表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/49

全てを守りたい御曹司と八王子沙織

 生徒会室に避難してきたが、体育館にひよこ女史がいるとはいえ、油断はできない。

 いつでも暗殺者が来ていいように筋肉を温めておかないとならないな。

 とりあえずストレッチから始めよう。


 全身を入念にほぐした後、プッシュアップバーを使いながら腕立て伏せ100回。

 40キログラムのダンベルを咥えながら腹筋運動100回。

 100キログラムのダンベルを両手に筋肉に語りかける。

 いつの間にかルーティーンになってしまったが、この際だから懸垂100回もしておこう。

 うむ。良い具合に筋肉が語りかけてきた。

 ………………。

 …………。

 ……。


「筋肉オヤジ。わたしは何故、椅子に縛られているんだ?」


 生徒会室の外は安全が確認されてない。さっきみたいに逃げられると困るからだ。

 むっ?

 八王子がため息を吐きながら俺を見ている。どうしたんだ?


 どうしたんだ、ではない!!


 妹から見たら、意味もわからず生徒会室に連れて来られて、会話もせずに筋トレを見せられていたら、更に意味がわからなくなる!

 とりあえず、会話だ!


「お嬢様言葉はどうした?」

「んなもん、ドリルと筋肉オヤジしかいないんだから必要ないだろ」


 なるほど。妹は外面を使い分けているようだ。

 淑女らしくない言葉使いだが、お兄ちゃんに淑女らしさは必要ない。天使が見せる天使の素顔は天使的な天使に変わりない。


「お嬢様は外面用って事か。八王子もか?」

「ワタクシは唯衣ちゃんとは違いますわ」

「新垣様から唯衣ちゃんになるだけか。なるほどなるほど。お嬢様の生態にはうといからな、これから知っていく」

「とりあえず懸垂をヤメて仕事すれよ。目安箱の回収とかあるだろ。なんなら、わたしが回収してやるから解放すれ」


 妹よ。

 解放したら逃げるだろ。

 違うな。飽きさせている俺が悪いのだ。

 もっと俺から会話を振って15年間の空白を埋めなければならない。

 とりあえず懸垂は終了したからシャワーを浴びに……行くわけにはいかないから、水いらずのボディソープを頭からかけておこう。

 テーブルにある容器を取り、蓋を開けて頭から溶液を浴びる。

(むっ? 冷たいぞ……なっ!!!!)

 な、なんだ!?

 なんだコレは!?

 臭っ! 鼻にツンとくる! ツンときてスーッとくる!


「臭え! 病院臭え! 濃厚!」


 病院?!

 たしかに病院臭い!!

 コレは消毒液だ!!

 なんで消毒液が!?

 妹が怒ってしまう! いや、怒ってる! 慌てるな慌てるな俺!!


「消毒液だ。我慢してくれ」


 冷たい!!

 汗が一気に冷えていく!!


「紳士ですのね」


 紳士?

 八王子。何を言っているのだ?

 俺は紳士ではなくお兄ちゃんだ。


「消毒液で汗の匂いを誤魔化していますの」


 消毒液を浴びて汗を誤魔化しただけで、なんで紳士なんだ?

 まぁいい。とりあえず八王子の気づかいで紳士という事になってしまったが、妹との会話は継続できそうだ。

 だが、このままでは臭い臭いと言ってる妹が帰る帰ると言い出す。すでに言ってる気もするが。

 ここは会話を広げて15年間の空白を少しでも埋めよう……。


 ——————

 ————

 ——


 業務的な会話しかできない!!!!


 なんて事だ!

 俺が妄想してきた妹との会話は兄と妹の会話ばかりで、現状ではまったく役に立たない!

 八王子は妹のチーン役になってるし、花菱さんは相変わらずごゆっくりという表情をしている。


 ふと花菱さんの視線が扉へと向けられる。


 どうしたんだろうか?

 ひよこ女史が来たのかな?

