第5話「次元の狭間」
空間そのものへの理解を深めるレンの研究は、次第に、宇宙全体を巻き込む、壮大なプロジェクトへと発展していった。
「零崎殿、この規模の実証実験となると、銀河連邦全体の協力が不可欠になります」
ヴェルミナが、慎重な口調で告げる。
「はい。皆さんに、事情を説明して、協力を仰ぎましょう」
レンは、銀河連邦の各文明代表者を集め、これまでの研究成果と、今後の展望を、丁寧に説明した。
「空間そのものの安定性を高めることができれば、これまで各地で報告されている、次元の歪みによる異常現象――それらを、根本的に解決できる可能性があります」
その説明に、各文明の代表者たちから、大きな期待の声が上がった。
『我々アルゴス集合体も、全面的に協力しよう』
集合意志が、力強く応じる。
『貴殿の理論、既にいくつかの辺境星系で発生している、空間の不安定化現象――その解決にも、大きく貢献するはずだ』
「ありがとうございます」
こうして、銀河連邦全体を巻き込んだ、壮大な実証実験の準備が、着々と進められていった。
だが、その準備の最中、思いがけない事態が発生した。
「零崎殿、緊急事態です!」
ヴェルミナが、慌ただしく駆け込んでくる。
「どうしましたか」
「辺境の星系で、空間の歪みが、急激に拡大しています! このままでは、周辺の複数の星系が、次元の狭間に呑み込まれる危険性があります!」
「なんだと……!」
レンは、即座に、現地への急行を決断した。
「時間がありません。今すぐ向かいます」
現地に到着したレンたちを待っていたのは、想像を絶する光景だった。空間そのものが、まるで裂けるように歪み、周辺の星々が、次々とその狭間に引き込まれていく。
「これが……次元の崩壊」
レンは、思わず息を呑んだ。
「レン、時間がない! 早く、対応を!」
ガイウスの叫びに、レンは、即座に集中を高めた。
(これまで積み重ねてきた理解の、全てを注ぎ込む……!)
「強化!」
レンの掌から、これまでにない、圧倒的な光が溢れ出した。
空間の歪みへと向けられたその光は、まるで裂け目を縫い合わせるように、周囲の空間構造を、静かに、しかし確実に安定させていく。
「歪みが、収まっていきます……! 空間構造、安定を取り戻しつつあります!」
ヴェルミナの報告に、レンは、深い安堵の息を吐いた。
「間に合った……のか」
こうして、レンは、次元の崩壊という、これまでにない危機を、辛うじて乗り越えることに成功した。
だが、この一件は、レンに、これまで以上の緊張感をもたらすこととなった。
(次元の崩壊……これは、もしかしたら、以前高次元の存在が語っていた、宇宙の“境界”の問題と、繋がっているのかもしれない)
これより、レンの物語は、いよいよ、宇宙の外側――高次元の領域そのものへと向かう、最終局面へと突入していくこととなる。
(第6話へ続く)




