第3話「渦の向こうへ」
グレンの一件を経て、レンは、ブラックホール文明への理解を、さらに深めていく必要性を痛感していた。
「敵の攻撃は一旦、遠ざかったようです」
ヴェルミナの報告に、レンは頷いた。
「恐らく、様子見をしているんだと思います。俺たちが、どう対応するかを」
「これまでの敵とは、明らかに毛色が違いますね」
ドルシスが、険しい表情で呟いた。
「重力そのものを操る文明……もしかすると、わしの故郷が持っていた技術体系よりも、遥かに進んだ理論を有しているかもしれん」
レンは、集めたデータを一つ一つ、丁寧に読み解いていった。
「重力場の歪み方、エネルギーの伝達パターン……単純な“力”としてではなく、“空間の性質”そのものとして捉える必要がありそうです」
『マスター、興味深いデータを検出しました』
ゼロ号が、静かに報告する。
『先ほどの攻撃、単なる無差別攻撃ではなく、我々の技術水準を“測定”するための、一種の試験だった可能性があります』
「試験……つまり、俺たちを本格的に排除しようとしていたわけじゃない、ということか」
「はい。むしろ、対話の糸口を探るための、独自の“挨拶”だったのかもしれません」
レンは、その分析に、僅かな希望を見出した。
「なら、こちらから、理解を示す姿勢を、もっと明確に伝えるべきかもしれません」
「どうするおつもりですか」
「船の推進機構、そして装甲の強化パターンを、あえて相手に“見せる”形で、少しずつ調整していきます。俺たちが、彼らの重力理論を理解しようとしている、という意志を示すために」
こうして、レンは、慎重に、そして誠実に、ブラックホール文明への理解を示す試みを続けていった。
数時間後、再び通信に、断続的な声が響いた。
『……理解の、兆し……確認……』
「聞こえます! 俺たちは、あなた方を理解しようとしています。敵対する意志は、ありません」
レンは、必死に想いを伝えようとした。
程なくして、構造物の一部が、静かに開き始めた。
「これは……招かれている、ということでしょうか」
ヴェルミナが、緊張しながら呟く。
「行きましょう。理解するためには、直接、対話するしかありません」
レンは、覚悟を決めた。
こうして、レンたちは、スペースクラフトを、ブラックホール文明の構造物内部へと、慎重に進めていくこととなった。
果たしてその先に待っているのは、敵対か、それとも――新たな理解の道か。
(第4話へ続く)




