第10話「対抗策」
東部国境に到着したレンたちは、力を失った戦車の残骸を目の当たりにした。
「これが……無効化された状態、か」
装甲は元の旧式のまま、ただの鋼鉄の塊に戻っている。
「敵の遺物、確認されました! 巨大な水晶のような形状で、円形の陣地の中心に設置されているようです!」
斥候からの報告に、ヴェルミナが地図を確認する。
「あの遺物が発する“無効化の波”が及ぶ範囲内では、既存の強化効果が全て消失してしまうようですね」
「なら、その範囲内に踏み込まなければ、いいだけの話じゃ……」
「いえ、問題は、その範囲が徐々に拡大している点です。放置すれば、いずれ我が軍全体が影響を受けることになります」
レンは、拳を握りしめた。
「ゼロ号、例の対抗策、始めよう」
『了解であります、マスター!』
レンは、範囲の外縁に留まりながら、戦車一両を対象に、強化を掛け直す作業に取り掛かった。
「強化……!」
掌から流れ込む光が、戦車を包み込む。だが、範囲に近づいた瞬間、その光が徐々に薄れていくのが見えた。
「くっ……本当に、効果が打ち消されていく……」
『マスター、演算のサポートを開始します! 強化の再構築速度を、最大限まで引き上げます!』
ゼロ号の演算補助を受けながら、レンは何度も何度も、強化を重ね直していった。
「一回、二回……まだ、足りない……!」
額から汗が滴り落ちる。無効化の波に抗いながらの強化は、これまでにない消耗を伴った。
「零崎殿、大丈夫ですか!」
「まだ……いけます!」
やがて、幾度目かの重ね掛けの末、戦車の装甲に、僅かながら強化の光が定着し始めた。
「効果が……維持されている、のか?」
「はい! わずかながら、無効化の波を上回る強化速度を維持できています!」
ヴェルミナの報告に、レンは荒い息のまま頷いた。
「なら、この方法で……戦線を維持できる」
この対抗策により、レンたちは無効化の脅威に、一先ずの対応策を見出すことに成功した。だが、それは決して楽な戦い方ではなかった。
「これ、ずっと続けるのは、正直かなりきついな……」
レンは、汗だくになりながら、苦笑いを浮かべた。
「零崎殿、無理は禁物です。交代で休息を取りながら、対応していきましょう」
ヴェルミナの気遣いに、レンは頷いた。
この一件を境に、戦争は新たな局面へと突入していった。単なる兵器の性能差だけでなく、「強化」という概念そのものを巡る攻防が、戦況を左右するようになっていったのだ。
数週間にわたる激しい攻防の末、ザガレス皇帝率いるドラケイン帝国は、ついに全面降伏を申し出るに至った。
「終わった……のか、この戦争」
降伏の報せを受け、レンは深い安堵のため息をついた。
「はい。零崎殿の力と、決して諦めなかった意志が、この戦争を終わらせたのです」
ヴェルミナの言葉に、レンは静かに首を振った。
「俺一人の力じゃない。皆が、力を合わせてくれたからです」
こうして、大陸を揺るがした国家戦争は、レンたちの勝利という形で、一先ずの終結を迎えることとなった。
だが、これはまだ、大陸統一という、より大きな物語の、一つの通過点に過ぎなかった。
(第3巻・完 第4巻へ続く)




