第10話「最終章への扉」
「実証実験、開始します」
銀河連邦の研究施設、厳重な隔壁に囲まれた実験室で、レンは静かに息を整えていた。
「対象は、この金属球。今回は、光速そのものへの強化を試みます」
レンの言葉に、集まった研究者たちの間に、緊張が走った。
「理解……深く、深く)
レンは、これまで積み重ねてきた光速に関するあらゆる理論を、脳裏で組み立て直していく。エネルギーと質量の等価性、光の粒子と波動としての二重性、そして――速度という概念そのものの本質。
「強化」
レンの掌から、これまでにない、深みのある光が溢れ出した。
金属球を包み込んだ光が、周囲の空間そのものを、僅かに歪ませていく。
「計測班、状況は?」
「こ、光速の局所的な変化を、確認……! これは、理論値を、大幅に上回る数値です!」
研究者の興奮した声に、実験室全体がどよめいた。
「や、やった……本当に、物理法則そのものへの強化が……!」
ヴェルミナが、驚きと共に、深い感慨を漏らした。
「レン、これは、途方もない成果だぞ」
ガイウスが、興奮を隠せない様子で駆け寄ってくる。
「ありがとう、ガイウス。……でも、これは、まだ始まりに過ぎない」
レンは、額の汗を拭いながら、静かに呟いた。
「これから、重力、そして空間そのものへの強化にも、挑戦していく必要がある」
『マスター、素晴らしい成果であります!』
ゼロ号の弾んだ声に、レンは僅かに笑みを浮かべた。
その時、集合意志からの通信が、実験室に響いた。
『貴殿の成果、確認した。この宇宙の物理法則そのものに、理解に基づく変化をもたらし得るという事実――これは、我々の想定を、遥かに超えるものだ』
「ありがとうございます」
『同時に、一つ、伝えねばならぬことがある』
集合意志の声に、レンは緊張を強めた。
『先の、宇宙外縁部からの未知のエネルギー反応――その正体が、ついに明らかになりつつある』
「本当ですか」
『詳細な観測の結果、その反応は――この宇宙そのものを内包する、より高次元の存在からの“干渉”である可能性が、極めて高いと判明した』
その言葉に、実験室全体に、重い沈黙が流れた。
「高次元の存在……つまり、この宇宙の“外側”に、本当に何かが存在する、ということですね」
「はい。そして――」
ヴェルミナが、通信記録を確認しながら、緊張した面持ちで続けた。
「その存在が、この宇宙全体に、何らかの影響を及ぼそうとしている兆候が、確認されているとのことです」
レンは、拳を握りしめた。
物理法則そのものへの理解という、これまでの集大成となる力を手にしたレンに、今、さらに壮大な、宇宙の存在そのものに関わる、最大の試練が近づきつつあった。
(第7巻・完 第8巻へ続く)




