3 再び相見えし者たち
ラオにかけていた不可視の術が消えてしまった。まあいいか、と空を見る。地上からは多少騒ぐ声が聞こえるのでラオの姿を見られたようだ。もっとすごいのが来るからいいか、と放っておく。
この半年間二人でシバリはできる限り焼き払ってきた。おそらく空腹で全く力が足りていないはずだ。しかしそれでも二人で勝てる相手ではない。前回は仙人たちを利用してようやく追い払うことができただけだ。
周囲から人々の悲鳴が響き渡った。普通の人間には見えない、遠くの方まで目を凝らして見てみると突然人々が苦しみながらバタバタと倒れている。白服のもの達も、農民らも。
「なんだあれ!? 人が死んでるのか?」
「なんだも何も決まってんだろ」
苛ついた様子で符を一気に八枚、空に向かって放り投げる。符はまるで意思を持っているかのように八方位に飛んでいった。チョウカは空に向かって指をさす。
「クソ虫がうじゃうじゃしてやがる!」
その言葉と同時にチョウカの指から炎の渦が繰り出される。その炎はすべての符から全く同じものが出て、かなりの広範囲に平べったい炎の竜巻が放たれた。まるで海の渦潮のようにぐるぐると回りながら他の炎と合体して最終的には巨大な竜巻ができあがる。
うっすらと見え隠れしていたシバリはすべて燃え尽きた。ついでに死んだ者たちはそのまま炭となってしまう。
「シバリって人を弱らせてから命を奪うのに、こんなに無差別に人を死なせることある!?」
「玉の影響だな。近くにあるとシバリの力があがるんだ。シバリを利用して人の魂を食ってると思ってたが。なるほど、もともとあの虫どもはあいつの使い捨ての眷属か」
轟音とともに姿を現したのは空を覆い尽くしてしまうのではないかというくらい巨大な龍。真っ白で見た目だけはとても神々しい。その姿を見て生き残っていた人たちが地面に膝をついて祈りを捧げる。
キノクニ様だ!
キノクニ様が降臨された!
その声を聞いて二人とも鼻で笑ってしまった。
「右手くっついてんだろうが」
「人間にツッコミ入れてたらキリがないからまぁいいでしょ別に。龍に詳しい人間がいたらむしろびっくりするよ。さてと。急いで降りてきたのはやっぱり」
二人とも布で縛られた玉を見る。どう考えても間違いなく狙いはこれだ。ランカが持つ事で辛うじて拮抗が保たれていたのが、チョウカが持つことでわずかに気配があふれたのだろう。それを察知して急いで降りてきているのだ。
「第一声が返せ、ならあいつのもの。よこせだったら他人のものだな」
あたりに怒号が響いた。
「よこせええええ!!」
お前のじゃないじゃん、というツッコミを入れる暇などない。ラオが小さく旋回すると今しがた居た場所に氷の塊が無数に吹き付けられてきた。
「目ぇ血走ってるわ、怒り狂ってるわ、前に見た時よりだいぶひどい有様になってる」
「シュウセン様がずっと隠していたとなると相当な年数探し回ってたんだろう。しかも光の届く所しか移動できないから地上に降りてきて探すこともできない。シバリが眷属なら探させてたのかもしれんが、見つからなくて苛ついてたのかもな。やだやだ、年寄りは怒りっぽくて」
話をしている間もサカナシは次々と攻撃を繰り出してくる。しかし怒りと焦りのせいなのか以前戦った時よりも狙いがあまり正確ではない。何せラオでもかわせるくらいだ。
「それは俺のだ、よこせえ!」
以前と同じ戦い方は通用しないはずだ。自分たちの力ではサカナシを倒すことができないのはわかっている。
「無駄かもしれないがやってみるか」
そうつぶやくとチョウカはラオから飛び降りてサカナシの鬣に掴まった。本来であれば雷を放つ時に鬣が白く光る。雲から雷を呼ぶ他にも、自ら雷を作ることができるからだ。しかし以前戦った時、サカナシは口から氷を吐くだけで雷を使ってこなかった。龍であれば雨、雷は使えて普通だというのに。こうして掴まっていても、振り落とそうとしてくるだけで雷を使う様子は無い。
「もしかしてお前、氷しか吐き出せないのか? 雷も炎も使えないのかよ」
「!」
返事はなかったがその反応は図星だろうというのがわかった。明らかに体がびくりと震えたからだ。
(そんなことありえるか? ラオだって使えるのに)
玉を持っていない、龍としては幼いラオ。そのラオよりも龍としての能力は下ということになってしまう。
鱗はかなり固い、それこそ鉛のようだ。これはぶん殴っても無理だなと思い再びサカナシからラオに飛び移った。そこら中に氷の粒や塊を吐き出して攻撃をしてくる。それらをラオはスイスイと避けていく。避けられることに、ラオも驚いているようだ。
「なんか前より弱くなってない?」
ラオの問いかけにチョウカも「ああ」とうなずいた。
「明らかに氷が小さくなってる。風もたいしたことない。気が立ってめちゃくちゃに攻撃してるのかと思ったが、もしかしてこれが今のあいつの精一杯なのか」




