第10話「対峙への序章」
『ブラックホール文明が――既に、こちらの動きを察知している可能性がある』
集合意志の言葉に、レンは緊張しながら問いかけた。
「それは、どういう意味ですか」
『我々の観測網に、特異点領域の周辺から発せられる、断続的な通信の兆候が確認された。内容は解読できていないが、貴殿らの技術発展を注視している様子が窺える』
「向こうも、俺たちのことを、警戒しているということですね」
「はい」ヴェルミナが、険しい表情で頷いた。「先手を取られる前に、こちらから対話の機会を模索するべきかもしれません」
「対話……果たして、通用する相手なんでしょうか」
レンは、これまで対峙してきた、ザガレス皇帝、機械文明、虫族連合、そして観測者――それぞれ、対話によって道が開けてきた経験を思い返した。
「これまでもそうだったように、まずは理解することから始めるしかない、と思います」
その決意を胸に、レンたちは、来るべきブラックホール文明との対峙に向け、最後の準備を進めていった。
「グレンさん、剣の強化、完成しました」
レンは、幾晩もかけて理解を深めた成果を、グレンへと差し出した。
「おう、見せてもらおうか」
グレンは、受け取った剣を、じっくりと確かめるように握り直す。
「……悪くねえ。いや、正直、驚いたぜ。俺の剣の“癖”まで、しっかり汲み取ってやがる」
「あなたの剣は、あなた自身の生き様そのものだと思ったので。それを理解しないと、本当の意味での強化にはならないと思いました」
グレンは、僅かに口元を緩めた。
「レン、お前、本当に面白い奴だな」
準備が整う中、大陸に残っていたレティシアたちからも、心強い便りが届いていた。
「大陸の防衛、及び銀河連邦の内政は、こちらで万全の体制を整えています。安心して、宇宙での任務に集中してください」
通信越しに届く、レティシアの力強い言葉に、レンは深く感謝した。
「ありがとう、レティシア。必ず、無事に戻ってくるから」
「約束よ、レン。……それと」
レティシアは、少し照れくさそうに続けた。
「あんたなら、きっと大丈夫。あたし、信じてるから」
その言葉を胸に、レンは、ついに出発の時を迎えた。
「皆さん、準備はいいですか」
ガイウス、ヴェルミナ、ドルシス、獅堂グレン、そしてゼロ号――かけがえのない仲間たちと共に、レンは、重力耐性を備えたスペースクラフトへと乗り込んだ。
「行きましょう。ブラックホールの向こう側へ」
こうして、レンたちの物語は、これまでのどの戦いとも異なる、宇宙の深淵――特異点の領域への挑戦という、最大の試練へと突入していくこととなる。
(第6巻・完 第7巻へ続く)




