第10話 「最終夜 最後の七不思議」
六つ目の七不思議まで調べ終えたエリカちゃんは、不満そうでした。
「海斗君、おかしいわ」
「何が?」
「七不思議なのに、六つしか見つからないのよ」
「十分すぎるくらい見つけたと思うけど……」
「七不思議は七つないといけないの」
エリカちゃんは真剣な顔で言いました。
「最後の一つを見つけるわよ」
「嫌な予感しかしないよ」
その夜。
エリカちゃんと海斗君は、ふたたび学校に忍び込みました。
- トイレの花子さん。
- 音楽室のピアノ。
- 人体模型。
- 十三階段。
- 美術室の肖像画。
- 校長先生の銅像。
- 開かずの扉。
「……あれ?」
海斗君が首をかしげました。
「エリカちゃん、もう七つあるよ」
「ないわよ」
「いや、数えると七つあるよ」
「開かずの扉は秀明おじさんだったからノーカウントよ」
「人間だったもんね……」
つまり、エリカちゃんの中ではまだ六つでした。
まずは女子トイレに向かいました。
「花子さん、最後の七不思議を知らない?」
呼びかけると、花子さんが恐る恐る顔を出しました。
「……知ってるけど」
「本当?」
「でも言いたくない」
「どうして?」
「言ったら斬られそうだから」
「斬らないわよ」
「チェーンソー持ったまま言われても説得力ないよ!」
海斗君が突っ込みました。
花子さんは小さく震えながら言いました。
「この学校の最後の七不思議はね……」
そこで花子さんは、ごくりと唾を飲みました。
「金髪ツインテールの女の子なの」
「へえ」
「夜の学校に現れて、チェーンソーで怪異を斬るの」
「物騒ね」
「しかも、その子を怒らせると壁も扉も階段もピアノも銅像も無事では済まないの」
「ひどい怪異ね」
「エリカちゃんだよ!」
海斗君の声が、夜のトイレに響きました。
エリカちゃんはぽかんとしました。
「私?」
花子さんはこくこくとうなずきました。
「そう。最後の七不思議は、エリカちゃん。怪異を退治する怪異。学校で一番怖い存在」
「私はか弱い小学二年生よ」
「か弱い小学二年生は、ピアノをリサイクルショップに売りません」
「か弱い小学二年生は、十三階段を十二階段に改修しません」
「か弱い小学二年生は、人間をテイクアウトしないよ」
三人の間に沈黙が落ちました。
エリカちゃんは少し考えました。
そして、ぱっと笑いました。
「つまり私は、七不思議のボスなのね」
「受け入れ方が前向きすぎるよ!」
「なら、これからは最後の七不思議として堂々とするわ」
「堂々としなくていいよ!」
そのとき、校舎の奥から低い声が響きました。
――七つを知った者は、呪われる。
空気が冷たくなり、廊下の明かりがちらつきました。
七不思議すべてを知った者は、ここから出られぬ――。
海斗君は青ざめました。
「エリカちゃん、これ本物の呪いだよ!」
「そう」
エリカちゃんは静かにチェーンソーを構えました。
ウイイイイイイイイイイイン!
「私が七つ目なら、そのルールは私が決めるわ」
けたたましいエンジン音が、夜の学校を震わせました。
「七不思議を全部知った者は――」
エリカちゃんはにっこり笑いました。
「私と海斗君の仲を応援すること」
「ルールが私物化された!」
その瞬間、校舎の奥の気配がすっと消えました。
どうやら呪いの方が逃げたようでした。
翌朝。
学校では新しい噂が流れていました。
「七不思議を全部知ると、エリカちゃんに見つかるらしいよ」
「それ、死ぬより怖くない?」
「しかも海斗君との仲を応援させられるらしい」
「平和なのか怖いのかわからない……」
教室で、エリカちゃんは上機嫌でした。
「海斗君、これで七不思議制覇ね」
「うん……たぶん」
「最後の七不思議が私だったなんて、意外だったわ」
「僕は途中から薄々そうだと思ってたよ」
「失礼ね」
「でも、エリカちゃんらしいよ」
そう言われて、エリカちゃんは少しだけ頬を赤くしました。
「じゃあ、海斗君は私のこと怖くない?」
「怖いよ」
「えっ」
「でも、エリカちゃんはエリカちゃんだから」
海斗君がそう言うと、エリカちゃんは嬉しそうに笑いました。
「ならいいわ」
こうして、学校の七不思議はすべて明らかになりました。
最後の七不思議。
それは、怪異よりも怪異らしく、
幽霊よりも幽霊を震え上がらせ、
チェーンソーを片手に夜の学校を歩く女の子。
エリカちゃん。
そして今日も、学校の怪異たちはひそひそと噂します。
「今夜、エリカちゃん来ないよね……?」
「来たら終わりだよ……」
七不思議を恐れる子どもたち。
その七不思議が恐れる女の子。
それが、エリカちゃんだったのでした。




