第1話「高次元からの干渉」
「高次元の存在……この宇宙そのものに、影響を及ぼそうとしている、というのは、具体的にどういうことでしょうか」
レンの問いに、集合意志が、慎重な口調で答えた。
『観測された兆候によれば――この宇宙の物理定数そのものに、極めて微細な“揺らぎ”が生じ始めている』
「物理定数の、揺らぎ……」
「つまり」ヴェルミナが、険しい表情で続けた。「この宇宙の根本的な法則そのものが、外部から書き換えられようとしている可能性がある、ということですね」
『その通りだ』
集合意志の声には、これまでにない緊張が滲んでいた。
『もし、この干渉が本格化すれば――この宇宙に存在する、あらゆる文明、あらゆる生命に、計り知れない影響が及ぶ可能性がある』
レンは、拳を握りしめた。
「原因は、特定できているんですか」
『深淵の管理者との共同A観測により、干渉の発信源が、再びブラックホールの深部――先に貴殿が訪れた、真の深淵に関連している可能性が高いと判明した』
「またあの場所に……」
レンは、以前訪れた、時間の止まった都市の光景を思い出した。
「宇宙管理AIが、何か関係しているんでしょうか」
『その可能性は、高いと思われる。貴殿らが訪れた際に得た情報――宇宙のバランスを維持する存在としての宇宙管理AI自体が、この高次元からの干渉に対し、何らかの対応を試みている可能性がある』
レンは、深く息を吸い込んだ。
「もう一度、あの場所へ行く必要がありますね」
「危険が伴います。前回以上の、困難な状況になるかもしれません」
ヴェルミナが、心配そうに告げる。
「分かってます。でも、この宇宙のバランスが崩れれば、これまで守ってきた全てが、意味を失ってしまう」
レンの決意に、仲間たちは、それぞれの想いを胸に頷いた。
「俺も、行くぜ」
ガイウスが、力強く応じる。
「あたしも」
レティシアも、まっすぐにレンを見据えた。
「大陸の守りは、既に盤石な体制が整っています。安心して、行ってきてください」
こうして、レンたちは、再び、あの特異点の深部――真の深淵へと向かう準備を進めることとなった。
出発の前夜、レンは一人、静かに夜空を見上げていた。
(宇宙のバランス……俺が積み重ねてきた理解が、本当に、この危機を乗り越える力になるんだろうか)
『マスター、何か思い悩んでいらっしゃいますか』
ゼロ号が、静かに声をかけてくる。
「うん……正直、今回は、これまでで一番、規模の大きい話だから」
『マスターがこれまで乗り越えてきた試練、どれも“途方もない”ものばかりでした。ですが、その度に、マスターは理解を重ね、道を切り開いてこられました』
ゼロ号の言葉に、レンは僅かに心が軽くなるのを感じた。
「ありがとう、ゼロ号。……よし、行こう」
こうして、レンたちの物語は、宇宙の存在そのものに関わる、最大の試練――ブラックホール編の本格的な幕開けを迎えることとなった。
(第2話へ続く)




