第6話「大剣の一撃」
レティシアが去った後も、レンはしばらく作業に集中できずにいた。
(「置いていかれてる気がする」……レティシアが、そんな風に思ってたなんて)
彼女の言葉の意味を、うまく飲み込めないまま、レンは手元の大剣に視線を落とす。
(今は、目の前のことをやるしかない)
気持ちを切り替え、レンは再び大剣の構造と向き合った。ガイウスがどんな風にこの剣を振るうのか、何度も脳内でイメージを組み立てる。刃の反りが生む遠心力、重心が生む一撃の重さ——理解が深まるほど、掌から流れ込む光も、より鮮明な形を帯びていく。
「……できた」
三日がかりの作業を終え、レンは完成した大剣をガイウスの元へ持っていった。
「おう、待ってたぜ」
ガイウスは大剣を受け取ると、まじまじとその刀身を見つめる。以前よりも一回り薄くなっているにもかかわらず、握った瞬間に伝わってくる重量感——いや、正確には「重さ」ではなく「密度」とでも呼ぶべき何かが、まるで違っていた。
「軽い……のに、なんつうか、芯があるっつうか」
「重量そのものより、“衝撃を伝える効率”を上げてみました。振り抜いた時の威力が、そのまま相手に伝わるように」
「理屈は分かんねえが、面白そうだ」
ガイウスは基地の裏手にある演習場へと足を運ぶ。分厚い鋼鉄の的——本来、上級の戦闘職候補生が実力を試すために使う、規格外の耐久力を持つ的だ。
「見てろよ、レン」
ガイウスは大剣を大きく振りかぶり、渾身の一撃を叩き込んだ。
――ズガァンッ!!
轟音と共に、鋼鉄の的が真っ二つに両断され、後方の土壁にまで亀裂が走る。
「なっ……」
演習場にいた他の候補生たちが、一斉に振り返った。
「お、おい、あの的、上級試験用のやつだぞ……! ガイウスの奴、あんな威力出せたか?」
「いや、剣が違う。あの大剣、なんだあれ」
どよめきが広がる中、ガイウスは自分の手の中の大剣を見つめ、口元を歪ませて笑った。
「……はっ。俺の腕前じゃねえ。この剣のおかげだ」
彼は振り返り、遠くで様子を伺っていたレンに、大きく手を振った。
「レン! 見たか、今の!」
「は、はい……すごい威力でした」
「お前のおかげだよ!」
ガイウスは満面の笑みでレンに駆け寄る。だがその時、演習場の入り口から、鋭い声が響いた。
「――待て、ガイウス」
現れたのは、昇格試験を管轄する試験官の一人だった。厳格な顔つきで、ガイウスの手にある大剣を睨みつける。
「その武器、規定外の性能を有しているように見えるが。どこで手に入れた」
「これは……」
ガイウスが口ごもると、レンが慌てて前に出た。
「あ、あの、それは俺が強化したものです。俺のスキルで」
「零崎レン、だったか。噂の“ハズレスキル”とやらは、随分と規格外の代物を生み出すようだな」
試験官の視線は、疑念と警戒の色を帯びていた。
「不正な手段で戦力を底上げしていると判断されれば、こちらとしても看過できん。詳しい調査をさせてもらう」
「ちょ、待ってくれ! こいつは何もズルなんてしてねえ!」
ガイウスが声を荒げるが、試験官は取り合わずに踵を返した。
「明日、正式な聴取の場を設ける。二人とも、出頭するように」
その背中が去っていくのを見送りながら、ガイウスは苦々しげに舌打ちをした。
「くそ、面倒なことになりやがった」
「……すみません、俺のせいで」
「謝ることねえよ。むしろ、これでお前の力がちゃんと“本物”だって、証明するチャンスかもしれねえ」
ガイウスはレンの肩に手を置き、力強く笑ってみせた。
「なあ、レン。お前のその力、俺は信じてるぜ。だから――堂々と胸を張って、明日行こうや」
レンは、初めて誰かに真正面から「信じている」と言われたことに、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
だが同時に、この一件が、レンの存在を基地の上層部に強く印象づけるきっかけになることを、まだ二人は知らなかった。
(第7話へ続く)




