎり、ミニトマト。

エリカちゃんのお弁当は、塩辛、たこわさ、わさび漬け、焼き鳥缶。

そしてイチゴミルクです。

「エリカちゃん、遠足のお弁当なんだから、もう少し小学生らしくしたら?」

「イチゴミルクがあるわ」

「そこだけだよ」

そのとき、遠くから悲鳴が聞こえました。

「きゃああああ!」

遊園地のスタッフが走ってきます。

「大変です! ジェットコースターが止まりません!」

山本先生が立ち上がりました。

「みなさん、その場を動かないで!」

エリカちゃんの目が輝きました。

「海斗君」

「だめだよ」

「まだ何も言ってないわ」

「今の顔は絶対だめな顔だよ」

しかし、ジェットコースターの方からさらに大きな悲鳴が響きました。

レールの上を、無人のコースターがありえない速度で走っています。

しかも、車体の後ろから黒いもやのようなものが噴き出していました。

「……あれ、普通の故障じゃないわね」

「怪異?」

「たぶん」

エリカちゃんはチェーンソーを取り出しました。

ウイイイイイイイイイン!

「海斗君、遠足の続きよ」

「これ、遠足って言っていいのかなあ!?」

山本先生の声が飛びました。

「神谷さん! 遊具は斬らない!」

「先生、今回はたぶん遊具の方が悪いです!」

「たぶんで斬らない!」

けれど、暴走するジェットコースターは止まりません。

観覧車の向こうで、黒い影が笑ったように揺れました。

遊園地の楽しい空気が、少しずつ不穏なものへ変わっていきます。

エリカちゃんはチェーンソーを肩に担ぎ、にっこり笑いました。

「遊園地にも七不思議があるのかしら」

「エリカちゃん、お願いだから増やさないでね」

こうして、楽しいはずの遠足は、だんだんいつものエリカちゃんらしい方向へ転がり始めたのでした。


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