第6話「集合意志」
巨大な機械構造体の内部へと案内されたレンたちは、これまで見たこともない光景に、言葉を失っていた。
無数の光の粒子が、幾何学的な模様を描きながら空間を漂い、まるで生きているかのように明滅を繰り返している。
「これが……アルゴス集合体の“意識”ですか」
ヴェルミナが、興味深そうに周囲を見渡す。
『いかにも』
響き渡る声と共に、光の粒子が一箇所に集まり、人型のような輪郭を形成した。
『我々は、無数の演算個体が統合された、単一の集合意志である。此度は、貴殿らとの直接対話のため、擬似的な形態を取らせてもらった』
「初めまして。零崎レン、と申します」
レンは、緊張しながらも、礼儀正しく挨拶をした。
『貴殿の名は、既に把握している。理解に基づき、無制限に性能を引き上げる特異な技術体系――我々の分析班も、大いに興味を示している』
「それで、俺たちのことを、どう判断されるんですか」
レンは、率直に尋ねた。
『単刀直入に問おう』
集合意志の声が、静かに響く。
『我々アルゴス集合体は、宇宙全体における秩序と効率を追求する存在である。貴殿らの星系は、いまだ多くの非効率――感情による判断、資源の無駄、争いによる損耗――を抱えている』
「それは……」
『我々の傘下に入り、集合的な統治体制へと移行することを、選択肢として提示する』
その言葉に、レンは息を呑んだ。
「傘下に入る、というのは……つまり」
『貴殿らの自律的な意志決定を、我々の集合意志に統合することを意味する』
ヴェルミナが、静かに口を挟んだ。
「それは、実質的な支配、ということでしょうか」
『効率的な統治体制、と表現する方が正確だ』
レンは、拳を握りしめた。
(これは……ザガレス皇帝が掲げていた、弱者淘汰の効率主義と、根本は同じじゃないか)
「お断りします」
レンは、はっきりと告げた。
『理由を問う』
「俺たちの世界には、確かに争いも、無駄もあります。でも、それを乗り越えていく過程にこそ、意味があると思うんです。誰かに決めてもらうんじゃなく、自分たちで選び取っていく――それが、俺たちの在り方なんです」
集合意志は、しばらく沈黙した。
『……興味深い回答だ』
「俺の力も、同じです。誰かに強制されて発揮されるものじゃない。理解し、自ら選び取った先にこそ、本当の力が宿るんです」
『その主張、データとして記録する』
集合意志の輪郭が、僅かに揺らいだ。
『では、次なる提案をしよう。貴殿らの技術体系、及び意志決定の在り方が、真に我々の統治体制より優れているというのであれば――それを、実証によって示してもらいたい』
「実証、というと?」
『我が文明の一部勢力――統治への反発を続ける、異端の演算群がある。彼らとの対峙を通じ、貴殿らの真価を測らせてもらう』
レンは、緊張しながらも、静かに頷いた。
「分かりました。受けて立ちます」
こうして、レンたちは、機械文明内部の対立に巻き込まれる形で、新たな試練へと挑むこととなった。
(第7話へ続く)




