第7話「聴取の間」
翌日、レンとガイウスは基地上層部が使う聴取の間へと呼び出されていた。
簡素な木製の机を挟み、向かいには昨日の試験官の他に、基地全体を統括する司令官の姿もあった。壮年の女性で、鋭い眼光がレンを射抜く。
「零崎レン。お前のスキルについて、詳しく説明してもらおうか」
「は、はい。俺のスキルは《アイテム超強化》……アイテムの性能を、強化するものです」
「その強化とやらに、上限はあるのか」
「……分かりません。ただ、対象への理解が深いほど、強化の度合いが上がるようです」
司令官は眉をひそめた。
「理解、か。曖昧な話だな」
「ですが、事実です。最初は錆びたナイフしか強化できませんでしたが、盾、籠手、そして今回の大剣と……理解を重ねるごとに、扱える対象は広がっています」
試験官が横から口を挟む。
「昨日の一件、規定外の性能を持つ武器で候補生の実力を偽装した疑いがある。厳密には不正行為だ」
「いや、それは違う!」
ガイウスが声を荒げた。
「俺自身の腕力や剣術は、何も変わってねえ! 変わったのは剣の性能だけだ。それの何が不正なんだよ」
「装備の性能によって、戦闘力の評価基準が歪むという意味で問題がある、と言っている」
司令官は静かに手を上げ、二人を制した。
「双方の言い分は分かった。では、こうしよう」
彼女はレンへと視線を戻す。
「零崎レン。お前のスキルが本当に“理解に基づく強化”だというのなら、この場で証明してみせよ」
「証明、ですか」
「基地の倉庫に、長年誰も手をつけられずにいる旧式兵器が眠っている。動かすことすら叶わず、鋳潰す予算も出ない代物だ」
司令官の言葉に、部屋の空気が僅かに張り詰めた。
「もしお前が、それを“理解”し、まともに機能する状態にまで持っていけるというのなら――お前のスキルを、正式な戦力として認めよう」
「その旧式兵器というのは……」
「地下格納庫にある、召喚された技術者たちが持ち込んだ設計図を基に組まれた試作機だ。誰も動かし方すら分からず、放置されている」
レンは息を呑んだ。木や鉄の武具とは、明らかに次元の違う代物であることは、聞いただけで分かった。
「……やらせてください」
レンは、迷いなくそう答えていた。
「レン、本気か? そんな得体の知れないもん、いきなり」
ガイウスが心配そうに問いかけるが、レンは静かに頷いた。
「理解すれば、強化できる。それが本当なら……逃げてる場合じゃない」
司令官は、僅かに口の端を上げた。
「良い覚悟だ。案内させよう」
その日の午後、レンとガイウスは基地の地下深く、これまで足を踏み入れたことのない格納庫へと通された。
重い扉が開かれた先には、埃をかぶった巨大な鋼鉄の塊が、静かに横たわっていた。
「これは……」
レンは言葉を失った。
全長にして十メートルはあろうかという、履帯を備えた鋼鉄の巨体。地球の技術者が異世界に持ち込んだ、時代錯誤なまでに場違いな存在――戦車、と呼ばれる兵器だった。
「聞いた話じゃ、地球から召喚された技術者の一人が、設計図だけ残して行方不明になったらしい。動かし方も分からず、ずっとここに放置されてたそうだ」
案内役の兵士が、そう説明する。
レンは、埃をかぶった鋼鉄の巨体に、そっと手を触れた。
(これを、理解する……)
途方もない挑戦であることは、直感で分かった。だが同時に、レンの胸の奥では、抑えきれない好奇心が疼いていた。
「……やってみます」
その夜から、レンの本格的な「兵器との対話」が始まった。
まだ誰も知らない。この鋼鉄の塊こそが、後にレンを、そしてこの世界そのものを、大きく変えていく最初の一歩になることを。
(第8話へ続く)




