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第16話 「エリカちゃんと酒呑童子」

ある日の放課後。

海斗君は、古いお寺の前で立ち止まりました。

「エリカちゃん、このお寺って鬼殺し寺っていうんだって」

「鬼殺し?」

エリカちゃんの目が光りました。

「つまり、鬼を殺すお寺なのね」

「たぶん鬼に殺された人を供養するお寺だと思うよ」

「細かいわね」

「細かくないよ」

その夜。

エリカちゃんと海斗君は、鬼殺し寺へ向かいました。

もちろん肝試しです。

「鬼って強いのかしら」

「強いと思うよ」

「でもコンビニに“鬼殺し”ってお酒が売ってたわ」

「お酒の名前だよ」

「じゃあ鬼にかければ倒せるかも」

「発想が雑だよエリカちゃん」

海斗君の制止もむなしく、二人はコンビニで鬼殺しを買ってから寺へ向かいました。

夜の寺は、静まり返っていました。

境内に入った瞬間、海斗君の足元が沈みました。

「うわっ!」

エリカちゃんが海斗君の襟をつかんで引き戻します。

次の瞬間、足元に大きな穴が開きました。

底には竹槍がびっしり並んでいます。

「落とし穴……?」

「海斗君、不用意に歩いたら危ないわよ」

「街のお寺に致死性の罠がある方がおかしいよ!」

その後も、赤外線に反応して飛んでくる矢。

足を踏み入れると横から振ってくる丸太。

息に反応して噴き出す白い煙。

どう考えても普通のお寺ではありません。

「エリカちゃん、帰ろうよ」

「ここまで歓迎されたら、奥まで行くしかないわ」

「歓迎じゃなくて殺意だよ」

本堂の前に着くと、巨大な影がゆらりと現れました。

赤い肌。

鋭い牙。

乱れた髪。

そして、酒の匂い。

「よく来たな、人の子よ」

「出たわね、鬼」

「我が名は酒呑童子。かつて都を震え上がらせた鬼の王――」

「海斗君、今よ」

「えっ、うん!」

海斗君は持っていた鬼殺しを、酒呑童子にぶっかけました。

ばしゃっ。

「……冷たい」

酒呑童子は少し固まりました。

「おい、小僧。これは酒ではないか」

「鬼殺しだから効くかなって……」

「効くどころか、いい香りではないか」

酒呑童子はにやりと笑いました。

「くくく、人の子よ。鬼に酒を与えるとは愚か――」

「じゃあ次」

海斗君は消毒用アルコールの小瓶を投げました。

「うわっ、目に染みる!」

さらにエリカちゃんがロケット花火を構えました。

「点火」

「待て、何を――」

ぱしゅっ。

火花が走り、酒呑童子の髪に引火しました。

「熱い! 熱いではないか!」

「海斗君、効いてるわ」

「効いてるけど、これでいいのかな!?」

酒呑童子は怒り狂い、巨大な腕を振り上げました。

「許さんぞ、小娘!」

「来なさい」

エリカちゃんはチェーンソーを構えます。

ウイイイイイイイイイン!

けたたましいエンジン音が、本堂の闇を震わせました。

酒呑童子の金棒と、エリカちゃんのチェーンソーがぶつかります。

ぎゃりぎゃりぎゃり!

火花が散りました。

「小娘……その得物、ただの鋸ではないな」

「カトリーヌよ」

「名前をつけているのか」

「可愛いでしょ」

「狂っておる」

酒呑童子が踏み込み、金棒を横薙ぎに振ります。

エリカちゃんは身を低くしてかわし、足元へ一閃。

「ぐおっ!」

鬼の足元が崩れました。

「海斗君、わさび!」

「はい!」

海斗君がチューブわさびを投げます。

エリカちゃんはそれを受け取り、酒呑童子が叫ぼうと開いた口の中へ一気に絞り込みました。

「うげええええ! 辛い!」

「鬼にもわさびは効くのね」

「それは誰でも効くと思うよ」

涙目になった酒呑童子の首元へ、エリカちゃんのチェーンソーが走ります。

ザンッ。

鬼の首が、地面へ落ちました。

「やった……?」

海斗君が恐る恐る近づきます。

しかし。

首だけになった酒呑童子が、がばっと口を開けました。

「まだ終わらぬ!」

「うわあ!」

首が海斗君へ噛みつこうと飛びかかります。

エリカちゃんの目が細くなりました。

「海斗君に近づかないで」

ウイイイイイイイイイン!

もう一閃。

酒呑童子の首は、今度こそ動かなくなりました。

しばらくして。

境内には静けさが戻りました。

「強かったわね、酒呑童子」

「うん。首だけでも襲ってくるなんて、本当に伝説みたいだったね」

「でも、わさびに弱かったわ」

「そこが一番かわいそうだったよ」

エリカちゃんはチェーンソーを肩に担ぎました。

「帰りましょう、海斗君」

「うん」

二人が去ったあと、鬼殺し寺の本堂には、焦げた畳と酒の匂いだけが残されました。

翌朝。

花子さんが学校のトイレで青ざめていました。

「エリカちゃん……酒呑童子様、倒したの?」

「うん」

「七不思議の裏ボスみたいな存在だったのに……」

「そうなの?」

「そうなのよ!」

花子さんは頭を抱えました。

「これで学校の怪異バランスが崩れるわ……」

「じゃあ私が代わりにボスになる?」

「もうなってるわよ!」

花子さんの叫びが、女子トイレに響きました。

こうしてエリカちゃんは、知らないうちに怪異界の力関係をまた一つ変えてしまったのでした。


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