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第14話 「エリカちゃんと猫ちゃん」

休日の昼下がり。

エリカちゃんはチェーン荘の軒先で、のんびりおやつを食べていました。

今日のおやつは、塩辛とたこわさと焼き鳥の缶詰。

飲み物は、もちろんイチゴミルクです。

「うーん、平和ね」

そこへ、一匹の猫がやってきました。

茶色い毛並みの、ふてぶてしい顔をした猫です。

「にゃあ」

「あら、猫ちゃん」

エリカちゃんが少し目を離した、その瞬間。

猫は焼き鳥の缶詰から一切れくわえました。

そして、走りました。

「……」

エリカちゃんの笑顔が消えました。

「私の……おやつ……」

次の瞬間。

ウイイイイイイイイイン!

けたたましいエンジン音が、チェーン荘に響きました。

「待ちなさい猫ちゃん! それは私のおやつよ!」

猫は振り返りました。

「にゃっ!?」

猫は本能で理解しました。

これは、追われてはいけないものに追われている。

猫は塀の上へ飛び乗りました。

しかしエリカちゃんは止まりません。

チェーンソーで塀の一部を足場にしながら、ものすごい勢いで追ってきます。

「にゃああああ!?」

「返しなさい! それが最後の焼き鳥なのよ!」

猫は民家の屋根へ逃げました。

エリカちゃんは物置を踏み台にして屋根へ上がりました。

猫は細い路地へ逃げました。

エリカちゃんはゴミ箱を飛び越えました。

猫は公園の木へ駆け上がりました。

エリカちゃんは木の幹にチェーンソーを当てました。

「そこなら逃げられないわね」

「にゃ!?」

猫は慌てて枝から飛び降り、今度は用水路へ向かいました。

エリカちゃんも追います。

通行人たちは道を開けました。

「チェーンソーだ!」

「またエリカちゃんだ!」

「猫が追われてるぞ!」

「猫、逃げろ!」

猫は全力でした。

エリカちゃんも全力でした。

そしてついに、猫は川辺の行き止まりへ追い込まれました。

「追い詰めたわよ、猫ちゃん」

「にゃ……」

猫は焼き鳥をくわえたまま、じりじりと後ずさります。

エリカちゃんはチェーンソーを構えました。

「私のおやつを奪った罪、重いわよ」

ウイイイ……。

ウイ……。

プスン。

チェーンソーが止まりました。

「あれ?」

エリカちゃんはスターターを引きました。

かからない。

もう一度引きました。

かからない。

「燃料切れ……?」

その一瞬を、猫は見逃しませんでした。

「にゃっ!」

猫はエリカちゃんの足元をすり抜け、草むらへ飛び込みました。

「あっ、待ちなさい!」

けれど、チェーンソーの止まったエリカちゃんの追跡力は半分以下でした。

猫はそのまま逃げ切りました。

夕方。

エリカちゃんはしょんぼりしながらチェーン荘へ戻りました。

「エリカちゃん、どうしたの?」

海斗君が心配そうに聞きます。

「猫ちゃんに焼き鳥を盗られたわ」

「それは大変だったね」

「しかも逃げられたの」

「猫ちゃん、すごいね……」

「次は燃料を満タンにしておくわ」

「次がないようにしようね」

そのころ、遠くの空き地では。

茶色い猫が、奪った焼き鳥を食べ終えていました。

「にゃあ……」

けれど猫は、二度とエリカちゃんのおやつには手を出さないと心に誓いました。

焼き鳥一切れにしては、代償が大きすぎたからです。


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