 花菱さんは歩を進めると扉の前に立ち、どうやっているのか不明だが音無く扉を開ける。


 扉の外側で【黒血を継ぐ魔女】が聞き耳を立てていた。


 ……ってなんで【黒血を継ぐ魔女】がいる!?

 空菱さんはどうしたんだ!

 花菱さん、今すぐ扉を閉めてくれ!!!!


 二言三言交わすと、花菱さんは生徒会室に入ろうとする【黒血を継ぐ魔女】の髪を引っ張り、生徒会室を後にした。


 ホッと安堵していると、ふと疑問符が浮かぶ。

 妹と八王子は、なんで気づかないのだろうか?

 花菱さんも【黒血を継ぐ魔女】もそこまで気配を消していたとは思えないぞ。

 むっ?

 扉が音無く開いた。

 花菱さんの代わりにひよこ女史が生徒会室に入ってきた。

 何かをスケッチブックに書いている。


『小毒液ドッキリ!!』


 ひよこ女史。

 小毒液とはなんですか? 消毒液ではなかったのですか?


『新垣さんの反応はどうでしたか〜?』

「?」


 どういう意味だ?

 臭い臭い言われただけだが……?


『わかりました〜。今後の反応を見ていきましょ〜う』

「?」


 よくわからないが、ひよこ女史はドッキリに満足していないようだ。……そんな事より、


(ひよこ女史、【黒血を継ぐ魔女】が!)

『空菱ちゃんは休憩中で〜す。花菱君が遊びすぎだと説教してま〜す』


 説教? 相変わらずよくわからない関係だが、とりあえず今の【黒血を継ぐ魔女】は空菱さん以外に害は無いという事だ。それはそれでどうかと思うが……って、なんで妹と八王子はひよこ女史にも気づいていないんだ!?


『この程度の気配に気づけないほどしか鍛えていないので〜す。何故なら、暗殺者一人一人の気配に気づいていたら学校生活がままならないからで〜す』


 なるほど。妹や八王子を狙う暗殺者は【黒血を継ぐ魔女】だけではない。その気配一つ一つに気を張っていたら学校へ通うことさえしなくなる。

 その分、空菱さんと花菱さんは大変だろう。現在進行形で、二人の気づかいと苦労に感謝しなければならない。

 それと、ひよこ女史が生徒会室に来たという事は、体育館にいた暗殺者は一掃されたのだろう。ひよこ女史がいると知った暗殺者は一気に老け込んだだろうな。


 とりあえず、もう安心という事だ。

 ひよこ女史、ありがとうございます。


 俺は少しでも妹と会話しようと業務的な話をする。


 枡田や麻生がいればもっとマシな会話ができたかもしれない。

 妹には部活連や委員会の会議だと言ったが、今は反新垣派の生徒を警戒、監視しているのだろう。

 枡田、麻生、後輩達、ありがとう。


 んっ?

 業務的な会話をしていたつもりだが、妹の表情が曇り、雰囲気が変わった。


「生徒会長様。わたくしは、あなた方のような偽善者ではありません。今後、このような場へのお誘いは控えてください」


 どうしたんだ?


「わたしにかまうな、庶民。お嬢様なわたしと馴れ合えると思うな、庶民」


 なんでそんなに哀しい表情をする?

 なんでそんな嘘を言うんだ?

 なんで……。


 妹は生徒会室を出て行った。

 俺は妹を追うために立ち上がる。すると、ひよこ女史がため息を吐きながらスケッチブックを向けてきた。


『今の反省点を八王子さんと復習しといてくださ〜い』


 ひよこ女史は生徒会室を後にした。


 反省点を八王子と復習すれ、とはどういう意味だ?


