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陰陽の龍  作者: aqri
とうとう現れたのでございます
16/23

4 チョウカの危機

 以前はもっと凄まじい突風が発生していたはずだ。体をくねらせて尾を振れば吹き飛ばされそうになったものだが。


「散々からかったけど。食べられる魂が減ったことで弱くなったってか? 食い続けてないと弱るとか、なんか変なんだよなあいつ」

「ていうかさぁ、ふと思ったんだけど。なんであいつ人の魂を食べるんだろう」

「なんでって。……そういえばなんでだ?」


 龍が魂を食べるなど聞いたことがない。そもそも人間を食べる龍などいない。なぜなら龍とは本来食べ物を食べなくても生きていけるからだ。まだ幼すぎるラオは栄養の高いものを食べて成長する必要があるので、人が食べるものと同じようなものを食べている。しかしシュウセンが何か食べているのを見たことは一度もなかった。


「なんだろうな。いろいろな事柄がバラバラになってるけど、全部一つにまとまるんじゃないかなって気がしてきた」


 チョウカの土壇場でのひらめきは勉強熱心な者たちを超える。勉学を面倒くさがって嫌ってはいるが、決して頭が悪いというわけではない。むしろ頭が良い方だとラオは思っている。


(人の魂食べないと弱体化する龍。人の魂を吸い続ける玉。どちらもよく似ている。玉の気配が分かったことで血相を変えて取りに来た。シバリでは間に合わないと踏んだのか。陰の気配ではなく一つの呪具の気配を感じることができるとなると、同じ気なのかもしれない。呪具と同じ気? 馬鹿な)


魂がないと命がかかっているくらい弱っている。そんなことありえるか?

あいつは、本当に龍なのだろうか。

そんなことを考えていたから油断していた。



「チョウカ!」


 ラオの叫びにハッとすれば、目の前にサカナシの鉤爪が迫っていた。ラオも必死に避けてはくれていたのだが、チョウカが自分で頭を低くしなければいけなかった。慌てて体をのけぞらせて避けるが。


(間に合わない!)


 このままでは大きく腹を割いてしまう。それにこの軌道ではおそらくラオにも一撃が当たってしまう。

 ラオの頭を蹴り付ける勢いで大きく下に向かって飛び降りた。チョウカは空を飛ぶことができない。ラオが回収しなければいけないが、あまりにもサカナシが近寄りすぎていてそれもままならないようだ。

 サカナシの体に掴まると体勢を立て直そうとした。だが瞬時にサカナシは逆方向に体をくねらせる。さすがのチョウカも耐えきれず再び空中に放り出された。


「くっそ!」

「虫ケラが、今までよくも馬鹿にしてきてくれたなぁ!」


 怒りを通り越して憎しみも入っているような怒号。目の前にはすでに大きく口を開けたサカナシが迫っていた。避けられるわけない、空中で何ができるというのか。


――あ、終わったくせえ。


 そんなことを冷静に考えてしまう。


「しゅー」

「なんだ」

「そら、とびたい」

「どうして仙人っていうのは上へ上へと登りたがるかねえ」

「おそら、ひろくてキレイ。ひゅーってとびたい、もっとうえにいってみたい」

「いいか坊、空は仙人の行って良い場所ではない。あそこは雨人と雲編みの棲家だ」

「うーん?」

「大昔にいたんだよ。空を手に入れようとした大馬鹿者の仙人が。結局様々な者たちから罰を受けて消えてしまった。面倒臭いものを撒き散らしていったがね」

「しゅー、わかんない」

「はは。ラオと一緒に昼寝でもしてなさい。空とは求めるものではなく眺めるものだ」


 シュウセンの大きな鉤爪の上ですやすやと眠る小さな友達。爪によじ登り、ころんと仰向けになった。空とは眺めるもの。じっと見ていたら、なんだか眠くなってきた。

 大きくて優しくて、仙人達と違ってバカにするような態度をしない。大好きだった。


 死に際には今まで生きてきたことを走馬灯のように見ると聞いたが、そうでもないな。一番好きだった心穏やかな時を思い出すのか。冷静にそんなことを考えながら。


バクン!


 大切な友達が食われるのを目の当たりにした。サカナシは巨大な龍だ、一口で百人は食べてしまえるくらいには口が大きい。たった一人をパクリとしたところで、ぐちゃぐちゃに潰れてはいないだろう。


(だって人間みたいに噛んで食べたりしない。龍は丸呑みだ。それならあいつは生きていると思う)


 だが、一飲みにされたということは既に胃に滑り落ちていったということで。


(いやでも、あいつなら腹の中から大暴れするとか。術を使って内側からバキバキに攻撃してくるとか。なんかそんな感じのこと絶対やると思うし)


 しかし思い出した。


(あれ? そういえばあいつが持ってた符って何枚だっけ? さっきシバリ倒すときに全部使い切ってたような。それに結構時間がかかってるような気がしなくもない)


 チョウカが食われてから刹那にも満たない時の間。全身の鱗が逆立つかのようだった。友達が食われた。あいつなら何とかできるかも、なんて思っている場合ではない。


「ぎゃああああ! 吐き出せやテメェえぇええ!!」

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