第4話「空間という約束」
光速、重力という二つの根源的な概念への理解を経て、レンは、最後の壁――空間そのものへの理解へと、挑戦を進めていった。
「空間……これまでの二つとは、また異なる難しさがありますね」
ヴェルミナが、資料を前に、思わずため息を漏らした。
「光速や重力は、まだ“数値”として捉えられる部分がありました。ですが、空間そのものは、それ自体が“舞台”であり、対象化することが、極めて困難です」
「はい……正直、これまでで一番、理解に苦労しています」
レンは、幾晩も資料と向き合いながら、空間という概念の本質を、探り続けていた。
「レン、少し休んだらどうだ」
ガイウスが、心配そうに声をかける。
「大丈夫です。ただ、今回ばかりは、本当に難しくて……」
そんな中、レンの元に、思いがけない来訪者が現れた。
「レン、久しぶりだな」
獅堂グレンが、不敵な笑みを浮かべながら、研究室に姿を現した。
「グレンさん。今日は、どうしたんですか」
「お前が、また難しい顔して唸ってるって聞いてな」
グレンは、レンの資料を、興味深そうに覗き込んだ。
「空間、か。俺には、小難しい理論は分からねえが……一つ、聞いていいか」
「なんですか」
「お前が最初に、俺の剣を強化した時――あの重力の渦の中で、剣を“繋ぎ止める”ように強化したよな」
「はい」
「あれって、結局、剣と俺との“空間的な繋がり”を、強化したってことじゃねえのか」
その言葉に、レンは、はっとした。
「……そうか。空間も、単なる“場所”としてじゃなく、存在同士の“距離”や“繋がり”を規定する、約束事として捉えればいいのか」
レンは、勢いよく資料をめくり直した。
「グレンさん、ありがとうございます! ヒントを、もらえた気がします」
「はっ、俺は難しいことは分からねえが、役に立てたなら何よりだ」
グレンの何気ない一言が、レンの理解を、大きく前進させることとなった。
こうして、レンは、空間を「存在同士の距離、そして繋がりを規定する約束事」として、再定義していく研究を、本格的に進めていった。
「ドルシスさん、この理論、確認してもらえますか」
「うむ……面白い視点だ。空間そのものを“繋がりの総体”として捉えるのであれば、その強化は――次元の崩壊を防ぐことにも、繋がるかもしれんな」
ドルシスの言葉に、レンは目を見開いた。
「次元の崩壊……それは、どういうことですか」
「わしの故郷が滅びた原因の一つに、空間の歪みによる、次元構造の崩壊があった。もし、お前の理論が、空間そのものの安定性を高められるのであれば――それは、宇宙全体にとって、極めて重要な意味を持つことになるだろう」
レンは、深く息を吸い込んだ。
「分かりました。この研究、必ず完成させます」
こうして、レンの最終章となる研究――空間そのものへの理解と強化が、いよいよ、その最終段階へと進んでいくこととなった。
(第5話へ続く)




