第1話「降伏の代償」
ドラケイン帝国の降伏から数日、レンたちは戦後処理のため、帝国の首都へと招かれていた。
「零崎レン殿。此度の戦、我が国の完全なる敗北です」
謁見の間、ザガレス皇帝が、これまでとは打って変わった、穏やかな表情でレンを迎えた。
「陛下……」
「もう、陛下と呼ぶ必要もあるまい。私はこれより、皇帝の座を退くことになる」
ザガレスは、静かに続けた。
「弱者を淘汰する効率主義……その理念は、貴殿の前に、無残に打ち破られた。だが、不思議と悔いはない」
「それは、どうしてですか」
「貴殿の力は、理解に基づいて、際限なく可能性を切り拓いていく。それは、私が信じてきた“強者による支配”とは、根本から異なる原理だ」
ザガレスは、僅かに口元を緩めた。
「弱者であっても、理解を積み重ねれば、強者すら凌駕する。……それもまた、一つの真理なのかもしれん」
その言葉に、レンは複雑な感情を抱いた。
「陛下、これからどうなさるおつもりですか」
「私はもう、陛下ではない。ただの、一人の敗者だ」
ザガレスは、静かに目を伏せた。
「帝国の統治は、より穏健な後継者に委ねることになるだろう。私自身は、隠遁の道を選ぶつもりだ」
こうして、大陸最大の脅威であったドラケイン帝国は、新たな統治体制へと移行することとなった。
だが、戦争の爪痕は、決して浅いものではなかった。
「零崎殿、こちらをご覧ください」
基地へと戻ったレンに、ヴェルミナが戦後の被害状況をまとめた報告書を差し出した。
「各地の被害状況、想像以上に深刻です。多くの村や町が、戦火に巻き込まれています」
レンは、報告書に記された数字を見つめながら、拳を握りしめた。
「俺の力で、何かできることは……」
「復興支援という形であれば、貴殿の強化技術は、大いに役立つでしょう」
ヴェルミナは、少し表情を和らげた。
「農具の強化、建材の強化……戦争のためだけでなく、人々の暮らしを立て直すためにも、貴殿の力は活かせるはずです」
その言葉に、レンは僅かに光明を見出した。
「そうか……俺の力は、破壊のためだけじゃなく、こういう形でも使えるんですね」
「当然です。強化とは本来、可能性を広げるためのもの。それを何に使うかは、常に使う者次第です」
こうして、レンたちは戦後復興という、新たな課題に取り組み始めることとなった。
だが、大陸の混乱は、これで完全に収まったわけではなかった。
「零崎殿、緊急の報告です」
ある日、伝令兵が慌ただしく駆け込んできた。
「ドラケイン帝国の後継体制に反発する一派が、独自に軍を編成し、混乱に乗じて周辺国への侵攻を開始したとの情報が入りました」
「なんだと……」
レンは、大陸統一への道が、決して平坦なものではないことを、改めて痛感させられることとなった。
(第2話へ続く)




