第2話「防御の理解」
「触手状の機構、再接近してきます!」
ヴェルミナの報告に、レンは即座に反応した。
「装甲の重力耐性を、局所的に最大まで引き上げる!」
レンの強化を受けたスペースクラフトの装甲が、迫りくる触手の一撃を、かろうじて弾き返した。
「くっ……これが、ブラックホール文明の技術力か」
ガイウスが、船体の揺れに耐えながら唸る。
「ゼロ号、敵の攻撃パターン、解析できるか?」
『解析中です、マスター……! 通常の物理法則とは異なる、重力そのものを操作した攻撃のようです!』
「重力を、操作……」
レンは、額に汗を滲ませながら、必死に理解を深めようとした。
(これまでの装甲強化とは、根本から違う。単純な硬さや強度じゃなく、重力そのものへの耐性が必要になる)
「グレンさん、ここは俺が対応します。少し時間を稼いでもらえますか」
「おう、任せろ」
グレンは、刀を構えながら、船外へと飛び出す準備を始めた。
「危険です、グレンさん!」
「心配すんな。理解するまでの繋ぎくらい、俺の役目だろうが」
グレンは、不敵な笑みを浮かべながら、迫りくる触手へと立ち向かっていった。
船外に飛び出したグレンは、渾身の一太刀を、触手の一本へと叩き込んだ。
だが――刃が触れた瞬間、剣そのものが、光になって伸びていく。斬撃の軌跡が、まるで空間ごと引き伸ばされるように歪み、消えていく。
「なっ……」
グレンの手の中で、剣が徐々に重力に「吸われて」いく。
「グレンさん!」
レンが叫ぶと同時に、通信越しに映るグレンの表情が、初めて余裕を失う。
「くそ、が……これが、“斬れないもの”ってやつか」
剣の切っ先から刀身の半ばまでが、既に渦の中へと引き込まれかけている。
「グレン、手を離せ! 剣ごと持っていかれるぞ!」
ガイウスが叫ぶ。だがグレンは、歯を食いしばりながら剣を離そうとしない。
「離せるかよ……! この剣は、俺が大陸統一した時から、ずっと連れ添ってきた相棒だぞ!」
その言葉に、レンの中で何かが弾けた。
道具を、相棒だと言った。己の力だけを信じてきたはずの男が、最後の瞬間に、道具への想いを口にした。
「……理解、しました」
レンが小さく呟く。
「グレンさんの剣が“斬る”んじゃない。あの重力場は、“引きちぎる”力なんだ。だったら――引きちぎられないように、剣自体を“繋ぎ止める”方向に強化すればいい!」
レンは船内から、強化のプロセスを一気に流し込む。対象は、グレンが握る剣そのもの。
剣身に走る歪みが、一瞬止まる。次の瞬間、剣は淡い光を纏い、重力に抗うようにグレンの手の中へと引き戻された。
「……は」
グレンが荒い息を吐きながら、剣を握りしめる。
「おい、道具野郎。今、何をした」
「剣を、“繋ぎ止める”ように強化しました」
通信越しに、グレンが笑う声が聞こえた。
「はっ……はは、そうかよ。お前、俺の剣の“心”まで理解しちまったのか」
彼はゆっくりと船内へ戻りながら、刀を鞘に納める。
「もう一つ、分かったことがある。己の力だけを信じてきた俺の剣も――結局は、誰かに“信じてもらう”ことで、本当の意味で強くなるんだな」
艦橋に戻ったグレンは、小さく笑った。
「レン。次はお前の番だ。あの渦の向こう、本当の意味で“理解”できるのか?」
レンは、操縦席の向こう、闇の奥を見据えた。
「……行くしかありません。俺たちの理解が、まだ足りているうちに」
(第3話へ続く)




