第7話「魔王軍との対話」
魔王軍の領土へと向かう道中、レンは緊張を隠せずにいた。
「魔王軍……本当に、話し合いで済むんでしょうか」
「事前の情報では、現在の魔王軍を率いているのは、かつての魔王とは異なる、比較的穏健な指導者だとのことです」
ヴェルミナが、資料を確認しながら答える。
「人類との全面戦争を望んでいるわけではなく、むしろ独自の統治圏を維持したい、というのが本音のようですね」
「それなら、話し合いの余地は、十分にありそうですね」
国境地帯に到着したレンたちを迎えたのは、意外にも友好的な態度を見せる魔族の使者だった。
「よくぞ参られた、人間の英雄殿」
「英雄だなんて、そんな……」
レンが恐縮すると、使者は僅かに笑みを浮かべた。
「謙虚な御方だ。噂には聞いていたが、実際にお会いすると、また印象が違うものだな」
案内された先、魔王軍の指導者は、意外にも若い女性だった。
「初めまして、零崎レン殿。私が、現在の魔王軍を統括している者です」
「よろしくお願いします」
「単刀直入に申し上げますが、私たちは、人類との全面対決を望んではおりません。ただ、我々魔族が、安心して暮らせる土地と、自治権が保障されるのであれば――大陸統一という枠組みへの参加も、決してやぶさかではありません」
その言葉に、レンは胸を撫で下ろす思いだった。
「俺も、力による支配を望んでいるわけではありません。皆が、それぞれの暮らしを守りながら、共存できる形を目指したいと思っています」
「その理念、しかと承りました」
魔王軍の指導者は、静かに頷いた。
「では、正式な協定の締結に向け、詳細を詰めていきましょう」
こうして、魔王軍との交渉は、驚くほど円滑に進んでいった。
だが――全ての勢力が、このように友好的に応じてくれるとは限らない。
「次は、神族との対話ですね」
ヴェルミナの言葉に、レンは表情を引き締めた。
「神族は、人間界への干渉を極力避ける、閉鎖的な勢力だと伺いました」
「はい。天空の神殿都市への訪問自体、容易には許可されないでしょう」
レンは、これまで以上に困難な交渉が待ち受けていることを、覚悟せざるを得なかった。
その頃、神殿都市では、一人の巫女長が、地上の動向を静かに見つめていた。
「……人間界に、面白い者が現れたようやなぁ」
京言葉を操るその女性――シズカは、神殿の窓辺から、遠く地上を見下ろしながら、意味深な笑みを浮かべていた。
「はんなりと迎えてやろうか、それとも――試してみるのも一興かもしれへんなぁ」
まだ誰も知らない。この神秘的な巫女長との対話が、レンにとって、これまでとは全く異なる種類の試練になることを。
(第8話へ続く)




