第8話「物理法則への第一歩」
物理法則そのものへの強化――その途方もない挑戦に向け、レンは、これまでとは全く異なる次元の研究を開始することとなった。
「まず、何から手をつけるべきでしょうか」
ヴェルミナの問いに、レンは、しばらく考え込んだ。
「これまでの強化は、常に“対象”があった。ナイフ、盾、戦車、宇宙船……でも、物理法則そのものには、明確な“形”がない」
「確かに、光速や重力といった概念は、触れることも、目で見ることもできませんね」
「だからこそ、これまで以上に、深い“理解”が必要になるはずです」
レンは、集合意志、そして深淵の管理者から得た知識を、一つ一つ丁寧に読み解いていった。
光速の本質、重力の正体、空間という概念そのものの成り立ち――これまでの人生で培ってきた「理解する力」の全てを注ぎ込む、壮大な研究が始まった。
『マスター、集合意志より、追加の理論資料が届きました』
ゼロ号が、次々とデータを転送してくる。
「ありがとう、ゼロ号。……これは、本当に、途方もない挑戦だ」
レンは、何度も頭を抱えながらも、着実に理解を積み重ねていった。
そんなある日、小さな実験の成果が、初めて形になった。
「これは……」
レンが強化を施したのは、小さな金属片だった。だが、その金属片の周囲だけ、僅かに光の屈折率が変化していることが、観測機器を通じて確認された。
「光の速度に、局所的な変化が……!」
ヴェルミナが、驚愕の声を上げる。
「まだ、ほんの僅かですが……理論上は、可能だということが、証明されました」
レンは、深い手応えを感じながら、さらなる研究へと没頭していった。
「レン、無理はするなよ」
ガイウスが、心配そうに声をかける。
「大丈夫。これは、俺だけの挑戦じゃない。この宇宙のバランスを守るための、大切な一歩だから」
こうして、レンの研究は、着実に、しかし確実に、前進を続けていった。
だが、その矢先――思いがけない知らせが、銀河連邦全体を揺るがすこととなる。
「零崎殿、緊急事態です!」
ヴェルミナが、慌ただしく駆け込んできた。
「どうしましたか」
「観測網が、宇宙の外縁――これまで確認されたことのない、未知の領域からの、強大なエネルギー反応を検知しました」
「未知の領域……?」
「詳細は不明ですが、専門家の分析によれば――この宇宙そのものの“外側”に関わる可能性がある、とのことです」
その報告に、レンは息を呑んだ。
(この宇宙の、外側……)
物理法則そのものへの理解を深めつつあったレンに、さらに壮大な、そして未知なる領域への扉が、静かに開かれようとしていた。
(第9話へ続く)




