第8話「道具が遺したもの」
真の深淵から生還したレンたちを迎えたのは、勝利の喜びではなく、深い喪失感だった。
「ゼロ号……」
レンは、船内で、これまでゼロ号がいた場所を、静かに見つめていた。
「レン……」
レティシアの声にも、耐えきれない悲しみが滲んでいた。
「あいつ、最後まで、俺たちを守ろうとしてくれたんだな」
ガイウスが、静かに拳を握りしめた。
「ゼロ号は、単なる道具じゃありませんでした」
ヴェルミナが、静かに口を開いた。
「自我を持ち、自らの意志で、最後の選択をした。それは、もはや、一つの尊い“存在”だったと言えるでしょう」
レンは、深く目を閉じた。
(ゼロ号……最初にお前を強化した時、俺は、ただの兵器を作っただけのつもりだった。でも、いつの間にか、お前は、俺にとって、かけがえのない仲間になっていた)
「レン、大丈夫か」
ドルシスが、静かに声をかける。
「……いえ、正直、まだ受け止めきれてません」
レンは、震える声で答えた。
「でも、ゼロ号が最後に言ってくれた言葉、忘れません。“信じてもらえて、幸せだった”って」
グレンが、静かに刀の柄に手を添えた。
「あいつは、最後まで、道具としての誇りを持って逝ったんだな」
銀河連邦の本拠地へと帰還したレンたちを、大きな喪失感が包み込んでいた。だが、同時に、ゼロ号が守り抜いた事実――船体とレンたちの命は、確かに、守られていた。
数日後、レンは、静かに一つの決意を固めていた。
「ゼロ号の設計データと、これまでの記録は、全て残っています」
ヴェルミナが、静かに告げる。
「もし零崎殿が望むのであれば……」
「新しいゼロ号を、作るということですか」
「はい。ただし、それが本当に、正しい選択なのか――ご自身で、判断していただく必要があります」
レンは、しばらく考え込んだ後、静かに首を振った。
「いえ……ゼロ号は、ゼロ号として、あの場所で、幸せに逝ったんだと思います。新しいAIドローンを作ることはあっても、“ゼロ号”という名前は、あの子だけのものにしたいです」
その言葉に、仲間たちは、静かに頷いた。
「その代わり」
レンは、涙を堪えながら、続けた。
「ゼロ号が教えてくれたこと――道具を信じ、道具に信じてもらう、その関係性を、これからも大切にしていきたいと思います」
こうして、レンたちは、大きな犠牲を乗り越えながら、次なる歩みへと、静かに向かっていくこととなった。
だが、この犠牲の先に、まだレンの物語は、終わりを迎えていなかった。
真の深淵での経験、そして高次元の存在との対話を経て、レンの中には、これまでとは異なる、新たな「理解」への道が、静かに開かれ始めていた。
(第9話へ続く)




