第4話「ワープの果てに」
光速突破の成功から数ヶ月、レンの研究は、さらなる高みへと進んでいた。
「ワープ理論……空間そのものを、折り畳むように移動する仕組み、か」
レンは、資料の山に囲まれながら、額に汗を滲ませていた。
「これは、これまでの延長線上にある技術じゃない。空間という概念そのものへの理解が、不可欠になる」
「レン、少し休んだらどうだ」
ドルシスが、心配そうに声をかける。
「大丈夫です。ただ……正直、これまでで一番、理解に苦労してます」
レンは、苦笑いを浮かべながら答えた。
空間の歪曲、次元の圧縮、エネルギー保存則との整合性――理解すべき事柄は、これまでの比ではなかった。
だがそれでも、レンは諦めなかった。仲間たちの支えを受けながら、少しずつ、着実に理解を積み重ねていく。
「ヴェルミナさん、この計算式、合ってますか」
「はい、概ね正しいかと。ただ、こちらの変数について、もう少し検証が必要そうです」
ヴェルミナも、持ち前の分析力を活かし、レンの研究を全力で支えていた。
そして、半年にも及ぶ研究の末――ついに、その瞬間が訪れた。
「ワープ試験、開始します」
完成したワープ実験機が、レンの強化を受け、静かに起動する。
「座標、指定完了。ワープ、開始!」
次の瞬間――実験機の姿が、まるで空間に溶け込むように消え去った。
管制室に、緊張した沈黙が流れる。
「……成功、したのか?」
誰かが、恐る恐る呟いた。
「観測班より報告! 指定座標にて、実験機の再出現を確認しました!」
その報告と共に、管制室に、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「や、やった……! ワープに成功したぞ……!」
「零崎殿、これは……もはや、地上の技術水準を、遥かに凌駕する快挙です!」
レンは、深い安堵と共に、額の汗を拭った。
「これで……宇宙への本格的な進出が、可能になりますね」
「はい。ただ――」
ヴェルミナが、表情を引き締めた。
「これほどの技術力を、我々が手にしたとなれば、機械文明側も、看過できなくなるでしょう」
その言葉が示す通り、程なくして、思いがけない訪問者が現れた。
「地上の技術発展、確認した」
再び姿を現した機械文明の斥候個体が、静かにレンたちの前に立った。
『貴殿らの技術水準は、我々の想定を遥かに上回るものと判断する。故に――』
斥候個体は、一拍置いて続けた。
『本格的な接触交渉のため、我が文明の中枢――アルゴス集合体の本拠地への招待を、正式に要請する』
「本拠地への、招待……?」
レンは、思わず息を呑んだ。
「これは……」
ドルシスが、険しい表情で呟いた。
「レン、これは大きな岐路になる。招待に応じるか、拒むか――その選択が、この星系全体の運命を左右することになるかもしれん」
レンは、拳を握りしめながら、宇宙という、これまでとは比較にならない壮大な舞台での、重大な決断を迫られることとなった。
(第5話へ続く)




