第8話「果たし合い」
三日後、グレンは再びレンたちの前に姿を現した。今度は明確な「果たし合い」の申し出だった。
辺境星系の荒野、観客はガイウス、レティシア、ヴェルミナ、そしてゼロ号だけ。
「道具野郎、支度はいいか」
グレンは刀を抜き、切っ先をレンへと向ける。
「お、俺と……戦うんですか? でも俺、身体能力は一般人以下で……」
「知ってる。だからこそ面白い」
グレンは笑った。
「最弱のお前が、どうやって俺の一太刀を凌ぐつもりだ」
「……凌ぐんじゃありません。俺は、逃げるだけです」
グレンが地を蹴った瞬間、その姿がかき消える。レンの短剣に仕込まれた空間歪曲場が、紙一重で斬撃を逸らした。
「……ほう」
グレンが足を止めた。
「今の一撃、俺の全力の八割は乗ってたはずだ。それを、その豆鉄砲みたいな短剣が防いだってのか」
「あなたの剣筋を、三日間ずっと観察してました。理解しようとしてました。だから、防御に必要な強化のポイントが、分かったんです」
グレンの目が、僅かに見開かれる。
「己の剣一本で強くなった俺と、道具を理解し尽くして強くなったお前。同じ土俵に立てねえと思ってたが……訂正だ」
グレンはレンの肩に、乱暴に手を置いた。
「お前は道具を強化してるんじゃねえ。お前自身の“理解する力”そのものが、宇宙で一番の武器なんだよ」
レティシアが、小さく息を吐いた。
「……認めたわね、あの傲慢な男が」
「レン。次の敵――ブラックホール文明とやらは、俺の剣じゃ多分歯が立たねえ」
グレンは、荒野の向こうを見据えた。
「だが、お前の“理解する力”なら、届くかもしれねえ。俺も付き合ってやるよ、道具野郎」
「……レンです」
「知ってるよ。ただ呼びたかっただけだ」
こうして、剣一本で異世界を統べた男は、道具を信じ続けた最弱の青年の傍らに、新たな盟友として名を連ねることとなった。
その夜、レンはヴェルミナから、気になる報告を受けていた。
「零崎殿、観測者から示唆された“ブラックホール”について、集合意志が独自の調査を進めていたようです」
「何か、分かったんですか」
「はい。星系の外縁、遥か彼方に、超大質量ブラックホールが存在すること、そして――そこには、既に高度な文明が根を張っているとの情報が」
「ブラックホール文明……」
レンは、拳を握りしめた。
「観測者が言っていた、通常の物理法則が意味を失う領域……そこに、文明が存在するっていうのは」
「詳細は不明です。ですが、いずれ我々は、その領域と対峙することになるでしょう」
この報告を機に、レンたちの物語は、宇宙戦争の終結と共に、さらなる高み――ブラックホール編へと向けた、本格的な準備段階へと突入していくこととなる。
(第9話へ続く)