「閣下。周囲を気にしながら唯衣ちゃんと会話するのはオススメできませんわ」

「! ……八王子は気づいていたのか」

「何をでございますか?」

「【黒血を継ぐ魔女】の気配に……」


 八王子は疑問符を浮かべている。

 どうやら気づいていなかったようだ。


「わかりませんでした。そんな小事よりも、閣下は『まったくない。とは、逆説的に解釈すれば、自分は何を奪われてもかまわない、という事にならないか? もしくは、失うモノは何もない』と言葉を並べておりました。この言葉をそのまま使うと、失うモノは何もない唯衣ちゃんは生徒全てを守るという閣下と距離を置いてしまいます」

「何故だ?」

「失うモノは何もない唯衣ちゃんは閣下に守られる事を望んでおりません。そして閣下を知らない唯衣ちゃんの中では、生徒全てを守る閣下は生徒全てに必要であり、閣下でさえ守る対象になるのです。唯衣ちゃんは、閣下が身の危険をかえりみず自分を守ると感じ取り、距離を置きました」

「間違いではない。俺は妹を守る」

「他の生徒を犠牲にしても、ですか?」

「他の生徒も守る」


 八王子はタブレット端末の画面を指でなぞりながら、はぁとため息を吐く。呆れた視線を俺に向けながら、


「……。閣下は全ての生徒に必要とされながら、御自分も全ての生徒を必要とし、唯衣ちゃんとも相互でありたい、と?」

「呆れるか?」

「不器用さに呆れてしまいますわ。唯衣ちゃんは、御自分の存在が他の生徒を危機に晒してしまうと思っております。閣下が正面から全ての人を守ろうとするように、唯衣ちゃんも全ての人を守るために家族•友人•全ての人と距離を置き、ぼっちになる事で全ての人を守っているのですよ」

「…………」


 ぼっちになる事で全ての人を守っている。

 それは、ぼっちになる事でしか、守れないという事。


 俺は妹と再会した事に浮かれる事ができる。だが、妹から見れば再会ではない。

 俺は妹を求め、両親を求め、友人を求め、筋肉を鍛えて全ての人を守ろうと15年間生きてきた。

 妹は違うのだ。

 家族を拒絶し、友人を拒絶し、全ての人を拒絶する事でしか、全ての人は守れない。としか思えなかったのだろう。その拒絶する切っ掛けさえ、自分の勘違いだと知らずに。


 妹は【黒血を継ぐ魔女】に命を救われた事を知らないのだ。


 友人だと思っていた同級生が暗殺者だった事を知らないのだ。


 空菱さんは小学生だった妹に真実を言えなかった。

 言えるわけがない。もし妹が真実を知ったら、精神が成長していない小学生では、全ての人間に自分の命を狙われている、と疑心暗鬼になる。視線を向けられただけで恐怖し、悍ましくなるだろう。


 妹がまともな精神状態でいたのが奇跡なのだ。


 まだ子供だったのだ。いや、今の妹に空菱さんや八王子が真実を話ていない時点で、今も子供なのだ。


 今現在、妹がまともな精神状態でいるのが奇跡なのだ。


 俺は15年前の恐怖を覚えている。今でも悪夢を見るし、深層心理に植え付けられた恐怖が脳裏を掠める度に身体が震える。妹よりも俺が救われているのは、母さんの温かさ、父さんの筋肉を覚えているからだ。


 妹には母さんの温かさ、父さんの強さ、家族の思い出が無い。


 そんなの想像するまでもなく恐怖でしかない。

 もし、俺が妹だとしたら発狂し、廃人になっている。


 妹の奇跡的な精神状態。この一縷の希望に手を伸ばし、これから家族として守っていく俺から妹に話さなければならない。


「八王子は、【黒血を継ぐ魔女】が暗殺者から妹を救ったのを知っているか?」

「ワタクシの黒歴史ですわ。小学生だったとはいえ、唯衣ちゃんに近づく魔の手に気づかず、今もなお、【黒血を継ぐ魔女】にワタクシも命を救われ続けているのですから」

「命を救われ続けているのは俺も同じだ。【黒血を継ぐ魔女】が俺達を獲物にしているから、一流の暗殺者は俺達に手を出さないのだからな。八王子、妹に……」

「【黒血を継ぐ魔女】は命の恩人だと、唯衣ちゃんに伝えますか?」


 八王子は冷たい視線を俺に向けると、


「それこそ甘い戯言、甘い望みですよ」


 ゆっくりと言葉を繋げると、冷たい視線が更に冷たくなり、敵でも見るように俺を見下すと、


「あなたは強い肉体があるから甘い戯言をほざけますが、唯衣ちゃんは切り刻まれるのですよ。同級生が暗殺者だったと伝え、命を救われたと知った次は、命の恩人に切り刻まれる怖さを持たせるのですか? 【黒血を継ぐ魔女】を勘違いしておられるなら、即刻、朝日ケ丘大学高等部を『卒業』し、唯衣ちゃんの前から消えてください」

「…………勘違いはしていないんだ。だが……」


 八王子の言うとおり、甘い戯言かもしれない。

 俺の考え方は妹の傷口に塩を塗るのと同じかもしれない。


「だが、いつかは知り、いつかは乗り越えないとならないんだ」

「いつかは……ですか。【黒血を継ぐ魔女】の凶事に振り回され、追い込むように現れる暗殺者に怖い怖い怖い……と怯える日々。目の前で起きた現実から友人を守るために友人を拒絶し、家族を拒絶する自分に苦悩を続け、ぼっちになりたくないのにぼっちになりたいと思い込む事で全ての人を守れる……と自我を保っておられます。何かの奇跡があって唯衣ちゃんがまともな精神状態だと思われているとしたら笑死。ワタクシにわかりやすく教えてくださいませ。『いつかは』というのは何を指した『いつかは』なのか? 答えられないなら、応えてください。その返答で、八王子は総力を使ってでも、あなたを唯衣ちゃんの前から消します」

「〜〜〜〜………!」


 頭がおかしくなりそうだ。

 吐き気が、嫌悪が、脳みそを締め付けて、現実だと認めたくない俺の身勝手な思いが視界を真っ白にしていく。

 頰を殴り、自我を保っても痛みがまったくない。

 奥歯を噛み締めて歯が欠けても、妹の哀しい表情が神経の痛みを凌駕する。

 甘い戯言だった。甘い望みだった。俺の人生を甘いという一言で否定できるだけの地獄に、妹はいる。


「八王子、俺はどうしたらいい?」


 手に残る妹の感触を思い出すように何度も握る。

 柔らかな頭髪だった。

 15年前に撫でた感触と重なり、その分の気持ちが胸を締め付ける。


 すまない。こんな情けない兄で、すまない。


「どうしたものですかね……。共に育てられたワタクシも姉妹はおろか友人とさえ思われておりませんから、皆目検討も、としか言えませんわ」

「そ、そうか」


 聞くまでもなかった。八王子なら解決する道があれば妹を導き、地獄から救い出しているのだから。


 だが、八王子に頼らずとも救い出せる人間はいる。

 母さんなら妹を地獄から救い出すことができる。

 それに母さんと会う事は不可能ではないのだ。

 何故なら、【黒血を継ぐ魔女】は父さんをターゲットにしているため、妹や母さんや俺が獲物になる。父さんが俺達に会いに来るような事があれば、狩られる、という事だ。

 今、妹と俺が同じ学校に通えるのは獲物同士が会ったとしても【黒血を継ぐ魔女】の『こだわり』には触れていないという事になるため、母さんと会う事は不可能ではない。


 俺と妹が母さんと会えない理由は他にあるのだ。


 脳裏に『私の獲物だからよ』という【黒血を継ぐ魔女】の声音が流れる。

【黒血を継ぐ魔女】が獲物である母さんを守っているから、俺と妹は母さんに会えない。

 妹は理解できるだろうか……いや、妹には理解以前の問題だ。だが、【黒血を継ぐ魔女】が母さんを守っているから母さんは生きていられる。それだけはわかってほしい。そして、俺達家族を苦しめる元兇だが、【黒血を継ぐ魔女】を心の底から恨む事ができない俺を……許してほしい。


 針時計の音だけが聴覚器官を打つ。

 普段は気にもならないのに、カチカチという音が耳触りで不快になる。

 一縷の希望があったとしても、一縷の希望が見つからなければ、絶望と変わらない。

 俺が、妹といられる俺が、一縷の希望を……。


「ふと思い出しだのですが……」

「なんだ!?」

「!」


 思わず出してしまった大声に八王子が驚いている。


「す、すまない。……何を思い出したんだ」

「唯衣ちゃんが閣下に頭を掴まれた時ですが、おとなしかった気がします」

「顎に蹴りをもらったぞ?」

「それは閣下にデリカシーが無いからですわ。いくら唯衣ちゃんを前にして緊張していたとはいえ、紳士として失格な発言が多々ありました」


 たしかに。

 今思えば、身長や体重、下着まで口にするのは紳士以前に兄としても失格だ。

 なんて事をしてしまったんだ!!


「八王子。謝罪の場を作ってくれ」

「必要ありませんわ。唯衣ちゃんは総帥に似ておりますから、余程の事ではない限り3秒前の事は忘れます」


 身長や体重、下着の露見は思春期には余程の事だぞ。

 それでいいのか妹よ。

 母さんが泣くぞ。今は一緒にいないだろうから大丈夫だが、父さんへのドメスティクバイオレンスが悪化するぞ。

 だが、八王子の言葉は一縷の希望だ。

 両親のためにも、一縷の希望に縋り付いて、妹を淑女らしくしなければならない!


「八王子。妹は頭を掴んだらおとなしくなるんだな?」

「おとなしかった気がしただけですわ。そもそも、唯衣ちゃんは他人が近づくのを良しとしません。頭を掴むなんて以ての外。閣下に怯えていたとはいえ……」

「何故怯える!?」

「……。閣下は熊みたいに大きいですから、見慣れていない女子なら怯えますわ」

「…………」


 たしかに妹は子犬みたいにプルプル震えていた。


 なるほど。昔から初対面の女子に逃げられていたのは怯えられていたからなのか。だとすると、最初から怯えられなかったのは一馬の彼女と八王子ぐらいだな。


「八王子は俺と初対面の時に怯えていなかったな」

「総帥に何度かお会いしておりますから」

「なるほど。八王子は父さんで慣れていたのか。そう考えると、一馬の彼女はやはりズレているな」

「閣下。今は唯衣ちゃん攻略ですわ。よそ見しているとますます嫌われますわよ」


 申し訳ない。


「唯衣ちゃんなら、怯えていたらもっと反抗すると思いますわ。しかし、唯衣ちゃんは閣下のデリカシーの無さにしか反抗しておりません。ワタクシの予想ですが、深層心理では産まれた日に閣下から頭を撫でられたのを覚えているのではないでしょうか」

「……? 深層心理では、覚えている?」

「唯衣ちゃんの家族の思い出は産まれた日だけですわ。もちろん、記憶があるとは思いません。ですが、光を感じることしかできない視覚の中で、嗅覚•聴覚•触覚•味覚では家族を感じていたはずですわ。先に述べたように、唯衣ちゃんは他人が近づくのを良しとしませんし、頭を掴むなんて以ての外です。そんな唯衣ちゃんが、閣下が頭を掴んだ事に反抗しなかった……と『前向きに考える』と、深層心理では閣下を家族だと認識しているのでは? という奇跡、一般的には曲解でしかない戯言をワタクシもほざいてみますわ」

「〜〜〜〜…………十分だ」


 十分すぎる一縷の希望だ。


「〜〜戯言でもいい。〜〜深層心理でいいんだ。〜〜妹には母さんが父さんが俺が、〜〜家族はいるんだから……〜」


 嬉しかった。それだけと言われるかもしれないが、


「救われる。母さんと、父さんに、教えてやりたい……〜」


 八王子の前で涙を流してしまった。

 ダメな先輩、ダメな男だ。


「閣下。総帥が知れば唯衣ちゃんを取り囲む環境がますます悪くなりますから、伝えないでください。奥様には、閣下も唯衣ちゃんが総帥似だと伏せるなら、伝えても良いと思います」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