第7話「ゼロ号の選択」
高次元の存在との対話を終え、レンたちは、帰還の途につこうとしていた。
「これで……危機は、去ったんでしょうか」
ヴェルミナの問いに、宇宙管理AIが、静かに応じた。
『当面の危機は、回避されたと言えるだろう。だが――』
「だが?」
『貴殿の力が、この宇宙の境界そのものに影響を及ぼし得るという事実は、変わらぬ。今後も、慎重な歩みが求められるだろう』
レンは、深く頷いた。
「分かりました。これからも、理解を重ねながら、歩んでいきます」
こうして、レンたちは、帰還のためのワープ準備に取り掛かった。
だが、船体が、真の深淵を抜け出そうとした、まさにその瞬間――
「レン、まずい! 時空の歪みが、急激に不安定化しています!」
ヴェルミナが、悲鳴じみた声を上げた。
「なんだって……!」
「先ほどの強化の影響か、あるいは高次元の存在との接触の余波か……船体が、渦に引き込まれかけています!」
『マスター! このままでは、船体が特異点に呑まれる危険性があります!』
ゼロ号の警告が、艦橋に響き渡る。
「くっ……! 何とか、抗える方法を……!」
レンは、必死に理解を巡らせた。だが、これまでにない規模の時空の歪みに、即座の対応策は、簡単には見つからなかった。
『マスター』
ゼロ号の声が、これまでとは異なる、落ち着いた響きを帯びた。
「ゼロ号?」
『船体全体を守るためには、外部でこの歪みを、直接抑え込む必要があります。ゼロが、船外に出て、対応いたします』
「待て、それは危険すぎる!」
ガイウスが、慌てて制止する。
『マスター、皆様。ゼロは、これまでずっと、マスターに強化していただき、命を、いえ、この“存在”を与えていただきました』
ゼロ号の声には、これまでにない、静かな覚悟が滲んでいた。
『ゼロは道具です。でも、マスターに“信じてもらえた”道具です。だから――ここで役に立てるなら、本望であります』
「ゼロ号、待ってくれ……!」
レンが叫ぶより早く、ゼロ号は船外へと展開し、歪みの中心へと、自らの機体を投じていった。
「ゼロ号……!」
レンの叫びと共に、ゼロ号の機体が、渦の中心で、淡い光を放ちながら、時空の歪みを、内側から抑え込んでいく。
「船体の安定、回復しつつあります……! ゼロ号の機体が、歪みを吸収しているようです!」
ヴェルミナの報告に、レンは、涙を堪えながら、モニターを見つめた。
「ゼロ号、頼む……! 無事で……!」
だが、ゼロ号の機体は、歪みを抑え込みながら、徐々に、その輪郭を薄れさせていった。
『マスター……皆様……』
最後に届いた、ゼロ号の声は、これまでで一番、穏やかなものだった。
『ゼロは、幸せでした。マスターに、信じてもらえて……本当に、幸せでした』
そう言い残し、ゼロ号の機体は、静かに、時空の狭間へと消えていった。
「ゼロ号……!」
レンの叫びが、艦橋に、虚しく響き渡った。
(第8話へ続く)




